「競争の戦略」 (Competitive Strategy) 

M.E. ポーター (著),
    土岐 坤 (翻訳), 服部 照夫 (翻訳), 中辻 万治 (翻訳)
    ダイヤモンド社


大阪ガスの永田さんの本を読んでいたら、ポーターの競争戦略という言葉が出てきたので
調べたところ、この本が出てきた。
しかし値段が5800円と高い!
仕方ないので図書館で借りることにした。
地元国分寺町の図書館には置いてなかったが
県立図書館から取り寄せてくれた。
旧版とともに貸してくれたが、新訂は注釈を追加したくらいでそれほど変わりはなかった。
いやー、時間かかったわ。
500ページにも届こうかというぶ厚さ。
これを読破するのは大変苦労した。
でも、まあ、なんとか感じはつかめた。

関西電力から学習院大の客員教授に出ていた西村陽氏の「電力改革の構図と戦略」を読んだことがあるが、
そのネタはかなりポーター博士のこの本の理論に依っていたことがよくわかった。

1章が競争戦略分析の手法 これが非常に緻密で詳しくて一度では理解するのは難しい

2章が業界環境タイプ別の競争戦略  これになると具体的になるのでわかりやすかったしヒントになった。

3章が戦略決定のタイプ これも割りと具体的なのでわかりやすかった

1章が大変である。ここを読破することに非常に骨を折るが、そこでしっかり学習すれば2,3章は読みやすい。
 競争相手のことをしっかり分析せよとある。
 参入障壁、撤退障壁を考えて、疲弊する競争をしなくてすむ戦略を考えよと
 いうのがポーター博士の持論のようである。
 非常に論理的に考えている。
 考える材料のために不断の情報収集が重要であると説く。
 やはり工学部出身の経済学者だとわかる。

自分としては、2章の成熟業界の競争戦略、3章の垂直統合の戦略分析が非常に役にたった。
以下では、成熟業界の競争戦略のコレダ!と感じた箇所を抜き出すこととする。



11 成熟期へ移行する業界の競争戦略  P311〜
成熟期は組織にどんな影響を与えるか  P326

  戦略の大転換、企業規模の増大、多角化の進展などによって組織の変化が必要になる。
組織構造とその企業の戦略との調和が必要なのは、成熟期でも同じである。だから、成熟期への移行時は、
組織構造とシステムの変遷の中で一つのの決定的な時期である。特にコントロールと意欲向上のシステムは、
ぜひともこまかく手直ししておく必要がある。
  成熟期の市場の要求は多様なことが多く、競争の優先順位をそれに合わせていつでも変えられるよう用意
するにはどうすればよいか、戦略レベルの問題としてはすでに説明した。コスト、顧客サービス、本当の
マーケティング(販売とは別の)に、もっと注意を注ぐ必要がある。新製品の導入よりも、既存製品の改良
に関心を向けなければならない。成熟期の事業に必要なのは、空疎な「創造性」よりも、こまかく気を配り、
実効をあげることなのである。
  このように競争の焦点を変えると、当然それを支援できるように、組織構造とシステムも改正する必要が
ある。従来とは別の経営活動の分野に光を当て、管理できるように作られたシステムが必要なのである。
もっと切り詰めた予算制度、いっそう厳しいコントロール、成果を基準にした新しい奨励制度、こういった
従来よりも形の整った制度が、成熟期の経営では求められているのである。棚卸資産や受取勘定といった財務
資産の管理も、いっそう重要になる。私設療養所やレジャー用乗り物等の業界は移行期を通り過ぎたばかり
だが、こういった業界でも、この種の改革がすべて企業の軌道修正に成功する決め手になっている。

  コスト競争力をつけるには、従来以上に職能部門間や製造部門間の調整が必要になる。たとえば、業界が
成熟期に入ると、それまでバラバラに操業していた各地の工場を相互に連携させて一体にし、うまく調整し
てゆかねばならないが、これは新しいシステムや事務手続きが必要なだけでなく、工場長の職務もすっかり
内容が変わることになる。
  こういう面でも、変化に対する抵抗が出てくることがある。常に時代を切り開いてきたし、品質も優れて
いると自負した企業にとっては、気の進まない価格競争や強力なマーケティング活動に身を入れるなど、
並大抵のことではないが、これについては前述した。こういう面の競争には、組織のずっと下のほう、製造
現場やセールスマンにいたるまで、反感を持つことは珍しくない。品質を落としてコストを下げることにも、
コストを細かく監視することにも、抵抗がある。その上、新たに必要となる報告項目、新しいコントロール、
組織間の今までにない交流、そのほかどんな改善も、すべての従業員の自立性を失わせ、脅威を加えるものと
とられてしまう。成熟段階に入ったら、企業はすべての階層の社員を教育し直し、新たな環境化で働く意欲
を燃え上がらせるように心がけていかねばならない。
 業界が成熟期へ移行するに伴って、企業内の環境が微妙に変わり、勤労意欲に影響することを、経営者は知
らねばならない。移行期の前の成長の時期には、急速に伸びている企業の従業員なら、昇進の機会も多かったし、
心を躍らせることも多かった。それに、仕事自体が満足を与えてくれたので、公式の社内制度という形で企業
への忠誠心を育てる必要もなかった。しかし、成熟状態がいっそう進んだ競争環境では、成長も魅力も興奮も
すべて色あせ、パイオニア精神や際立った個性も消えうせてしまう。このような状況になると、経営者の前に
は、手に負えぬほどむずかしい問題がいくつも現れる。

1 業績目標を引き下げる
  管理者の頭の中には、成長や利益について我慢できる最低水準が出来上がっているが、これを引き下げて
おかねばならない。管理者が従来どおりの基準を満足させようとすると、並外れて強力な地位を市場に築き
上げている企業でもない限り、長期的には、企業の健全な体質を著しく損なうような手を打つかもしれないか
らである。引き下げるのは、なかなかむずかしい。過去に成功をおさめてきたので、立派な業績を上げるのが当然のように、社内ではなっているからである。最高経営者も会社の目標を修正するのに全く同じ問題を抱えていることを一言、付け加えておこう。

2 社内の規律をきびしく
  先にも説明したように、成熟期の業界は、どこも同じように環境が変わろるが、こうした変化で社内には
ゆとりがもてなくなり、また取り上げた戦略を実施するには、いっそう厳しい規律が必要になる。これは、
地位の上下を問わず、あらゆる階層に有形無形に及ぶ。

3 以前ほど昇進が期待できない
  一人一人の昇進のスピードを今までどおり維持するのは、成熟の進んだ環境ではおそらく不可能になるだろ
う。管理者たちは、過去の経験から、よい成績をあげれば昇進するものと思い込んでいる。これがもとで、
移行の過程で多くの管理者が退職することがあるし、社長には会社全体から大きな圧力がかかる。経営者の
課題は、今までとは違った方法を考え出し、社員のやる気をあおり、功績に報いることである。移行期に、
この面にかかる圧力を回避しようと、今までどおりの成長と昇進をつづける望みを多角化に託す会社もあるが、
これだけの理由で多角化に進むには重大な誤りを犯すことになりかねない。


4 社員の気持ちに気を配る
  成熟期の業界が生み出す新しい環境に適応し、戦略の重点を移してゆこうとすれば、もっと社員の気持ちに
関心を払う必要が出てくる。組織の働きを利用して会社のまとまりを強め、社員の忠誠心を育てる必要がある。
社員のやる気を引き出す方法も、急速な成長段階で間に合っていた粗いものではなく、もっとこまかく気を配った
ものにすべきである。市場の成長に興奮し、それに報いを見出してきたこれまでとは違って、社員の心の支え
と励ましが必要になる。こういう安全装置があってこそ、社内の雰囲気を変えるという、必要だが、困難な
変革も手がけられるのである。

5 分権化から再び中央集権化へ
  成熟期に入ると、原価管理に重点を置く必要から、それまで工場単位などで分権化し、利益責任をもった
プロフィット・センターを作る方向へ進んできた流れを、逆転させる場合も出てくる。プロフィット・センター
組織の狙いが、業界の発展に遅れることなく、つぎつぎと新製品を売り出し、新しい市場を開拓することに
あったのなら、なおさらそうである。
  職能組織の色彩を強める方向へ戻れば、本社の管理が強化され、間接費が大幅に削減でき、組織間の調整も
たやすくなる。成熟期の経営には、企業家精神でぐいぐい引っ張ってゆくよりも、全体を見て調整するほうが
大切だといえる。クラウン・コーク&シール社は、このように考えて、180度の転換を成し遂げた。苦境に
あるテクスファイ社も繊維部門で同じ試みをしているところだし、バーガー・キング社も、現在この方法をと
ってマクドナルドに戦いを挑んでいる。

移行期業界の社長のあり方
  業界が成熟期に移行するとき、特にこれまでに述べたような戦略の修正が必要な場合には、会社の「生き方」
を改めよ、というシグナルが出ているわけである。急成長や新市場開拓が呼び起こす興奮は去り、代わって、
コストを管理し、価格で競争し、積極的にマーケティング活動をする、といった時期になる。このような経営の
あり方そのものを改めるのは、社長にとってゆるがせにできない責任である。
  社内の雰囲気が、社長の意に反した方向へ変わっていくこともある。社員には以前ほどチャンスを与えたり
昇進させてやれないのに、業績だけは、こまかく作られた書式で詳細に評価しなければならない。こういう環境
では、以前のような、なごやかで親密な関係も維持しにくい。組織が最も必要とするものが変わると、トップ経
営者に求められる手腕もまた変わる。ぐんと厳しい原価管理、職能部門間の調整、マーケティングなどすぐれた
手腕は、急成長の業界で企業の形を整えていくのとはまた別の手腕なのである。新たに必要なのは、戦略策定と
内部運営の両面にわたる手腕なので、身につけるのも倍むずかしい。未開地に挑もうと燃えていた気分や感情は
社長から消えうせ、代わって、どのようにして企業を支え、生き残らせようかかと案じる、重々しい気分がつのっ
てくるのである。一種の不安症状があらわれることも稀ではない。
  このように、成熟期への移行は、社長にとって苦難の時期となることが多い。誰にとっても同じことだが、
とりわけ創業経営者にはそうである。不幸な結末とはいえ、よく目にする例を挙げてみよう。

● 移行期であると認めない
変化が必要だと社長が理解できず、だから変化を受け入れない。あるいは、必要な手腕を社長が持ち合わせない。
その結果、従来の戦略や組織編制を頑なに守る。移行期に限らず、企業が逆境に陥り、戦略を改めなければなら
ない困難な時期に、この種のい硬直した反応をみせることは珍しくない。

● 経営の現役から退く
会社の新しい経営方針に不満を抱くとか、新しい環境が求める経営手腕には不向きだと自覚して、社長の実権を
譲り渡す。
 
  業界の移行期には社長は大きな影響を受けるが、ここから重要な意味を汲み取らなければならないのは社長一人
ではなく、多角化企業の本部経営者も同様である。社長に必要な手腕や会社運営方針が変わるのと同じように、
成熟期の事業では、それぞれの事業単位の管理者を評価する基準も改めなければならない。成熟期に入った事業部
の経営者を交代させるのがよいのは、こういう理由からである。多角化企業ではよく見られることなのだが、
事業部が置かれている戦略的な状況がまったく変わっていても、そんなことはおかまいなく、事業部の管理者に
同じ基準を当てはめたり、ある状況に優れた管理者は他の状況でもうまくやれると考えてしまったりする。成熟期
への移行が経営者にどういう意味をもつか、よく注意を払えば、このような誤りを避ける一助になる。