「キャノンの人事革新がすごい」
伊藤 晃 (株)日本能率協会コンサルティング シニアコンサルタント
キャノンの人事革新のお手伝いをした日本能率協会のコンサルタントの著書であるので
キャノンにとっては手前みそとならない利点がある。
そのようなうがった見方がなくとも素直に話が聞ける。
なかなかいい話が詰まっていると思った。
「実力主義による終身雇用」 成果主義という言葉は使わない
結果平等ではなく、機会均等を踏まえた公正・公平さを追求
キャノンの企業理念と行動指針
「共生」思想と呼ばれる企業理念
「世界の繁栄と人類の幸福のために貢献すること、そのために企業の成長と発展を尽くすこと」
であり、
「文化、習慣、言語、民族の違いを問わずに、すべての人類が末永く共に生き、共に働いて、幸せに暮らしてゆける社会」
を目指している、と説明されている。
「人類」を「社員」に「社会」を「会社」に置き換えてみて欲しい。
人事上の基本理念としても全く違和感がない。
→ これは筆者が考えたことなのか?それともキャノンの人事担当者が言ったことなのかよくわからない
こういうふうに置き換えることは理念としていいのだろうか?やや違和感を感じるのだが…。
5つの行動指針
三自の精神 (自発、自治、自覚)
自発:自ら進んで積極的に行う
、自治:自分を厳しく管理し、ルールに沿った行動を取ること
、自覚:自分の置かれている立場や役割、状況をわきまえること
実力主義
国際主義
新家族主義 グローバルな経営であっても、雇用など人的な面は地域性を考慮する(御手洗社長)
健康第一主義 (これは初代社長御手洗毅氏が医者だったこともあるがユニーク)
思いを主張する被評価者研修(2003年)
12000人研修の狙いは、人事評価だけでなかった。
◎ 「キャノン行動指針」をいかに浸透させていくかが加わり
行動指針の中でもっともベースになる「三自の精神」を
どのようなアプローチで「腑に落としてもらうか」が焦点となった。
一方的な説明では伝わらない、強制的な方法は逆効果、
職場に戻ってからのフォローをどうするか、
管理者の巻き込みは…
いろいろな角度から議論を重ねた末、
まずは自分の思いを存分に主張する体験が重要だとの結論に達した。
模擬的だが、「自発」を経験するのである。
そうだ、そうだ!!! 共感!!
やった内容
「私の主張」実習
@「私の主張」の相互紹介
会社や職場の魅力と心配な点、および主張点(問題意識、意見、提案)
Aグループ討議
グループで主張を決める 徹底的な討議によって自分の「思い・発信・行動」への気づきが起こる
→ これが非常に大切なことだ
リンク&モチベーション社の小笹さんの言う「unfreeze」(解凍)状態で
これが起これば、変化を許容できるのである。
自ら変わろうとするようになる。
と思ったらちゃんと語録にあった。
◎「正解」を求めるのではなく、自分で気がつき行動するのがMAP(My Action Program)
Bプリゼンテーション
「キャノン行動指針」
@読み込み
Aフリーディスカッション
理解の強制ではなく、自然に自分で考える
How
参加スタンスを明確に! 「キャノンは自分の思いをもっと主張していい会社である」とのメッセージ刷り込み
これが「エンジン」となった。
主張に例外を作らない 迷ったら言え!を原則
遠慮せず、「こんなことを言ってもいいのか」を主張すべし と後押し
ミッションゲームの採用
@わが社の魅力を20項目列挙せよ
A 〃 心配事項を 〃
B「ここはおかしい!」という主張を3つせよ
C「こうすべき」という提案を1個出せ
→ これって使えるな。
こういう参画意識を持った研修にすれば効果抜群だろう。
聞く方は聞きたくないこともあって大変だろうが、会社のためには非常に重要なことだと思える。
自律した強い個人を育てるALP研修(2004) 管理者層対象
企業にとって、優秀な人材を確保し、育成し、パフォーマンスを高めるという人材育成課題は
人材以外の資源がないという日本の特性からみて
現実的な意味で重要な経営戦略・経営課題となっている
◎ キャノンは「人」に関するコア・バリューが明快に打ち出されている企業
企業理念・経営理念・社是等は、「当たり前」にすべきことがらの筆頭だと思うのだが、
意外に現実はそうなっていない。
企業理念が語っている価値観を真に理解するには、
それが生まれた背景や意味を理解するだけでなく、
「自分にとって」の意味をみつけ、
「自分にとって」の指針となっていなければならない。
それには、その理念に「共感」することが必要になる。
企業理念が重要であるならば、社員がそれをいつも意識して行動するよう、
繰り返し取り上げ、語り、考えてもらう必要がある。
すなわち「当たり前」にしていくのである。
創造や革新と言うと目新しいものを探そうとしがちだが、内側をしっかり見つめることも大切だろう。
立派な理念や抽象的な言葉でなく、「これがわが社の当たり前」という地に足が着いた考え方や
行動指針をはっきりさせることから始めてはどうだろうか。
→ 同感
特に、発電所の安全や信頼性は、所員個々の「当たり前」の行動に依っているのだとつくづくと思う。
当たり前のことを当たり前に淡々とやっていく。それが基本だ。
これを安全文化ともいうと自分は解釈している。
◎ 研修で組織の活力を取り戻す
研修という施策で、「三自の精神」の浸透にトライしたが、
ひとつの実感は「あのような非日常的な場で、人は自分自身をじっくり振り返り、元気を取り戻すのでは
ないか」ということである。
→ 今回のアクションラーニングで全くこういう気分を味わっているのでよくわかる
◎ 傾聴の重要性
主張だけでなく傾聴も活力を回復する効果がある。しかし、傾聴だけが長く続くとかえって疲労してしまう。
傾聴は主張とセットで行われるのが効果的である。
「早わかり」が一番問題であり留意すること。新しい発見につながらないからである。
最後に面白かったのが「我々はどのように育てられてきたか?」の管理者人材育成研修である。
自分がどのように育てられてきたかを議論してもらう。
これは非常にいい試みである。
その結果、
・幅広い仕事や修羅場を経験したことが自分を成長させた
・業務を通じて広がった人間関係が大きかった
・達成感のある仕事を経験できたことがおおきかった
など、仕事を自分が成長させたという意見だけではなく、
・責任のある場面をタイミングよく与えられた
・上司、先輩の仕事に向き合う姿勢や信念から影響を受けた
・上司が自由に仕事をやらせてくれた
・失敗してもまたチャンスを与えられた
という、自分の育成と上司のマネジメントの関わりも列挙された。
自分を振り返ってみたとき、
自分の思ってもみない配属で新たな能力を発見することができたということが強く印象に残っている。
最初は何でこんな仕事をしないといけないんだよと不満に思っていたがやり始めるととても面白く生にあっている
という喜びを感じたことが何回かある。
上司の人事の妙というか、そこまで資質を見抜いてくれていたんだなあという感謝の念を持っている。
自分ではわからない、気づいていない能力を上司は高いところから見抜くことができるんだという
畏怖の念をもった。そういう上司に将来はなりたいと強く思った。
責任を持たされてそれを達成したときの喜びというのも非常に大きい。
若い人が、どんな小さなことでもいいから自分に任せてやらせて欲しいということをよく訴える。
その気持ちはすごくわかるので、できるだけそのようになるように仕向けている。
こういう振り返りというものも大切だと思う。