「理系の経営学」
  宮田 秀明  東京大学工学系教授  日経BP社

「哲学」が大事  日本の「経営」にとってみれば、哲学が中心になったパターンと
            明治の日本の経営を支えた、哲学の力
             すなわち、仏教哲学、儒教哲学、武士道精神
 
            技術と経済が伸長すると哲学の影が薄くなり、経営の水準が落ちる
             ⇒ 戦争へ突入


            戦後の経済成長を支えたのは優れた哲学

               それが高度成長をもたらしたが、哲学を置き去りにする悪い風潮でバブルへ、そして崩壊

             哲学のない経営は「低次元」

            哲学の取得は技術以上に難しい。
           哲学力は実践からしか生まれない。
           MBAやMOTを学んでも、それだけでは哲学力は育たない。



     ◎ 企業経営においても、国家経営においても、哲学は人に根本的な力を与える。
       かつて哲学力を備えた優秀な経営者を輩出した時代は、明治時代にせよ、戦後の動乱期にせよ、
      日本が最も困難な状態に置かれ、多数の難しいプロジェクトを実行する以外に活路を見出せなかった時代である。    
      現在も日本が最も困難な状態に置かれている時代である。
        小手先にの知識や技術だけでは活路は開かれない。経営のスキームをいかにMBAで学ぼうともそれだけでは限界がある。
       「経営」を目指すものは、あらゆるシーンで困難なプロジェクトへ挑戦し、哲学のある経営力をつけなけてはならない。


「ビジョン」の力
      経営からビジョンがなくなると、経営はきわめて近視眼的になり、目前の売り上げやコストにしか目がいかなくなる。
         ⇒ いずれ必ず敗退する。

       ビジョンを持つということは、本日的な価値を認識し、その価値を実現すること。
          決して、儲かりそうだからやろううというものはビジョンではない。


「ビジョン」をもとにコンセプトを創造せよ

     コンセプトとはビジョンをもとに作った基本概念である。

「未来予測」力が経営の意思決定を左右する
     分析、モデリング、シミュレーションの3段階を踏まえた的確な技術をつけないといけない。
     

「変化対応力」
     「カイゼン」 日常業務のプロジェクト化
     すべての業務に「完璧はない」。絶対により優れたやり方があるはずである。
     この考え方を哲学にしてルーティンをプロジェクト的に捉える。
     結果としてルーティンもカイゼンされるし、発想も行動も広がって能力も向上する。
     こうして人と組織を日常的に変化に対応できるようにしておくのだ。

     組織にとって最悪の人間とは、いままでどおりやって何が悪いのでしょうかという発想の人である。
     彼らは進歩を拒否する。
     けれども、生き物としての組織は人とともに進歩しなければ生き残れない。


「経営におけるリーダーシップ」
   構想力  最も重要  組織における個人差は 1:100
   技術力                          1:3
   人間力                         1:10

これほどの開きがあるため、
低い技術力しかない人でも高い技術力は理解できるが
低い構想力しかもっていない人が高い構想力を理解することは大変難しい。

  
    
「リアルオプション」

プロジェクト評価をいかに正確に予測、推定できるかということが非常に需要な時代となった。
過去の延長線上で将来を見通せる時代ではなく不確実性が常につきまとう。

現在のように、有益なビジネスモデルや社会システムが急激に変化する不確実性の高い時代には、
今日の投資によって作り出される将来の収益機会の選択肢、すなわち戦略的投資オプションを
どのように構築するか、ということが、経営者の最も重要な任務のひとつとなる。
  
リアルオプションの背景にあるのは条件により結果が変わる非線形の損益線を持つ条件付き意思決定の考え方であるが、
このような投資戦略の立案を行う際の決め手となる。


「経営者の必要条件」

哲学が優れていて経営者になる人
ビジョンが強烈で  〃
コンセプトづくりができる創造的能力で 〃
論理的な問題解決能力で経営者になれる人
的確な意思決定と実行力で 〃

経営者にはいろいろなタイプがある。

しかし、
調整能力が高くて経営者になる人
技術に明るくて  〃
財務に強くて   〃
といった表現は疑問だ。
こうした能力はもちろん必要だが、それだけでは経営者にふさわしい資質を満たしているとはいえない。
調整能力が高い人とリーダーシップが取れる人とは根本的な違いがある。
哲学もビジョンもコンセプトもないが、リーダーシップを取れることはありえない。


挑戦的なプロジェクトを繰り返す技術者は自然に優秀な経営者に育っていく。
プロジェクト経営と企業経営はほとんど同じである。
しかもプロジェクト経営のほうが、多くの場合挑戦的でリスクと責任も重い。
経営者の優秀さは、それまで取ったリスクと責任の大きさを積分したものに比例する。


「理系ベンチャーはなぜ挫折するか」

起業の原点が技術力や技術またはビジネスのコンセプトである場合が多いが、
その上位には哲学とビジョンが必要なことも認識しておかなえばならないだろう。
ある段階で、しかりした哲学を持って、明確なビジョンを獲得し、語れるようになってほしい。
この技術はこういう価値を持っているので、これだけの市場価値を生み出し、相当の利益を生み出すだろうという
合理的計算型のベンチャーよりも、
この技術を広めて人々をこのように幸福にしてあげたいといったビジョン駆動型のベンチャーの方が
長い目でみた成功確率が高いといえる。

哲学とビジョンが明確な方が、いろいろな局面でより正しい意思決定を行えるからだ。

「まず哲学とビジョンありき」
経営に哲学とビジョンが不足しているとどうなるだろうか。
気がついたら世界の変化から取り残されたポジションに置かれていたり、
不活性化した組織をかかえていたりすることになりかねない。
生き物としての企業が成長したり力を維持するためには、変化を続けなければならない。
ではどのような変化をすべきか?
そんな難しいテーマに方向を見出してくれるのが「哲学とビジョン」である。


「エンパワーメント」
若手のメンバーにモチベーションを与え、成長を促し、結果として組織を成長させる仕組みのことだ。
近年、このエンパワーメントが企業組織の現場などで円滑に進められていない場合が多い。
ポジションが変わらず、以前よりかえって意思決定権を委任されていない場合が増えているようなのだ。

35歳ぐらいまでに、なるべく挑戦的なプロジェクトの中で責任ある業務を任せられると、
メンバーは間違いなく成長する。