「幸福な偶然」をつかまえる 

 日野原 重明  光文社


日経ビジネスでワタミの社長の書評を読んで興味を持って読むことにした。
現在94歳とは思えない迫力である。


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著者は英国の宗教詩人による詩の一小節を引用している。
「天空に大きな円を描きなさい。その円はあなたの代で完成することはできないかもしれない。
 でもあなたはその円の弧になることができる。」
これを読んで、私は自分の人生を通して取り組もうとしていることの意味が明確になり、
気持ちが軽くなった気がしている。

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この引用は完全ではなかった。

正確には次のような文章だった。
これは完全に引用すべきである。

ビジョンは大きくしなさい。

天空に大きな円を描きなさい。その円はあなたの代で完成することはできないかもしれない。
でもあなたはその円の弧になることができる。

小さな円だったら、自分一人で描ききることができるでしょう。
しかし、それは小さな円でしかない。
大きな円は、次に従う人さえ作っておけば、大きな円として実感されるのです。」


 大きな円の孤になる覚悟と、誰が反対してもやるんだという勇気をもつ、
これが自分の生きてきた成果を後世に残すために必要なことです。




「幸運な偶然」とは日野原先生が大好きな言葉で
「セレンディピティ」という造語。

語源は「セイロンの3人の王子の物語」である。
セイロンはアラビア語でセレンディップと呼ばれている。
3人の王子がインドへ旅をしている途中でいろいろな事件に出会い、人間として生きるために必要な知恵を、
目の前にある問題や真剣に取り組む勇気によって、
思いがけなく捜し求める魔法が自分たちの中にあることを発見する物語

18世紀のイギリスの作家ホーレス・ウォポールが友人への手紙の中で「セレンディピティ」と名づけたもの。


王子たちは、目の前にある問題や物事に真剣に取り組む勇気や知恵があってこそ、
求める答えが見つかるものだということ、捜し求める魔法は自分たちの中にあるということを
最後に発見し、学んだのであった。

Serendipity

「幸運な偶然」のほかに「掘り出し上手」とも日野原先生は訳して使っている。


後半は自叙伝的にまとめてられおり、
先生の「セレンディピティ」の解説といっていいものであったが
つねに感謝の念が出ておられた。

医者の心構えが書かれているが、これは何にでも共通だろう。

◎ 医者は聞き上手でなければならない。
  患者と目線を同じにし、手を取り静かに座って患者の話を聞く。
  このポーズの中に医師と患者の心のコミュニケーションがつくられるのです。


最後の勧めには応えるべきだろう。

「自分はいくつ幸運な偶然をつかまえてきたか」
を数えてみてください。
ためしに紙に書き出してみると、きっと詩のような自叙伝が書きあがっているはずです。



あと、ナレッジマネジメントに関する記載がありました。
 (アメリカでは、)全く別の学問の世界の人と話をすることができる。
 そんな自由な雰囲気の研究所であったのです。
 日本には「学閥」という言葉に代表されるような閉鎖的な雰囲気が学びの場を占拠しています。
 研究も学習も遊びも、同じことをやっている仲間としか付き合っていないことが多いものです。
 利根川さんの持っている遺伝子は、彼が留学をしたことで、その留学先で根付き、成長しました。
 いいかえると、京都大学ではなくて、アメリカの畑が彼の種に合っていたのです。


キリスト教の牧師と生まれて医者になった日野原先生なので聖書がところどころでてきますが
いやみは無く、すーーと入ってきます。
非常にリラックスして読める本です。