小倉 昌男 経営学   日経BP社


宅急便の創設者、ヤマト運輸小倉昌男さんの唯一の著作、興味深く読んだが期待どおりの本だった。

2代目社長として、創業者である父が成功していた近距離トラック輸送のビジネスモデルに決別し
宅急便の構想を持ち、その成功を確信し、周囲の冷ややかな目の中、見事に成功させた手腕は
すさまじいものがある。
「サービスが先、利益が後」とのキャッチフレーズは成功の確信がなければ言うことができない
セリフである。
構想力が備わり、人徳を持ち、決断力と信念のある経営者の鏡のような人である。

セミナーや異業種交流で学習し、それを実践して成功したことも正直に書いている。


また三越の岡田社長のひどかったことも知った。第五水準の経営者である小倉さんが
我慢ならなかったことが2つ。
三越岡田社長の利益主義で業者を理不尽に圧迫したこと
そして運輸官僚の融通のなさ
であった。
人をけなすことのない人物であったであろう小倉氏がこれだけ主張したのであるから
さもありなんと十分理解できる。

宅急便ビジネスはあたかも電力ビジネスと似ている。
ネットワーク型ビジネスなのである。
ユニバーサルサービスを達成するために初期に多大な投資が必要であり、
損益分岐点を越えれば、あとは利益がふくらむ構図。
ただ総括原価で守られた電力ではなく、一般のトラック運送会社が全国規模のネットワークを
築き上げるのは並大抵のことではなかった。
しかし、小倉社長は、小荷物が絶対儲かるという確信があった。
kg当たりの料金で行くとずっと高いのである。
キーワードは「荷物の密度」。
ジャルパックの旅行というサービスも商品になるということが大きな刺激に。
サービスで市場が」できる。宅急便というサービスを買っていただく。
大物大量輸送とは逆を行く発想であるが、
今やまさに、少量多品種の時代となった。
これを30年前に考え付くのであるから、構想力があると言える。
しかし、それもヤマト運輸が行き詰まっていたから考え付いたことであった。

ほとんどみんな反対の中で、社長がそんなにしつこく言うなら本気で考えてみようか 。
こんなことを言い出したのは、なんと労働組合の幹部たちであった。
彼らは、ヤマト運輸の経営が危機的状況に陥っているのを真剣に心配していたのであった。

サラリーマン経営陣は、ややもすれば自己責任の心が乏しく、付和雷同的な思考、行動を取る傾向が
ある。

オイルショックの際(S48年)、縮小均衡に陥ったとき、私は組合員の解雇は絶対無いと約束し、
それを守った。組合はかねてよりその件に感謝の気持ちを持ってくれていたのである。

かくして昭和51年2月に黒猫ヤマトの宅急便がスタートしたのであった。

クロネコのデザインの元となったのは、社員の子供が書いたイラストであった。
「母猫が子猫を運ぶように荷物を確実に運びます」というメッセージに創業者の康臣社長が共感し、
元祖であるアメリカの大手輸送会社アライド・ヴァン・ラインズ社に使用許可を得て、図案化したもの。
ラインズ社のシンボルマークは三毛猫であった。



話は変わるが「小物」がいいというのは、
最近バランスシートを勉強して知った。
製薬会社は有形固定資産が少なく現金をたくさん持ち、無借金経営である。
これも「小さい」製品を扱っているからに他ならない。物流コストも安く上がる。
一発当てれば大もうけであるのである。

逆に自動車は大きな工場、物流コストがかかる。
ビール会社も物流コストが大きい。

てな、ことから、売値は、
鉄鋼は1トン  ○万円
自動車1トン  ○○○万円
では、薬で一番高いものはkg当たりいくらか?
という問題があったので1億円くらいか?と思ったのだが、
実に140億円だそうである。(武田の心臓病の薬???)


このように小物を扱う商売は儲けが大きいのである。
一番儲かっている商売が「金融業」というのがその極めつけかも知れない。
重さがないから物流コストがないのである。うーーん。
とうなる。

そうやって考えれば電気だって重くないじゃんと思うのだが、
それを作るまでがものすごい重い。また流通コスト(電力輸送:託送)も重い。
したがって、一番儲けが出るところは電気の「販売」だろう。
お客様の立場にたってというのは、
そのニーズにしっかり応えれば「軽い」だけに利益が大きいのである。
知恵を出してお客様を喜ばせいいのである。」
目を社内ではなくしっかり外に向けましょう。

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それでは、また本題に戻りましょう。

「安全第一、営業第二」

これで例のトヨタつながりがわかりました。
トヨタが参考にした小倉社長のモットーですが

サービスとコストはトレードオフ(二律背反)の関係

経営者の仕事とは、この問題を頭に入れ、そのとき、そのときで
どちらを優先するかを決断することに他ならない。

宅急便事業を始めるに当たって私が決断したのは
「サービスが先、利益は後」 このモットーを金科玉条に守って欲しいと宣言

設備投資や社員採用に当たっては
「車が先、荷物が後」
「社員が先、荷物は後」


出向中に総務部長として安全担当だったとき、静岡署から
模範的な事業所があるから参考にしろ、見てこいと言われて訪問。
その工場の経営者の話を聞いて感銘

安全は、要するに経営者の心構えによるところが大きい。
それが彼の意見であった。
工場には大きな緑十字の旗が飾られていた。
それはどこにでも見る光景である。
違うのは、壁一杯に大きな字で
「安全第一、能率第二」と書いた紙が張ってあったことである。

前は、本当に労災事故が多かった。
でも、人命の尊さを考えたとき、
何としても事故を減らさなければならない。
それで考えたのは、能率を上げることだけを言っているうちは事故はなくならないだ
ろうと
いうことだった。

その気持ちを表すために、
「安全第一、能率第二」という標語を工場内に掲げた。
時間がたつにつれて安全の実績は徐徐に上がったが、能率は決して落ちなかったとい
う。
「安全も能率も、どちらもしっかりやれと言っていた時分は、
結局どちらも中途半端でしたね」
との工場経営者の言葉は、胸に響くものがあった。



どんな工場へ行っても「安全第一」の標語が掲げられていないところはない。
しかし安全第一の言葉は、マンネリの代名詞のようなもので、どれだけ実効を上げて
いるか疑問である。
というのも、第二がないからである。


何でも「第一」の社長は、「戦術レベル」の社長である。
うちの会社の現状では何が第一で、何が第二、とはっきりと指示できる社長は、
「戦略的レベル」である。
社長の役目は、会社の現状を正しく分析し、何を重点として取り上げなければならな
いかを選択し、
それを論理的に説明すること、つまり戦略的思考をすることに尽きると思う。



◎サービスの差別化
  ライバルに決定的な差をつけるのが「サービスの差別化」
  「早く」着くこと。
   「翌日配達」でお客様に感動を与えることができた。



◎2次産業と3次産業の経営の違い
 商工会議所役員時代のセミナーから学んだこと。
 3次産業、特に運輸やホテルのようなサービス業は、「在庫」を持つことができない。
 今日売れ残った座席や部屋を明日売ることは不可能である。
 だから、小規模なのは当たり前で、その代わり、他店舗化しなければならない。
 また、販売の機会損失を防ぐためには、どうしても長時間営業をせざるを得ない。
 ただし、長時間営業を必要とするから長時間労働をさせるというのは間違っている。
 とにかく、3次産業の営業が、週休2日だったり、1日8時間んすることが近代化と考えるのは
 大間違いである。

うーーん。なるほど。2次産業と3次業では同じ手法は通用しないのか。
電力会社は3次産業のサービス業だよな。
と改めてかんがえさせられた文章だった。


◎「業態」という概念
業態化抜きにビジネスモデルを考えることはできない。

スーパーは安く売るところに、コンビには便利さを売るところに特質がある。
業態が違えば、経営の論理が違ってくるのは必然。


◎「全員経営」 上智大社会経済研究所 篠田雄次郎教授
 いわゆる西ドイツ型の労働者の経営参加とは異なる。
 共同体経営では、ともに知り、ともに働くという姿勢が中心。
 従業員が自発性を高め、自己管理をしてゆくことに特色がある。
 そのためには、経済の動き、経営の状態、人事など経営に必要な情報を、同時に従業員にも
 提供し、同じ目的意識を持たせることが必要。
 自発性を高めるには、社内のコミュニケーションの改善、小集団の活用、経営の成果配分が必要。
 成果配分は、みんなで考え、その決定は経営者に任せる。
 問題は質であり、量ではない。
 篠田教授は特にコミュニケーションの重要性を強調された。
 社長の持っている情報と同じ情報を従業員に与えれば、従業員は社長と同じように考え、行動するはずである。

 ・仕事の際に従業員が上司の監督下を離れ、外に出て行くのが必然の運送業では、
  個々の従業員が経営目標に向かって自発的、自主的に行動してくれると大変ありがたい。
  
  ⇒ ドライバーの呼称を運転手から「セールスドライバー(略称SD)」に変更
    セールスドライバーはすし屋の職人
    職人がスターでなければならない。
    (かなりSDに権限が委譲されている。)
    宅急便では、一番上にフォワードであるSDの名前を連ねて書き、
    一番下のゴールキーパーのところに店長の名前を書くように組織図を変更。


宅急便をはじめて気がついたのは、これまで荷主の輸送担当者にあごで使われていたという感じだったのが、
集荷に行っても、家庭の主婦から必ず「ありがとう」「ご苦労様」という言葉をかけられることであった。
これまで聞いたことのない感謝の言葉を聞いて、現場を回るドライバーたちは感激してしまった。
自分のやった仕事がこんなに感謝されるとは思ってもみなかっただけに、
嬉しく、そして働き甲斐を感じたと、異口同音に話すのであった。

◎ 「全員経営」の精神は、会社の企業文化である。
 宅急便のSDは、優しく親切な人が多いといってお客さまに褒められることが多い。
もちろん社員に対する研修は一通りやっているが、サービスは受けるお客の立場に立ち、
どうすべきかを判断して実行するという、ヤマト運輸の企業文化が、
社員の体質にしみ込んでいるからだと思っている。

日本で労働者の管理を基本的に規定しているのは、労働基準法である。
これまで経営者として働いてきて疑問に思うのは、労働基準法は労働の長さのみを問題にしていて、
労働の質とか密度を問題としていないことである。
 ⇒ 全く同感。新入社員の時に感じたことである。

公正さを求めるためには、労使間に信頼関係がなければならない。
命令なし、監督なしで、労働者が自律的に働く「全員経営」体制は、
労使間の信頼を前提としている。
3次産業になじむ全員経営の考え方だが、2次産業にも十分通用すると思っている。


小倉さんは、SDに対して、お客に好かれる寿司屋の職人になって欲しいと希望すると
同時にサッカーチームの優秀なフォワードになって欲しいと注文した。


◎米国はプロ野球、日本は学生野球

年俸制度の採用が薦められている。それも良いことだろう。
だが何度も言うように、日本の企業はプロ野球ではない。学生野球なのだ。
レギュラー選手だけに日が当たるのではなく、陰でグランド整備や球拾いの仕事を、
下級生を指導してやっている上級生にも、
やり甲斐を感じさせる制度を整備することを忘れてはならない。
具体的には、役職への昇進から年功序列の要素を取り除くこと、
実力主義で適材適所を進めることが必要である。
同時にポストのいかんを問わず、企業への貢献度に応じて報酬を決める制度を採用する。
評価を表面上の実績でやることには問題がある。
なぜならある時点で業績が上がっても、それは前任者の功績かも知れない。
それより人柄の善し悪しを要素に取り入れることの方が、大事だと思う。
人柄のよい人を評価することは、長い目で見て企業の発展にプラスになると
思っている。
 ⇒ 全くの同感である。往々にして人柄のいい人がお人好しで終わり、
   冷遇されている企業が多いのではないだろうか。


◎日本人は働き甲斐は生き甲斐
 日本人にとって働くということは、生き甲斐である。
 悪口を言うために赤提灯に立ち寄るというのは、会社が嫌いだからとは思えない。
 むしろ会社が好きだから、一杯飲みながら批判的な意見を口にするのではないだろうか。
 それぞれの社員が会社に対して意見を持っているが、
 インフォーマルな場で言えば批判的な言葉になり、
 フォーマルな場で言えば建設的な言葉になる。
 日本人は潜在的に会社への参画意識があるのだから、それを引き出す努力を経営者が
 怠ってはいけない。
 経営に参加するということは、社員に働き甲斐を与えることだ。
 働き甲斐は、日本人にとって生き甲斐である。
 それは、社員に対し、金銭とは別の喜びを与えることになるのである。




◎ 人の問題
企業経営において、人の問題は最も重要な課題である。企業が社会的な存在として認められるのは
人の働きがあるからである。人の働きはどうでもいいから、投資した資金の効率のみを求めたいと
いう事業家は、事業家をやめたほうがいいと私は思う。事業を行う以上、社員の働きをもって社会に
貢献するものでなければ、企業が社会的に存在する意味がないと思うのである。
私が唱える「サービスが先、利益は後」という言葉は、まず良いサービスを提供することに懸命に
努力をすれば、結果として利益は必ずついてくる。それがこの言葉の本意である。

毎月の業務会議で支店ごとの収支はあえて議題に取り上げなかった。
当分、赤字続きはまちがいないので、収支を議題にしても仕方がなかったからである。
その代わり、私はサービスレベルを議題にした。
「これからは収支は議題としないで、サービスレベルだけを問題とうる」

 ⇒利益を目標とするのではなくサービスレベルを指標とした
   すなわち、縦軸に発地、横軸に着地を置き、発着都道府県別の総個数に対する翌日配達未了を
  100%で表した。
   この表は毎月発表し、どの県からどの県へ行く数字が悪いかを一目瞭然でわかるようにした。
   その理由を、B(ベース)、C(センター)、D(デポ)の間の連絡の悪さとか、
   運行時間の遅れなど、計画どおりにいっていないところは改善を指示。



       
◎供給者の論理、利用者の論理
サービスを提供する供給者の論理と、サービスを受ける利用者の論理は正反対の場合が多い。
供給者はとにかく自分の立場にたって考える、つまり、自分の都合を中心に考えるのである。
でも、それは間違っていないか。

 翌日未配達の向上 ⇒ お客様がいない時間に配達する


 経費節減の罠
  支店長が運転手の長距離電話使用に目を光らせていた。
  ⇒ この慣例にあえてメスを入れた。
    SDに遠慮なく長距離電話を使わせるよう幹部に依頼。
    もし、配達に行ってお届け先が見つからなかったら、出荷主のお客にSDから直接電話して
    あて先確認をさせる。事実、1丁目と2丁目の書き間違いは多かった。
    あて先不在で返送したらサービスとしては最低である。
    荷物は3日遅れてしまう。
    運賃より電話代が高くなるという反対が出た。
    でも、電話料金がいくらかかっても、翌日配達を守り、感謝していただくメリットは大きい。

    同じような例として、損害賠償の話もあった。
    その場でSDが客の言い値でただちに賠償する。
    上司に回して折衝していれば時間がかかり、上司の人件費の方が何倍もかかる。
    さっさと解決したほうが顧客満足度が高いので結果的に利益が上がることになるのである。 


◎ やる気のある社員集団
   人間は基本的に、細かく指示されると不愉快になり、任されて自主的にやらせてもらうと気持ちが良いものである。
   これはブルーカラーでも同じで、むしろブルーカラーの仕事の方が、自主的にやらせたほうがうまくいくケースが多い。
   では、社員全員がやる気を出し、与えられた仕事を自主的にかつ自立的にやり、目標とする成果を達成するには、どうしたらよいのか。
   キーワードはコミュニケーションである。
   具体的には、まず企業の目的とするところを明確にする。
   達成すべき成果を目標として明示する。
   時間的な制約を説明する。
   競合他社の状況を説明する。
   そして戦略としての会社の方針を示す。
   その上で戦術としてのやり方は各自に考えさせる。
   しかもなぜそうするかを納得の行くように説明する。

   ところで組織が大きくなると、社員のやる気を阻害するものが社内にいることが多い。
   注意しなければならない点である。
   それは往々にして直属の上司であることが多い。
   とくに社歴の長いものが要注意である。
   こうした社員は、自分の経験をもとに仕事のやり方を部下に細かく指示したがる傾向がある一方で、
   会社の方針とか計画をなぜそうなのか説明することが苦手だったりする。
   しかし、そうなると社内のコミュニケーションがそこで途切れてしまうことが多い。

   だからこそ、コミュニケーションの推進役として中間管理者が大事な役割を背負っているのだ。
   彼らが任務を果たしてくれるかどうかが、やる気のある社員集団が出来るかどうかの決め手である。


◎ システムは自前
   宅急便の業態化を推し進める各システムの構築は、ウォークスルー車においても、自動仕分け装置でも
   情報システムでも、専門家の力が借りてきたものの、基本的にすべてヤマト運輸の社員が考え、作り上げ、
   手直ししてきた。業態というものは、人に教えられてもらうものではなく、すべて自分に合ったものを手作りして
   ゆかねばならないものである。

◎ スキー宅急便の配達未完で
   大雪でトラックが動けず配達できなかった。
   人海戦術では対応できず。

   お客様に緊急の連絡を取り、使った貸しスキーの料金はもとより、購入した着替えの下着、靴下など一切の費用を弁償して
   お詫びしたのであった。
   その結果、心配された苦情はほとんどなく、むしろ迅速に誠意ある措置を取ったことが好感を呼び、次年度のスキー宅急便は
   前年以上の利用を得た。
   この事故ではおそらく1000万円以上の費用が支出されたのであるが、
   費用など問題ではないという会社の方針が隅々まで徹底し、社員が骨身を惜しまず努力してくれたことは、
   感謝の言葉もなかった。
   一方、迅速で誠意ある措置によって、金には代えられない信用を得ることがどんなに大事か、
   社員の心にしっかりと根付いたことは本当に喜ばしいことであった。


◎ 転換社債
   転換社債は、発行時には社債として利払いの必要な債務であるが、株価が転換価格を超すと随時株式に転換され、
   資本金に組み入れられるから、債務から資本へ性質が変わるという面白い特徴がある。
   資本に転換すると、配当負担が増えるわけだが、一方で返済の義務がなくなるので、
   経営から見ると財務体質の強化という利点がある。

◎ 日銭が入ってくる
   日銭が入る(創業時1976年でも1日当たり200万円の現金収入)ことが、財務体質の改善にどんなに貢献したか、はかり知れない。  
   日銭が入ると資金繰りが楽になるほか、商売のやり方をいろいろ工夫することができるので、
   資金繰り以外にも良い効果がたくさん上がる。 (サービス業の特徴)




小倉 昌男の経営哲学

最終章にまとめられている。ウン、ウンと納得するものばかりである。

☆組織の活性化
 企業が成長すれば、時とともに組織は肥大化し、官僚的になる傾向がある。
 スタッフ部門は経営管理の中枢という意識を持ち、ややもするとラインに命令する傾向が生ずる結果となることが多かった。
 ラインとスタッフという組織論は製造業向きのもの。
 サービス業での体制の活性化を考えるには、組織論ではなく、コミュニケーションの問題としてとらえる必要がある。

 日本の企業は社員のモチベーションが高く、生産性も高いといわれてきた。
 だが、それはブルーカラーのことで、ホワイトカラーの生産性は非常に低いといわれている。
 それは、使う方も使われれる方も年功序列にこだわっているからではないだろうか。
 けれども、もう年功などにこだわっていられない時期に日本の企業はきている。

☆人事考課
 いくら組織がうまく作られていても、組織を担う社員にやる気がなければ、良い結果を生むことは出来ない。

 日本では、仕事が社員個人に直接結びつくことが少なく、集団で仕事をこなしているから、人事考課が難しい。
 小倉さんは42年間でついに、つくらねばと思いつつできなかった。

 考えたのは、上司の目は頼りにならないので、「下からの評価」と「横からの評価」
 そして評価項目は実績ではない。”人柄”だ。
 誠実であるか、裏表がないか、利己主義ではなく助け合いの気持ちがあるか、思いやりの気持ちがあるかなど人柄に関する項目に点数をつける。

 最高と最低を外し、残りを平均して点数を出す。

 日本では、客観的に通用する実績評価の方式は見当たらない。
 ならば、せめて次善の策として下からの評価を行ったらよいのではないかと思ったのである。
 もちろん単独ではなく、他の制度と併用するのであるが、
 私は、人柄の良い写真はお客様に喜ばれるよい社員になると信じている。

経営リーダー10の条件

1 論理的思考
  自分の頭で考えないで他人の真似をするのあ、経営者として一番危険な人である。
  論理の反対は情緒である。情緒的にものを考える人は経営者に向かない。
            ⇒私には耳が痛い

2 時代の風を読む

3 戦略的思考
  戦略は経営目標を達成するための長期的な策略である。
  何でも第一を唱えて部下を叱咤激励する経営者は、戦術的思考しかできない人である。


4 攻めの経営
  経営は、攻めの姿勢が大事である。
  守りの経営では、ジリ貧になるのは間違いない。
  守りの経営の最たるものは「護送船団方式の経営」である。
  需要はありるものではなく、つくるもの。
  「起業家精神」が、現在の経営者に最も求められている。

5 行政に頼らぬ自立の精神
  役人の一番いけないところは、結果に責任を持たないことである。

6 政治家に頼るな、自助努力あるのみ

7 マスコミとのよい関係
  マスコミに登場することが多くなると、会社の社会的認知度も高くなっていく。
  そして何より効果があったのは、ほかならぬヤマト運輸の社員が、自社の情報を知ることができたことだ。
  それによって、仕事に誇りを持つとともに愛社心が強まったことの利点は、計り知れないほどである。
  経営者は優れた広報マインドを持つことが要求される。

8 明るい性格
  「謙虚」 「どんな人でも決して悪く言わない」
  他人の人格を尊重し、長所をみつけて認める 

9 身銭を切ること
  会社の接待費などで落とすのではなく身銭でやれ。
  日本は経営者の給料がアメリカに比べて安すぎる。
  そこで身銭を切ることが出来るように社長の給料を大幅に引き上げた  
  しっかり基準を作らせた
  
   部長給与の1.2倍 取締役 (決算賞与は別)
   常務  取締役の8倍
   専務       10倍
   社長       15倍

   
   経営者はもらうべきものはもらい、部下に飲ませるときはポケットマネーで払うようにしなければ、
   社員から尊敬される経営者にならないことを、覚悟する必要がある。


10 高い倫理観
   企業の目的は利潤を生み出すこととは思わない。
   企業の目的は、永続することだと思うのである。
   永続するためには、利益が出ていなければならない。
   つまり利益は、手段であり、また企業活動の結果である。

   私は個人的に、人間として大事なことは「真ごごろ」と「思いやり」だと思っている。


あとがき
 私は、約42年間ヤマト運輸の経営に携わってきた。
今から思うと、古い時代であり、いわばアナログ式の経営だったと思う。
でも、どのような時代であっても、経営者に必要なことは倫理観であり、利用者に対する使命感であると確信している。

 その意味で、経営者として恥ずべきことをやらずにきたことは幸いであった。
 時代の変化により、業績の消長は逃れられないかも知れない。
 でも、ヤマト運輸の後輩諸君が、常に世間に対して胸を張って歩み続けることを、心より願ってやまない次第である。