「中村 邦夫 「幸之助神話」を壊した男」
森 一夫 日本経済新聞社 松下電器HP
「創業者の理念以外はすべて変えていい」とのメッセージに興味を持ち読むことにした。
「破壊と創造」 中村社長の言葉である。
松下社員にとってみればおどろくべき改革だったであろうが
外部から見れば
何のことはない、事業部制をドメイン制に変更しただけでありびっくりするようなものではない。
しかし、社内にとってみれば、松下一族の世襲や聖域にまで手をつけなければならない困難な
実践であった。
ドラスティックに行えたのも、アメリカで10年いてグローバル経営とは何かを会得した中村氏だからこそ
、また58歳にして初めて本社勤務となったからこそ”しがらみも少なく”出来たことであろう。
番頭経営者から真の経営者が誕生したのであった。
第1章 偉大さゆえの宿命――創業者の呪縛
偉大な創業者
松下 幸之助 原理原則を非常に重視した
サラリーマンが多い一般の大企業経営者も実利優先がほとんどで、理念はお飾りというのが大半であったから
幸之助は異彩を放っていた。
自前の理念と長期的ビジョンを持ち、それに沿って組織戦略を立てて経営を実行する。
水道哲学: すべての物資を、水のごとく無尽蔵たらしめよう。水道のごとく価を廉ならしめよう。
ここにきて初めて貧は征服される。
時代は変わった…。
松下は理念も経営体制も、ハングリー時代の企業だった。
「豊かさ」の先に、何を提供すべきなのか、それにはどのような経営が必要なのか、
新しい勝利の方程式を作り出さなければならない時代を迎えて、
従来の成功要因が足かせに変わった。
事業部制の問題点
システム化、ネットワーク化が避けられない情報・通信関連製品を開発するには、製品ごとに細かく分かれた事業部制では難しい。
個々の事業部は、業績の維持に腐心したが、リスクのある大胆な新製品や新規事業の開拓には、失敗した場合の減点を恐れて
消極的だった。(事業部毎での採算はわかりやすい)
事業部毎のランク付けでは、縦割り組織の弊害は解消せず、かえって個々の事業部のエゴを事実上強める結果。(山下社長時代)
巨大企業になり成熟期に入ると、「守りの組織」の性格が強まる。
リスクを取らなくなり、起業家精神が弱まる。
すると、堅実な経営管理の仕組みが相対的に影響力を及ぼす。
かつてエクセレントカンパニーを支える裏方であった松下経理が、いつの間にか、
目先のことばかりを追う短期志向の経営を促す役割を果たすようになった。
経理部門が社内で悪しき内務官僚のように嫌われ、中村改革において強力な社内抵抗勢力と目される
不幸なプロセスが20年前から始まっていた。
中村は組織と経営管理の仕組みを変えた
「グローバル連結経営」
2003年度から業績評価が「連結キャッシュフロー」と「CCM(Capital
Cost Management)」
すべて連結で考える。EVAを松下流に作り直したもの。
金融資産を除く投下資産で投下資本を割って求める投下資本コスト率を松下では8.4%としている。
これをもとに計算された投下資本を超える利益を事業が稼ぎ出していれば合格である。
現在はマイナスだが、2005年度に全ドメイン会社がゼロ以上を達成すること、
2006年度に本社部門を含めた全社でゼロ以上に持っていくことが目標である。
⇒ 目標が弱い。ゼロ以上は「プラス」とすべきだろう。
改革といわれる中村さんにしてはちょっと弱気では。
ゼロ以上とプラスではほとんど一緒だ。
言葉を大事にしたい。
現在の評価基準は極めてシンプル。(2つ)
CCM 50点 キャッシュフロー 50点
前のように7つも項目があると拡散して、(CCM10、キャッシュフロー10、収益性30、在庫10、環境経営10、成長性20、品質ロス10)
結局は目指す経営の方向があいまいになる。
「新しい基準に改めて、市場と同じロジックで業績を評価することになった」
事業部制からドメイン制に。カンパニー制と言える
関係会社の100%子会社化も実施(松下通信工業、九州松下電器、松下精工、松下寿電子工業の上場廃止)
重複の解消を図った。
全体最適への大改革と言えよう。
ドメイン会社を統合する持ち株会社機能を有するのがグループ・アンド・グローバル(G&G本社)
組織を動かすソフトウェアは、本社に納める賦課額は「固定額」に(売り上げ比例の廃止)
G&G本社は事業ドメイン会社の戦略に細々とくちばしを挟むのではなく、「株主」あるいは「投資家」として臨む。
どう事業を展開するかは、個々のドメインの経営者の裁量に任せる。
海外への各ドメインからの投資を、本社100%出資に。
本社が海外事業を直接やるわけではない。
海外事業の経営責任はあくまでドメイン会社。
一見矛盾しているかのようなシステムを考案「グループ預託金出資制度」
資本は本社、経営責任はドメイン会社という役割分担
ドメイン会社は、たとえ赤字でも資本コストに見合った配当をG&G本社に払わねばならない。
いつまでも赤字事業をひっぱれない仕組み
海外子会社は、事業ドメイン会社のグローバル連結経営責任に基づく事実上のコントロールと、
直接出資する親会社である地域統括会社のチェックという縦横2つの系統によって
グループ全体の経営に有機的に連結される。
⇒ うーーん。一瞬はいいかなとも思ったが結局は統制のことばかり言っている。
事業部制からドメイン制に変わって重複はなくなったものの、どうやってリスクをとって挑戦できるのかと
いう仕組みに、この松下のドメインカンパニー制なっているかどうかというのは疑問である。
部分最適、全体最悪の総和が松下の地盤沈下につながっており、これの解消への改革としては評価できるが。
以上はすべて第1章に書かれてことである。
これ以降は松下という会社の特異性を歴代のトップの歴史を交えて詳しく書かれている。
結果としてのエッセンスは1章だけで十分わかる。
2、3章は非常にどろどろしている。
第2章 「怨念」断ち切るリーダーシップ
第3章 松下の三〇年戦争――経営者誕生への系譜
第4章 戦略的に石を置く――新しいビジネスモデルの確立
日本型実力主義
年功給と家族手当を廃止
個々の評価は、機械的に成果を数字で測るようなやり方はしない。
人事担当取締役の福島伸一は「経営に対する貢献度を総合的に判断して決める」という
「たとえば、専門能力を生かして難しい仕事で99の成果をあげた社員は、簡単な仕事で100の成果をあげた社員より上に評価します」
福島は野球にたとえて「最終回にさよならヒットを打った選手は当然二重丸ですが、その前にヒットを打って出塁した選手や、
それをばんとで2塁へ送った選手にも丸をつけて、勝利に結びつけた二人の貢献を評価しなければなりません」と語る。
「会社は社員に3つのことを求めます。
まず、経営理念を共有し共鳴して欲しい。
二つ目に、自分がやりたい仕事に挑戦して欲しい。
そして三つ目に、経営に貢献してください、と言いたい。
その代わり、会社は社員に対していろいろな場を設けて、挑戦しやすい環境を作り、
専門能力を高めたい人には積極的に支援するよう努力します。」
一方的に献身を求めることも庇護することもしない。
「社員は会社と、さわやかな緊張関係を持って欲しい」と福島は言う。
松下では現業従業員を「テクノロジスト」に変えることで勝ち残る道を模索している。
テクノロジストはドラッガーの言葉を借りた概念である。
「ITで武装し、誰にも負けない専門的能力を持って働く社員」
中村改革は、各事業を、言い訳なし、逃げ場なしの環境におくことを意味した。
グループ内での事業の重複を整理し、エンパワーメントで権限を委譲し、各ドメインが自分でリスクをとって
意思決定できるようにしたことで、業績が悪化した場合には言い逃れできなくなった。
各事業の強み、弱みがよく見えるので、対策はどれスティックに打てる。
第5章 新たに生まれる神話を崩せるか
資本の持ち方
ゼロ、51%、2/3、100%の4つしか選択肢はない。