伊勢丹な人々」 
   
川島 容子  日本経済新聞社
 
55%攻撃論なるものを書評で見たので読んでみることにした。
買うまでのことはなかろうと、図書館で借りた。
 
「ファッションの伊勢丹」という有名な言葉も知らない私にとっては
外国語のようなファッション用語や文が氾濫しているので参ったが
それでもいくつかは参考になることがあった。
 
私にとってはすべて人関係になる。
しかし、山中竅iかん)さんなどトップのことは全く出てこない。
バイヤーの話に終始しており、そういう風土を産んでいる文化の源泉についての
調査、考察がないのは上すべりしているとの不満もあった。
(まとめてみると案外そうでもなかったみたいだ)

企業スローガン  「毎日が新しい。ファッションの伊勢丹」 1994年内外に宣言
 
  常に新しい売り場を創造していくのが伊勢丹のDNA
 
濃い人間たち  
 90年代の伊勢丹の顔 藤巻 幸夫(現在 福助社長) 「火付け役」
 「解放区」、「リ・スタイル」、「BPQC」、「メンズ館」
 濃い人間たちの強い思いの結集で出来た。
 伊勢丹出身者で業界内外で活躍している人材は多い
 内部の人材が、失敗しながらも自ら手がけて作り上げていく。
 あるいは、外部と一緒にがっぷり四つに組んで、内部の力だけでは作れないものを生み出していく。
 そんなプロセスを経てきた人材が確かに存在した。
 そして、時代の転換に対して、モチベーションをキープしながら、さらに前へ進もうとしていた。
 
百貨店でも官僚化?
 商品分野別にフロアも担当者もキッパリ分かれていて、分野を超えた提案が、現実的に難しいことがあった。
 ★ しかし、それは送り手の事情であって、買い手の事情とは違う。
 
  ⇒ 「自主編集売り場」 リスクは百貨店が負う 伊勢丹はこれに挑戦しつづけている
 
◎55パーセント攻撃論
 新しい提案に際し、
  50%の可能性  上司に相談
  55%の可能性があると思ったら自分で判断し、勇気をもって実行する。
  ただ、あとの45%は自分で努力して100%に持っていく。
 
 自由と責任、創意と工夫、挑戦の継続といった企業として活性化し、成長していくために社員に不可欠な姿勢が
 凝縮されている。
 
 上下関係の風通しがよい。
 ★ 上司に遠慮して語らない部下、部下を無視して語りすぎる上司 ではない。
 
 本書で取り上げた売り場では、マネジメントが、思い切って部下に責任と自由を与えているところが多かった。
 熱い思いを持ったバイヤーを育てていくためには、多少のリスクや失敗はつきまとうもの。
 こういった自由闊達なマネジメントが、下を伸ばす力となる。
 
 だからといって、伊勢丹という巨大組織のすべてが、「リ・スタイル」のように上手く機能しているとは言えない。
 縦軸の強さや、横並びの競争において、硬直化している側面も垣間見えるのは気になるところだ。
 
 (この本は2005年5月に出版されている)
 

◎藤巻 幸夫
 「藤巻さんは部下を徹底的に可愛がる。厳しく叱りもするけれど、上に対する楯の役割をして守ってもらった
  ことは忘れない」
 藤巻は、伊勢丹のなかでも突出して、新しい売り場をつくること、そこで生み出したDNAを、
 部下に継承することに熱心だったのかもしれない。
 伊勢丹を取材して感じるのは、藤巻の中に、生まれながらの資質と、伊勢丹で継承されたものが混在していて、
 どれがいい意味で、藤巻の独自性を進化させているということだ。
 伊勢丹には新しいものに挑戦する体質から、破天荒ともいえるほど個性の強い人材をいかそうとする地盤が
 あるのだと思う。だから、伊勢丹を離れて起業する、あるいは他企業で活躍している人材が、
 数多く存在するのではなかろうか。
 
  ⇒(その根源に対する考察が欲しい!!!、ここで感心していてはダメ、もっと突っ込まないと)
 

・百貨店に限らず、消費者とのコミュニケーションの取り方こそが、これからの自己の差別化のために
 重要な要素になってくると思う。 ⇒ (その通りだと思う)
 

◎ 「リ・スタイル」で20万円のスカートを買っていったお客
 アズディン・アライアのスカートは、女性の身体のラインを美しく出すカッティングで定評がある。
 
 外務省にお勤めの方(キャリアでしょう)
 
 「一番仕事がハードな時期を、このスカートをはくことで乗り越えることができたので、
  ”勝ちスカート”と思って同じものを買いに来たの。本当にお世話になってありがとう」
 
  大切なお客様に、ことらからお礼を申し上げるのが当たり前のこと。
  逆に「ありがとう」と言われてびっくりした。(三根弘毅バイヤー)
 
 ⇒ この話には感動した

● 分野を超えた人脈の活用
 さまざまな業界の方とお付き合いしていると、いかに各業界が閉じているかがよくわかる。
 だからだろう。特にここ数年、その閉塞感からか、他業界とつながらなければという危機感がはっきり
 出てきている。
 単なる名刺交換による異業種交流ではなく、表層的に名前を併記しただけのコラボレーションでもない、
 本来的な意味での分野を超えた人脈に基づいた商品づくり、売り場づくりが、今ほど必要とされている時代は
 ないだろう。
 
◎ ブランドの垣根を越える
 「メンズ館」ではそれまでの常識を超えた新しい試みが実現された。
 ブランドごとの間の間仕切りをなくしたフロア構成である。
 顧客視点の立場にたっての大英断であった。
 各ブランド独自のロゴも什器もなくし、伊勢丹独自の環境で統一。
 
  ⇒ 言うは易し、行うは難し のことである。よくぞやり遂げたと思う。
 
◎ 伊勢丹の人材育成
 伊勢丹で最も評価されない人材とは、何も提案せずに何もしない、
 いわゆる不言不実行の人だという。これは当たり前のようでいて、実は厳しい人材教育だ。
 その自由と厳しさのバランスこそが、伊勢丹を動かし続けてきたのだろう。
 
 二代目社長である小菅丹治は、優秀な人材と見れば、思う存分仕事をやらせてやれと指示を与え、
 絶えず新人の才能を発掘することに怠りがなかった。そのDNAは脈々と受け継がれている。
 

◎ 「覚悟」と「理解」のマネジメント
 
  顧客起点の品揃えを。まさに店舗全体で実現しようという「男の新館」の「メンズ館」へのリニューアル。
  現在執行役員婦人統括部長の大西は、
  「リニューアルするからには、売上高は前年比5%は超える」と目標を大きく掲げた。
  飛躍に向かう挑戦に、当時、「メンズ館」策定のリーダーだった大西はトップから
  「覚悟は出来ているのか」と厳しく問われ、最終的には、「ゴーサイン」という理解がなされた。
 
  この「覚悟」に対する「理解」というマネジメントは、厳しく自他を律する考え方だと思う。
  自分の提案に対する自信がなければ「覚悟」は出来ない。
  それは成否の責任を明確にすることでもある。
  マネジメントとしての判断も、ファッションを謳う以上は、常に時代の半歩先を行く微妙な判断が要求される。
  「理解」によって部下のモチベーションを上げるとともに、
  「覚悟」によって部下を律する厳しさも必要だ。
  もちろん失敗したら、自分も「覚悟」することが前提になっている。
  多くの企業では、この「覚悟」ができないから、「理解」も示さない。
  そんなマネジメントに不満を抱いている現場では、モチベーションも下がる。
  トップマネジメントと大西の間では、この原理原則と言えるマネジメントが、
  言葉だけでなく現実に機能している。
  厳しい正しさが人を動かすと、あらためて納得した。
 
  ⇒ 覚悟と理解のマネジメント  これはキーワードとして残った