そんなバカな!遺伝子と神について」

 竹内 久美子  文春文庫


最後の所感で「利己的な遺伝子」で問題提起をしたKTCチームのWさんから
読みやすいからドーゾということでこの本が送られてきた。

出張の合間で2時間くらいで読んでみたのですが、なかなか面白かった。

R.ドーキンスの利己的な遺伝子で
「人間も遺伝子の乗り物で、行動はすべて遺伝子の意思による」
というところはありました。
竹内さん自身がドーキンスの理論は完璧であると言っているくらいですので
この本はドーキンス一色かと思ったのですが、
そうではありませんでした。

しかし、まずは遺伝子の乗り物に関する記述で強く記憶に残ったのが
最初の2つ

第一章 すべては遺伝子から始まった
 二人のキョウダイか8人のイトコ  J.B.S. ホールデン

 働きバチはなぜ子供を産まないのか? W.D.ハミルトン

であった。


○ 二人のキョウダイか8人のイトコ  J.B.S. ホールデン

「二人のキョウダイか8人のイトコのためなら、私はいつでも命を投げ出す用意がある!」
子や孫ではなくキョウダイとイトコであるところにギョッとするのだが、
遺伝子で言えば自分1個分の遺伝子が揃う可能性があるのである。
1/2の2人、1/8の8人である

子供がなかったホールデン。子供が残せなかった彼の言葉だけに意味がある。
自分の遺伝子は行き止まりになるのか?
いや違う、遺伝子の道には「キョウダイ」や「イトコ」のようなバイパスが存在する
のである。

遺伝子にとってみれば「利他的」行為といえども「利己的」となるのである。


(キョウダイ、イトコがカタカナで表現されていたがこれが非常にぴったりきた)

○働きバチはなぜ子供を産まないのか? W.D.ハミルトン
以下の事実は初めて知った驚きであった。
働きバチのワーカーは全部メスである。
ハチやアリでは受精卵からはメスが、未受精卵からはオスが生まれる。
(つまり、メスは通常の動物と同様、対になった染色体を持つが、オスは染色体について
その片われしか持っていない。前者を倍数体、後者を半数体と呼び、こういう性質は
半倍数性と言われる)
ということで、遺伝子の血縁度を見ると

女王バチとワーカーのメス  1/2
女王バチとオス   女王バチからオス  半分しかいかないので1/2
          オスから女王バチ  1

ワーカーのメスは 1/2(女王バチから)+1/2*1/2(オスから)=3/4となる。


ワーカーは母である女王バチに対する血縁度1/2やオスのキョウダイ1/4を凌ぐ
驚異の3/4の血縁度を持つ。

したがってワーカーから言えば自分の子供を持つ(1/2)よりも、
女王にメスを産ませ、その中から時期女王が出現した方が、より多く自分の遺伝子を残すことに
なるのである。

うーーん、なるほどなあ。そういうことでっか。
このあたりで利己的な遺伝子の主張にはまり出してきた。



☆☆☆ 「ミーム」

遺伝子の乗り物はより多く自分の遺伝子を残す行為を行う。
利他的行為も遺伝子から見れば「利己的」になっている。という主張が流れていっていたが
遂に、膝を打つ瞬間が来た。

これだ!

○ ミームという名の曲者  ニホンザルのイモ洗い文化

突然小猿が始めたイモ洗いはその先代には広まらなかったが、その同世代に広まり、子孫にはあっと言う間に
広まった。
このような高等なサル類、類人猿、そしてもちろん人間には「文化」と呼ばれるものおがある。
ただし、動物行動学で言う「文化」とは、通常使われる意味とは少し違い、
「遺伝」によらず伝達される行動や行動様式、技術などのことである。
(言語、宗教、芸術、習慣、しきたり、家風、校風、建築や輸送の技術、服装、歌など)
「文化」は固体の脳から脳へ主に模倣によってコピーされて伝わり、
時にはコピーミスが起き、これが新しい「文化」を産むこともある。
役に立つ「文化」はよくコピーされるが、どうでもいい「文化」はあまりコピーされないので
「文化」の複製の頻度には差がある。
だから「文化」は進化すると考えることもできる。

「ミーム」という言葉はR.ドーキンスが提出した言葉であり、
模倣するというギリシア語(mimeme)をベースに記憶(memory)などをひっかけて彼が作成したものである。

遺伝子と比較したミームの特徴は、伝達の速度が極めて速いこと、
伝達が非血縁者の間にも起こること
それにコピーミスが大変頻繁に起こること(噂話の伝達を考えよ)などである。

◎遺伝子はなかなか融通の利かない代物だが、ミームは変幻自在で素早い。
 してみるとミームは案外、曲者であるかもしれない。
 ミームは、特に人間において遺伝子と互角か、もしかするとそれ以上の力を持っている可能性があるのである。


○ チンパンジーの仁義無き戦い  タンザニアのヤマグチ組

ここでは、「利己的な遺伝子」では考えられないようなことが起こっていた。
血縁関係にある者を殺傷するという事態が発生。
群れの中での不満分子が派生、別の組を作って元にの組をやっつけてしまったという
チンパンジーの世界の出来事の紹介であった。



このように、サルや人の世界では「利己的な遺伝子」もその力を100%発揮できない状況になっている。
特に人間には「言葉」のほかに「文字」がある。

マズローで言えば、高次の精神的欲求は「利己的な遺伝子」とは決別する世界ではないのかと思える。
ミームをうまく使って、よい文化を創り上げていくことが人としての使命ではなかろうか?
今、テーマとしていることは正しい!
そう実感した。