トヨタ流最強社員の仕事術

  若松義人 (カルマン社長)  PHP文庫



大野耐一氏に師事した人の書である。
既知のことが多いが、よくまとまっている。

気に入った箇所を抜書きしておく。


○ よくない状況がよい頭脳をつくっていく
「人は困らなければ知恵は出ない」
よりよいものを作るための大切な課程
苦労して知恵を出すのはやりがいがあるし、楽しいと考えるのがトヨタ流だ。

○ 汗を出しすぎるな!知恵が出にくくなる
「頑張ります!」ではダメ。
楽のできる仕組みを作ることを考えよ
「慣れろ」、「我慢しろ」の一言で片付けられそうなことに目を向けて
「どうすれば楽になるか」を考える。そこに発想のもとがある。

○ 質問上手になろう
企業再建で知られるある人の話
「ぼくは見てあげることが最高の教育で、見られることが最高の学習だと思ってい
る」

⇒これもまた真なり。
 「教えることで勉強になる」ということとの対極かな。


○ 「頭を高く」より「志を高く」、「つい自慢」より「まだ我慢」する
改善とかムダを見つけることは、死ぬまでの仕事だ。(大野耐一氏の言葉)


○ 行って聞き、御礼を言い、鼓舞する
 トヨタ流の報奨金は少ない。


○ 熟考しても見えないなら断行すれば見えてくる

⇒ 「これって百考は一行にしかず」かな
 
 PDCAにトヨタはT(Think)を加えて考える。

◎ 資料を「紙料」や「死料」にするな
 どの企業も生産部門は、日々原価低減に励んでいるという自負がある。
 間接部門はなんの努力もしていないではないか、と感じている人は少なくない。
 特に間接部門は、放っておくと組織が業績と関係なしに膨張する傾向がある。
 組織が大きくなると会議が増える。
 会議の資料づくりなども増えてくる。
 本来間接部門は生産部門や営業部門を支える部署のはずなのに、いつの間にか
 間接部門の方が偉くなってしまう。
 ムダを省くどころか、よけいな仕事を増やすことさえある。
 しかも生産部門や営業部門には経費節減や人員削減を迫ってくる。
 これでは競争力は低下する一方だ。
 この指摘を受けてJ社は間接部門の少人化、活人化に乗り出した。
 人を大胆に抜くことで、業務の見直しを行い、ムダな業務は省き、必要な業務を標
準化して、
 誰でもできるようにした。
 とにかく専門職的になりがちなスタッフに多能工化を要求し、
 「この業務はお客様のためになるのか」を基準とした。
 やってみると業務の中に実に多くのムダが含まれているのに気づかされた。
 


○ 何を見るかよりもどう見るかが大事
本田宗一郎さんのよく使ったことば
「見学の見」と「観察の観」
仕事は観察の観でなければならぬ。

仕事で本質がまるで見えない人はダメだ。
「見れども見えず」はもちろん「見て見ぬふり」も最低だ。
常に「問題意識を持ってものを見る」習慣が必要である。

⇒ 耳が痛い言葉です。


○ 全体の効率を上げてこそ
最近の日本企業は責任を細分化して、社員は自分の持ち場以外のことに関心を持たな
くなっている。
(失敗学 畑村洋太郎教授)

ある研究所での話。
研究者は部下(研究員)から上がってくるデータをもとに分析を行うのが仕事だっ
た。
ある日、研究者の上司が、研究者の分析に疑問を持った。
そこで研究者の現場をのぞいてみたところ、研究者の指示とは違う方法で実験が行わ
れている。
これではいくら分析をしても正しい結果が得られるはずがない。
そう指摘すると、研究者は「自分の仕事はデータの分析である。指示通りの実験を行
うかどうかは
部下問題だ」と考えており、データが正しいかどうかは自分の責任ではないという。
上司は研究者の実験現場への無関心、自分の仕事以外への無関心をおおいに嘆くこと
なった。
こうした例はモノを作ったり、売ったりする場でも、残念ながらしばしば見受けられ
る。

⇒私はこういう様子は官僚主義と捉えている。
会社から官僚主義を一掃したいと組織課長時代に強く思って現在に至っている。



トヨタ流の改善で言われるのは「自分の工程だけのムダどりにはおのずと限界があ
る」ということ。
自分の工程だけ改善して能率を上げたとしても、前後の工程が変らなければ、かえっ
てムダを
生み出すことになってしまう。

⇒花王ではTCR(トータルコストリダクション)活動を推進し成果を上げていた。
 考え方は同じ。花王では組織横断のプロジェクトとして自由活発に行われていた。



○ トヨタは厳父と慈母の二面性を持つ

取引にあたり、トヨタが提示する品質やコスト目標はたしかに厳しい。
だが、トヨタ流は厳しい目標を提示しつつも、品質やコスト、生産性向上のために、
取引先まで出向いて数々のノウハウを提供する。
その結果、取引先や協力会社のムダはなくなり、モノを作る力は格段に向上する。
(トヨタとの取引を通じて、「トヨタに鍛えられた」と振り返る企業は少なくない)

○ 仕事に育てられる人になる

厳しい要求が冷酷な動機やいじめから発せられては、相手のやる気を引き出すことは
できない。
「ともに成長する」という善意の動機があってこそ、温かい気持ちが相手に伝わる
し、
相手も要求に応えてくれる。
仕事を通して人を育てられる人になることが理想だ。

⇒ まさに私がモットーとしている「人づくりのこころ」そのものである。


○ 勝ち負けの局面でも分かち合いを考えよう
  高めあってこそのパートナー
⇒ これも私が大事にしているWin−Winの方針である

世の中には、自分たちが知恵を絞らず、汗も流さず、しかし利益だけは得ようという
人がいる。
コスト削減となると、協力会社への仕入価格の引き下げばかりを要求してしまう。
本来は作り方の中にこそたくさんのムダが含まれているのだが、すぐに結果の出る仕
入価格引き下げに
向かってしまう。要求を飲めない会社は切り捨てる。
だから、本来サポーターであるべき協力会社が敵になってしまう。
こんなことを繰り返していると、いざという時、得られるはずの協力も得られない。
トヨタ流は「前工程は神様、後工程はお客様」という言い方をする。

○ 人の成長は会社の成長
人の成長は、飛行機が飛ぶのにたとえられる。
最初は滑走路をゆっくりと走っているが、ある瞬間に空高く舞い上がる。
勉強でもスポーツでも、最初はいくら努力してもすぐには成績アップにつながらな
い。
その段階で「ああ、もういやだ」と投げ出してしまえばそれっきりだ。
だが、あきらめることなく根気よく努力を続けていると、突然成績が上がったり、上
達したりする。
滑走する期間が長いか短いかは人によって違う。
ただ、その過程でよき指導者に恵まれれば、より早くより高く飛躍できるのはたしか
だ。

⇒ 飛行機のたとえは初めてだったので新鮮だった。