「未来を予見する5つの法則」
田坂 広志 光文社
日経ビジネスの書評を見てすぐに購入して読んだ。
というのも、田坂さんはモチベーションの研究でよく知っており、新しいジャンルで書いているのだなと
とても興味を持ったからであった。
また大学の2つ先輩でもあり、是非いつかお目にかかってお話してみたいと思っている人であるので
最新の本は読んでおこうと思ったからであった。
そして同級生の先輩にもこの本を紹介して、いつか田坂さんと会えるようにして欲しいと頼んでおいた。
さて内容はとても満足のゆくものであった。
価値観や考え方に共鳴できる人だと思った。
違和感があったのは「矛盾」という言葉。
私は二律背反ということで使っており、この言葉の方が正しいと思う。
◎「矛盾のマネジメント」とは、矛盾を「止揚」するマネジメントである。
それは(二律背反するものとは)同時達成させるべきものであるからである。
弁証法でいう、「止揚」ドイツ語で「アウフヘーベン」
いずれか一方を否定するのでなく、両者を肯定し、包含し、統合超越することによって、
より高次元のものへと昇華していくべきものである。
自己実現道場で、この言葉を初めて知りましたが、まさにそこで学んだことが書かれてあり
とても嬉しく感じました。
ただ「矛盾」と言う言葉は納得がいきませんでした。
しかし、この「矛盾」と言う言葉でとてもいいところがありました。
◎「人物の器」とは、壮大な矛盾を抱えることのできる「魂の力」に他ならない。
この社会に存在する様々な「矛盾」を前に、
その「矛盾」と正対し、それを心の中に深く把持し、
「割り切る」ことなく、
その「矛盾」の止揚の道を求めて、格闘し続けること。
それは、まさに、
「魂の強さ」と呼ぶべき力量が求められる営みなおでしょう。
「器の大きな人物」
それは、心の中に、壮大な「矛盾」を把持し、
その「矛盾」と対峙し、格闘し続けることのできる人物。
⇒ 割り切ってはいけない、矛盾を魂の中にたくさん抱えることのできる人物が大物ということ
しかと入ってきた言葉であった。
友人に話すととてもいい言葉ですねと言ってくれたのでますます嬉しくなった。
ここが一番印象的であったのだが、この本はとても読みやすく書かれている。
日米同時発行ということらしい。あとがきによると、
ニューヨークでの招待講演で話したところ、その内容を英語で出版して欲しいという要請を受けて
「弁証法的思考で予見する未来」の項目を新たに70頁近く書き下ろして2008年9月に出版したとのこと。
それで横書きで、そして空白も多くてとても読みやすいものとなっていた。
英語を意識したものとしては、未来について具体的な予測はできないが大局的な予見はできる。
予測 prediction
予見
forsee
弁証法というものについてはよく知らなかったが、この本で少し理解が進んだと思う。
大局的な予見は哲学を学ぶことによって「世界発展の法則」を知る。
弁証法は西洋哲学 その始まりはソクラテスの「対話(dialogue)」にある。
⇒ここでダイアログが出てきたのでビックリした。なんだそうだったのかあ。
仏教思想の根本にも弁証法の哲学がある。
その象徴が、般若心経の「色即是空、空即是色」の言葉。
「陰、極まれば陽。陽、極まれば、陰」の言葉も「道教」にある。
⇒田坂さんは弁証法の哲学が東洋にあると書いてあるが、逆のような気もする。
東洋的思想である。黒白をはっきりさせるのが西洋であろう。
弁証法の5つの法則
1 世界は、あたかも、螺旋階段を登るように、発展する。
凱旋的プロセスによる発展の法則
ゆり戻しではなく、同じところへ戻ってくるが一段レベルが上がっている というような発展の仕方をする。
⇒ ここはひざを打ったところである。
そうか、「復活、復古」のように見えても一段上に上がっているんだな。そういうことだ!と納得した。
◎は見開き2ページの最初に見出しとして書かれている要約文です。(全部は載せていません)
◎ 「進歩・発展」と「復活・復古」は同時に起こる
Eメールは「手紙」の文化の復活 (手紙 → 電話 → Eメール)
◎ インターネットの革命は「ボランティア」の文化を復活させる
◎ ただ「懐かしいもの」が復活するのではない。「便利になった、懐かしいもの」が、復活する。
◎ ドッグイヤーの時代には、社会は、螺旋階段を駆け上るようになっていく。
◎ ビジョンや政策や戦略がすぐに陳腐化してしまう時代が到来した
◎ 合理化と効率化が進むと、ひとたび消えていった「古いシステム」が復活する
◎ 全国一律や流通革命は、「個店主義」や「地域主義」に回帰していく。
◎ 合理化、効率化のためにひとたび消えた機能は、必ず復活する。
◎ 「進化」においては、「古いもの」が消えてゆかず、「新しいもの」と共存し、共生していく。
◎ 「進化」の本質とは、「多様性」のこと。世界が「多様性」を増していくこと。
2 現在の「動き」は、必ず、将来、「反転」する。
第二の法則 「否定の否定」による発展の法則
◎ 「ハイテク」への動きは、必ず、「ハイタッチ」へとリバウンドする。
人間への優しさを大切にする「ハイタッチ」の社会へと向かう
例:ネットショップの顧客満足
◎ 「顧客中心市場」では「中間業者」の螺旋的発展による進化が起こる
◎ ドッグ・イヤーの時代には、「戦略待機時間」が短縮するため、戦略思考が進化する
「コンシェルジェ」への進化
コンシェルジェとは、「購買代理」「購買支援」を越え、
「生活支援」「生活提案」のサービスも提供する
さらに「顧客中心」への新たなビジネスモデル。
3 「量」が、一定の水準を超えると、「質」が、劇的に変化する。
第三の法則 「量から質への転化」による発展の法則
◎ 「コスト」が劇的に下がると、「ビジネスモデル」が進化する。
例:インターネットによる「購買代理」「購買支援」のサービス
◎ 「コスト」が劇的に低下すると、「消費者の意識」が大きく変わる。
◎ 「消費者の意識」が大きく変わると、市場が「顧客中心主義」に進化する
◎ 「キーワード」が忘れられたとき、「量」から「質」への転化が始まる
4 対立し、競っているもの同士は、互いに、似てくる。
第四の法則 「対立物の相互浸透」による発展の法則
◎ 「リアル・ビジネス」と「ネット・ビジネス」は、必ず、融合する。
◎ 「営利企業」と「非営利組織」は、互いに、「社会貢献企業」へと進化する。
◎ 「資本主義」と「社会主義」は、相互浸透を通じて、進化してきた
5 「矛盾」とは、世界発展の原動力である。
第五の法則 「矛盾の止揚」による発展の法則
この節については冒頭で書いているので、追加する要約文だけ記載しておく。
◎ 「弁証法的思考」を身につけると、対話を通じて本質を洞察する「対話力」が身につく。
ここに弁証法についての解説があってとてもありがたかった。
弁証法とは、その名前のとおり、
ギリシアの時代に、「対話の技法」として生まれたものだからです。
この弁証法を用いたのは、プラトンの著作「ソクラテスの弁明」などで知られるソクラテスです。
ソクラテスは、真理の探究の技法として、「対話」(dialectic)を重視しました。
対話を通じて、互いの思考を深め、真理に到達する方法として弁証法を用いたのです。
しかし、この弁証法とは、単なる討論(debate)や議論(discussion)とはまったく違った技法です。
討論とは文字通り、異なった意見の持ち主が議論を戦わせ、互いに自己の主張が正しいことを論証する営みです。
また議論とは異なった意見の持ち主が集まり、互いの意見を語り合うことによって、多様な意見を学びあう営みです。
これに対して、弁証法とは、対立した意見の持ち主が対話を行うことによって、互いに、より深い思考に向かっていくための技法であり、
「議論を戦わせる技法」ではなく、「思考を深める技法」と呼ぶべきものです。
◎ 思考は「正」「反」「合」のプロセスを通じて深まっていく
◎「対話」とは、「討論」や「議論」を超えた、知の技法である
☆ 弁証法的思考で予見する未来 : これから起こる12のパラダイム転換
・世界が「弁証法的発展」を遂げるとき、「基本的な世界観や価値観」すなわち「パラダイム」転換が起こる
・ボランタリー経済は、マネタリー経済と融合し、「新たな経済原理」が生まれてくる
・ビジネスモデルがソーシャルシステムへと変化していく
・CSRと社会企業家の潮流は、ボランタリー経済とマネタリー経済との融合を牽引していく
・地球温暖化問題を解決するためには、「新たな経済原理」の創出と活用が求められる
・企業通貨や地域通過が新たな経済原理を加速していく
・享受型イノベーションから参加型イノベーションへとイノベーション自身が進化する
・ウェブ2.0革命によって集合知と群集の知恵の時代が始まる
・間接民主主義から直接民主主義へのパラダイム転換が起こる
・政治だけでなく経済や文化の領域においても、直接民主主義が広がっていく
・民主主義は、多くの人々が意思決定に参加することから、多くの人々が社会改革に参加することへ深化する
・非言語的コミュニケーションとイメージ・コミュニケーションの時代が幕を開ける
・「考える力」「論理的思考能力」から「感じる力」「感覚的直観力」へのパラダイム転換が起こる
… これが12項目かと思って要点を書き写していたが違っていた。前置きの解説であった。
一気に結論の12項目に移ることとしよう。それで十分わかる
ただ付箋をつけた頁だけは少し書いておく。
・個人の心の中の「多様な価値観」の共生が、社会全体の「多様な価値観」の共生を実現していく
社会全体で、どれほど「多様な価値観」の共生が大切であると語られても、一人ひとりの個人が、その心の中に
「多様な価値観」を受け入れることができなければ、社会の片隅ではいつまでも、密やかな差別や蔑視、反目や摩擦力が続いていき、
そしてしばしば、ひとつの価値観が力を得たとき、社会全体を、そのひとつの価値観へ向かわせようとする傾向が生まれてしまう。
それゆえ、これからの時代には、一人ひとりの個人の「心の生態系」のマネジメントが大切になっていくのです。
・すでに始まっている科学技術や資本主義と東洋文明との融合
ジェームス・ラブロックの「ガイヤの思想」
エルシスト・シューマッハの「スモール・イズ・ビューティフル」
これらは東洋的な地球観、思想である。
@ 「貨幣の経済」に対して、「善意の経済」が影響力を増していく。そして新たな経済原理が生まれてくる
A 多くの消費者や生活者が、社会の変革とイノベーションのプロセスに参加するようになる
B 「政治」の分野だけでなく、「経済」と「文化」の分野でも、直接民主主義が実現する
C 言葉を使ったコミュニケーションではなく、言葉を使わないイメージ・コミュニケーションが広がっていく
D 「考える」ことを重視する文化と、「感じる」ことを大切にする文化が融合していく
E 誰もが、自分の中に眠るいくつもの才能を開花できる「ダ・ヴィンチ社会」が到来する
F 誰もが、自分の中に隠れている「複数の人格」を表現できる「脱ペルソナ社会」が実現する
G 単一価値の「イデオロギー」の時代から様々な価値観を受容する「コモロジー」の時代に向かっていく
H 排他的な「一神教」の時代から様々な宗教が共生する「新たな多神教」の時代が始まる
I 「機械的世界観」に基づく科学ではなく、「生命論的世界観」に基づく科学が主流となっていく
J 現代文明の「科学技術」と古い文明の「生命論的な知恵」の融合が起こる
K 東洋文明と西洋文明が互いに学びあい、21世紀の「新たな文明」が生まれてくる
以 上