「ブルーオーシャン」
W・チャン・キム+レネ・モボルニュ 有賀裕子 訳 ランダムハウス講談社
最初はイマイチでしたが、後半が俄然よかった。
価格競争で疲弊するレッドオーシャンではなく、敵のいないブルーオーシャンを開拓せよ
という本である。
ブルー・オーシャンという言葉が新鮮であり、面白そうだと思って読んだが
結局は供給者思考からいかに顧客思考で戦略を考えられるか?ということであり
何ら新しいものではなかった。
バリュー・イノベーションと言っているが何ら新しい発想ではない。
いかに顧客の要望を満たす新しい価値を創造するかということである。
そのため顧客価値を幅広く分析し従来企業の価値提供と比較し当たらしバリューを提供するのである。
その大半は事例を解説しているだけであり(後付けの感が強い)、
言葉が新しいだけのものであった。
たが事例紹介自体は面白く読むことができた。
しかし論文には値しない書である。
シルク・ドゥ・ソレイユ サーカス
イエロー・テイル アメリカのワイン
サウスウエスト航空 便利で安い航空会社
第3部 ブルー・オーシャン戦略を実行する
これが非常によかった。
ティッピング(tipping)・ポイント・リーダーシップ
ティッピングの意味がわからないので、tippingを調べたがチップとしかでない。
著者はNY市警の改革者であるビル・ブラットンの改革のことを説明しており、
非常に感銘を受けた。
このことは別の本でも読もうと思ったところ、「NY市警の改革者に学ぶ」
という本をだしていた。今度読んでみよう。
http://www.bookpark.ne.jp/cm/contentdetail.asp?content_id=DHBL-HB200312-007
組織面のハードルを短期間に低コストで改革した彼のリーダーシップのことをこう
呼んでいるようである。
どのような組織でも一定数を超える人々が信念を抱き、熱意を傾ければ、そのアイ
ディアは大きな
流行となって広がっていく。
組織面の4つのハードル
1 意識のハードル 現状に浸りきった組織
「見ることは信じること」人間は自分の目で見て経験した事柄を最も鮮明に記
憶にとどめ、
効果的に反応する。
数字に頼るのではなく以下の2つの方法を使った。
・動く下水道と悪名高かった地下鉄に、幹部を連日連夜乗らせた。真っ先にブ
ラットンが乗ったことは言うまでもない
・「割れ窓理論」の実践 大犯罪ではなく軽犯罪を取り締まり安心した地域環境
を作ることが地元との住民との対話で顧客満足と知る。
2 経営資源のハードル 限られた経営資源
重点地域と非重点地域で資源交換を行った。
大きな犯罪のほとんどは特定の路線や駅に偏っていた。
どの駅も一律的に配置していた警官を重点領域に集中配置して犯罪勢力を圧倒
した。
3 士気のハードル やる気を失った従業員
3つの要素に力を入れる
・「中心人物」
ボーリングの5番ピンを倒せば他のピンが軒並み倒れる。
中心人物にねらいを定めてそのやる気を引き出す。
・「金魚鉢のマネジメント」
中心人物の士気をねらいどおり高め、そのモチベーションを維持するためには、
彼らの行動を繰る返し、目立つように紹介すればよい。
金魚鉢に入れられた中心人物にとっては、無為に時間を過ごすのはリスクが大きい。
この際、「透明性」と「公平性」がポイントとなる。
公正なプロセスとは、関係者をすべて巻き込んで、意思決定の根拠、昇進あるいは据え置きの
判断理由を説明し、どのような業績を期待しているかを明快に示すことを意味する。
NYPDの犯罪対策評価会議では誰一人として「評価が公正ではない」などと述べるものは
いなかった。評価対象者はすべて「金魚鉢」に入れられるため、不公正のまかりとおる余地
などないのである。
・「細分化」
アメリカ一危険な巨大都市を最も安全な都市に変貌させる
⇒ すべての地区、分署、街区でニューヨーク市の安全を確保すること
こう言い換えると、すべてを網羅した行動可能な目標に見えてくる
⇒ 自分の受け持ちの安全を守ればそれでよい
このような一人ひとりまで細分化を図ることが、極めて重要
【まとめ】
◎ 全員のやる気を引き出そうとしているか。
それとも中心人物に働きかけようとしているか。
公正なプロセスを用いて、中心人物をガラス張りの状態でマネジメントしているか。
高い業績を要求して、あとは結果が出るのを待つだけか。
壮大な戦略ビジョンを示すにとどまっているか、
あるいはあらゆる階層の人々が行動を起こさせるように、目標を具体的レベルに
落としこんでいるか。
4 政治的なハードル 強大な利害関係者からの抵抗
・アドバイザー
ブラットンは、新しい戦略を実行する際に何に足をすくわれそうかを教えてくれる、
尊敬に足る人物を、必ず幹部としてそばに置いていた。
NYPDではジョン・ティモニーをナンバー2に任命した。
20年の勤務経験から、誰が影響力を持つか知り尽くすほか、彼らがどんなかけひきをするかも心得ていた。
・守護神に頼り、大敵を沈黙させる
NY市長を味方につけて裁判所を沈黙させた。
これにより戦略実行が可能となったのである。
第8章 実行を見据えて戦略をたてる
ここで面白かったのが、工場での対照的な例示だった。
@ チェスター工場 模範的な従業員にあふれた職場で組合も必要なかった
A ハイバーグ工場 労働組合が大きな力をふるっている
新しいセル方式を導入すべく、まず@でやってAに導入ということを経営者は考えた。
しかし結果は@で失敗し、Aで成功したのである。
これは導入プロセスの違いによるものだった。
@では、公正なプロセスの3つをすべて無視していた。
・従業員にじかに影響するにもかかわらず、戦略を決める際に彼らを関与させなかった
セル生産方式についての専門知識に乏しかったため、コンサルに依頼して作成
コンサルにはできるだけ、従業員をわずらわせないようにと依頼
(コンサルは従業員に話しかけなかった)
・工場長は留守がち。従業員の気をそらさぬようにとの配慮から外でコンサルと会議をしていた
・上層部はなぜ戦略転換を推し進めているのか、それが従業員の雇用・昇進や仕事の進め方
にどのように影響するかという説明もしなかった。
⇒ 工場の従業員の信頼と献身がたちどころに失われた
Aではすべて守った
・コンサルを紹介し、工場内で何度も会議を開いて誰でも参加OK
厳しい事業の現状を包み隠さず述べ、生産性向上のためにはセル生産方式への
戦略転換の必要性を説明した
従業員のレイオフへの不安を鎮めるため、従業員に意見やアイディアを求めた
それまでの業績尺度を廃止する際には、従業員とともに新しい尺度を設け、
各セルチームの新しい責務を定め、目標、期待内容ともに明快に示した
⇒ 従業員は理解を示し、一連の経験は必要で価値あるもの、経験できてよかったと述べた。
☆ 経営陣は、最前線の従業員が自分たちと同じくらい物事のプロセスを気にかけていると
思い知らされた。
公正なプロセスの重要性のポイント
・ 知性や感性を認める
プロセス行動を通じて、一人ひとりを信頼し大切にしている点や、知識、才能、専門性
などを高く評価していることが伝わる。
我々は自分の知性が評価されていると感じると、進んで知識を差し出そうとする。
○ ハーズバーグ
周囲からの評価は強いモチベーションを生む
公正なプロセス⇒従業員の知識や感性を重んじる⇒信頼と熱心な関与⇒戦略の実行に進んで協力
公正なプロセスの不在⇒ 〃 の軽視⇒ 不信と憤り ⇒戦略の実行を拒否
巻末でのまとめから抜粋
◎ ブルーオーシャンの開拓に成功すると、利益ある力強い成長を実現できるばかりか、
ブランド名を買い手に強く刻みこむことができる。
ブルーオーシャンを支えたのは技術革新ではなく、価値主導型の革新、
すなわちバリューイノベーションであった。