「実践のための技術倫理」
野城 智也
札野 順
板倉 周一郎
大場 恭子
東京大学出版会
非常にいい本だった。
研修に利用していくつもりである。
原子力学会倫理委員会で知り合った大場恭子さんはこの著者の一人であり、
今後ともいろいろ教えてもらうつもりである。
彼女にケーススタディの参考書はないかとたずねたところこの本を紹介されたのであった。
良かったので桑野先生にはプレゼントした。
「元気の出る技術倫理」を目指そう!
アイデンティティの違い
英語圏 職能団体に属する個としてのエンジニアが第一
日本 所属企業・組織とその役職・職務が第一
このため、英語圏と日本との社会的・文化的コンテクストを無視して
組織と戦える強さを技術者個人に求めるだけというのはその実効性に疑問符を
つけざるを得ない。技術倫理が目指すところをこの国で実現するためには
、反社会的な行為を生み出してしまう組織システムそのものにメスを入れ、
組織の振る舞いの悪しき作用を除去・軽減していくことにも努力が傾注されなければならない。
◎ 私たちは「個人としての技術倫理」だけでなく、「組織としての技術倫理」を奉じて
責任あるコーポレート・ガバナンスを実現していかねばならない。
技術者、あるいは技術チームが、萎縮せずに、創造的で自信に満ちた意志決定ができる組織環境が実現できれば、
その士気は高まり、自ずと「組織としての技術倫理」は機能し、責任あるコーポレート・ガバナンスは実現される。
何かを守らねばならないという受動的な「萎縮の技術倫理」ではなく、能動的な「元気の出る技術倫理」
○ 技術パラダイムの変化
かつては機械的手段をフルに使って快適な室内環境を実現することが暗黙的に「正しい」と
され技術開発されてきた。
しかし、地球環境問題にかかわる認識が深まるにつれて、むしろ化石燃料を直接・大量に用いる機械的手段
に頼り切らずに通風など能うかぎり自然の営みを利用した室内環境調整をすることが「正しい」と
されています。
このように、技術のパラダイムが変化しつつある状況においては、言い換えれば、技術にかかわる規範が流動的で
ある状況においては、組織が広い意味で技術革新的であり続けることが肝要。
言い換えれば、現代社会においては、技術革新力を失うことは、技術倫理上のリスクを高めること。
技術倫理
マニュアルを作るよりも科学技術のほうが先に進むこともある。
したがって、議論をして、企業として重要と考える価値についての
考え方を社員が共有しつつ、場合によっては現場が判断することも必要となってくる。
技術倫理に関して自らの資質を高めていくためには、自らが学んでいくしかない。
【モジュール2】技術/技術者倫理概論
○ 倫理学
誰もが認めるような倫理理論はない。(義務論、功利主義、徳理論))
だからこそ、個々の技術者が倫理的判断能力を伸ばしていかねばならない。
本書での定義
「倫理とは、ある社会集団において行為の善悪や正不正などの価値に関する判断を下すための規範体系の総体、
およびその体系についての継続的検討という知的行為」 (札野順)
○技術者の行動規範
1 個 andeの
価値と行動規範
2 個々の社会集団(家族、宗教組織)の一員としての価値と行動規範
3 職業上の所属組織としての価値と行動規範
4 技術者集団の一員をしての価値と行動規範
5 所属する文化圏(国)の価値と行動規範
6 人類と一員しての価値と行動規範
4についての議論
特に重要な4つの価値
1 公衆の安全・健康・福利
2 専門家としての能力維持向上
3 忠実義務
4 客観性
アメリカでの変遷
1910年代 誇大広告をしてはならない などのマナー的なのもの
忠誠はあった。
1940年代 原子爆弾など破壊的新技術の登場により、社会に正負両面で科学技術が
影響力を持つことが一般に理解されるようになり、
公衆の安全・健康・福利を前面に出さなければ、自分たちが社会的に認められないと
いうことに技術者自身が気づき始めた。
1970年代 「公衆の安全・健康・福利を最優先する」という条項が入る
1980年代 環境への配慮が加わる
1985年 持続可能な発展「サスティナブル・デベロップメント」という価値観が入る。
○ 憲章1と憲章4の対立
ABET(アメリカの技術者教育認定機構:Accrediation Board for Engineering and Technology)
の倫理綱領
憲章1 エンジニアは、その専門職能上の職務を遂行するにあたり、
公衆の安全、健康、福利を最優先せねばならない
憲章4 エンジニアはその雇用主、あるいは依頼人に対してのプロフェっションとして
忠実な代行者又は受託者として行動し、利害の対立を回避しなければならない。
この2つが対立した時にどうなるか?
実は、このパブリック・ミッションと忠実義務の間の葛藤をいかに解決するかが、
技術者倫理の大問題のひとつ。
ガイドラインには明確に書いている
4a 状況について雇用者に直ちに通報せよ
4i 職務を遂行する際に知り得た情報はすべて機密として扱う。
その情報を使うことが、依頼主、雇用主あるいは大衆の利害と対立するときは、
その情報を個人的な利益のために使ってはならない
1c エンジニアの専門家としての判断が、公衆の安全や健康を危険にさらすような状況下で覆われた場合、
依頼主や雇用主に、予想される可能性について報告し、かつ必要な場合はほかの適切な公的機関に
通報しなければならない。
つまり、少なくとも最終的な手段としては、ホイッスルブローイング(内部告発あるいは公益通報)を
要請している。
このように価値が明確にされていて、その価値の優先順位がはっきりしていれば、取るべき行動は自ずと決定
していくでしょう。
しかし、日本の技術者はこういうトレーニングをこれまで受けていないし、
倫理的な判断を下すための道筋も、綱領などを読むだけではっきりしていません。
日本の技術者の場合、専門職能集団への帰属意識より、所属組織への帰属意識がはるかに高く、
このようなステップを踏むことが大変難しい状況にある。
そのステップを踏みやすくするような組織経営をすることが技術経営(MOT)の大きな課題のひとつ。
○ 倫理綱領と倫理理論
倫理綱領 技術者たちにとっての規範
倫理学 「規範倫理学」と(「記述倫理学」:解説なしでした)
「規範倫理学」
行為や判断のあるべき姿 を考察
・人はいかに生きるべきか
・もののいかにあるべきか
・問題が起こったときにはどうすべきか
というような「当為命題」を扱う
当為命題は、そこにある事実を認めながら、それを超える事態を目指すことであって、
そこには何らかの変革と、それを達成する行為が要求される。
これを当為命題の指令的性格(prescriptive nature)という。
指令というものは、言葉を使って人を動かすことで、
能動的に世界に働きかけていく活動。
指令としての当為命題が提示されると、人間は自分の行為をその言葉に従わせて、
自分自身のあり方を改善したり変革したりすることができる。
当為命題には価値判断が含まれる。
価値判断はいくつかの事柄を比較して優劣をつけたり、順位付けをしたりすること。
また、当為命題には理想やビジョンを描くことが内包される。
「〜べき」という点に、ある種の努力目標が掲げられることになり、
倫理綱領にしたがって行動することは、将来の自分の姿や所属する団体の姿を目標に
向かって完成させるという方向付けが加わる。
もちろんそこには「可能性」がなければならないが、優れたビジョンは人を発奮させ、
やる気にさせ、夢を持たせ、結果的に積極的な行動をとらせるものである。
倫理綱領にある「〜べき」ということは、決して「〜すべからず」というネガティブで堅苦しい
禁止ルールのみを命じているのだはなく、集団や組織を活性化し、前向きな姿勢で将来を開いて
いく「言葉による動機付け」であるといえるでしょう。
⇒この部分がビンビンに響いた。
翻って当社の倫理綱領やビジョンはいかなるかや?と思わざるを得なかった。
○ 黄金律
主要な宗教のすべてに共通して入っている規律
人間の根源にかかわる何かが関係していると考えてよい。
積極バージョン キリスト教
人からして欲しいと思うことを、そのとおり人にもしてあげなさい。
消極バージョン 儒教
自分の嫌だと思うことは人にもするな。
◎ 黄金律テスト(可逆性テスト)
自分が行おうとしている行為を、自分が影響を受ける立場でもするかどうか問いかけること。
もし、「自分が影響を受ける立場ならそういうことはしない」と思うなら、
その意思決定は倫理的に間違っています。
技術者が倫理的な判断に迷ったとき、また物事を判断するときにその判断が正しいか間違っているかを
見極めるためのテストです。
○ 倫理は法律よりも大きい概念
アメリカの人種差別の法律が1950年代まで存在したように、
倫理的に誤った法律が存在することは多々ある。
法律を守ることはもちろん大前提ですが、法律がすべて正しいと思ってしまうのは危険です。
○経営と倫理
経営的判断と技術的判断が対立した時にどうするか。
技術者に倫理を奨励し、技術者の重視する価値を反映できる組織づくりが必要。
技術者にとって製品は子供と同じ。
・スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故
★ 「技術者としての帽子を脱いで、経営者の帽子をかぶりたまえ」
・シティコープ・タワーの危機
ルメジャーの行動とシティコープの支援
○ 倫理問題と設計問題
倫理問題と設計問題は似ている。
・問題の解答や対応策がただひとつというようなことはない。
・唯一絶対的な解はないが、明らかに誤った解は存在する
・大きく違うことは倫理問題には時間軸が入ってきてやり直しがきかない。
◎ 倫理的な意思決定のための方法
テスト
1 普遍化可逆性
みんながそれをしたらどうなるか?
2 黄金律テスト(前出)
自分が影響を受ける立場でも、同じような意志決定をするか?
TI社のエシックステスト
・法律に触れないか
・TI社の価値基準に合っているか
・それをするとよくないと感じないか
・新聞に載ったらどう映るだろう
・正しくないとわかっているのにやっていないか
◎ 意思決定の阻害要因と促進要因
私利私欲 ⇔ 利他主義
恐れ ⇔ 希望・勇気 上司の命令だから
自己欺瞞 ⇔ 正直・誠実 今回だけだから、みんなやっているから
無知 ⇔ 知識・専門能力
自己中心的 ⇔ 自己相対化(公共性)
微視的視野 ⇔ 巨視的視野
権威の無批判な受け入れ ⇔ 権威に対する批判精神 上司の命令だから
集団思考 ⇔ 自律的思考
倫理問題は時間、空間、関係性を拡大化、相対化させることが必要。
今だけを考えがちだが、5年前なら、10年前ならどうだったか、
5年先、10年先もこの問題が倫理問題として存在するかということを考えることが必要。
時間、空間、関係性を考えることによって違った意思決定が可能な場合もでてくる。
● 公益通報制度の現状と課題
2000年以降の企業不祥事の9割が社外通報によるもの
・雇用形態の変化(正社員以外の増加)による組織への帰属意識や忠誠心が薄れた
・経営状況の悪化(リストラ)による 〃
・情報化社会の進展:匿名を守りながら瞬時にしかも多方面への通報が可能となった
・他社事例による影響:他組織の内部告発による企業不祥事を知り、自身の経験した(している)問題について
改めて考えるようになった。
「公益通報者保護法」2004年6月公布、2006年4月施行
◎ 社外への通報が拙速な形で行われ、企業不祥事などの情報がそのまま外に出てしまうことは、
問題を解決しないばかりか、すべての関係者が被害を被ってしまう結果を招いてしまう場合が多いので
注意を要する。
あくまで、外部への通報は最後の手段であり、ほかのあらゆる手を尽くした上で、状況が改善できないという
ときになって使うべきもの。(法の精神もそうなっているとのこと。奥山氏講演 2006.10.11)
★ 最初からすぐに外部への通報を行うことは、技術者としての基本的な責任を果たしていない。
基本憲章1の公衆の安全・健康・福利を最優先することも大事だが、
基本憲章4があるので、依頼主や雇用主に対して忠実な代行者として仕事をするという責任も技術者は
負っている。
⇒ では、やめさせられた人は憲章4はなくなるのでいいか???
☆☆ 本書の目的は、ある意味では、現場で働く倫理的な技術者が公益通報をしなくてもいいような、
倫理的に悩まずに元気に仕事に打ちこめるような環境を作り上げるための倫理プログラムの
構築手法を学ぶことにある。
⇒ いいですねえ。そうなることが理想であり、そしてそこを目指すべきと考えます。
【モジュール3】技術倫理と企業のマネジメントシステム
◎ 技術者の目的 時代とともにより複雑化、高度化してきている
「人間の生活に役立つこと」
↓
「顧客のみならず市民全体の共通利益である安全・安心・健康・福利を実現すること」
↓
良い製品・サービスを提供して得られる顧客の喜びを積み上げていけば世のお役に立つという発想だけに
凝り固まらず、その製品・サービス提供のプロセスおよび結果によって、負の影響を受けている人もいる
ということを自覚する必要が出てきた。
⇒ これはショックな文章であった。当然ではあるのだがガーンと打たれた
↓
モノづくりの原点
「製品やサービスや、その生産プロセスで発生する副産物・負荷が、市民全体の共通利益である
安全・安心・健康・福利に資すること
→ タバコはどうなる…
これだけ複雑化してくると、かつてのような暗黙的な行動規範だけに拠ってたつのでなく、
自覚的・明示的な行動規範を技術者が持たないと、利害や価値観のジレンマのなかで
「モノづくりの原点」である当たり前の目標を実現できない。
技術者個々が技術倫理を奉じるだけでは十分でなく、組織として技術倫理を奉じなければならない。
・ 技術が複雑化・大規模かしてチームで技術的意思決定をする局面・度合いが増している
・ 日本の技術者はインハウスエンジニアで組織の中に身を置いている。
組織として技術者個々の規範のすり合わせをしていくこと。
西洋での「職能社会」においては、職能団体の倫理綱領・規定が重大な意味を持つ。
一方、「会社社会」(日本)においては、企業のもつ行動規範が、重大な意味を持つ。
◎ まずは基本理念の共有から
モノづくりの原点である「市民全体の共通利益である安全・安心・健康・福利を実現する」
ためには、法令やマニュアル類の基底になる原理原則、言い換えれば基本理念にまで遡って思考し、
意思決定しなければならない。
しかし、その基本理念が曖昧模糊としていたり、組織構成員によって解釈・理解が異なっていたら、
そこで下される意思決定は組織全体としてはバラバラで「組織としての技術倫理」を整合させて
いくことはできない。
つまり、今日の技術の成り立ちを考えると、何をおきても組織構成員による基本理念の共有なくして
「組織の技術倫理」は成立しない。
→ 非常にビンビン響きました。私が思っているとおりのことです。
私はモチベーションの観点から考えていましたが、結局同じくここに帰結しました。
近江商人家訓「三方よし」
買い手によし
売り手によし
世間によし
時代の変化で「のれん意識」「家訓」だけでは、ジレンマやトリレンマに悩む技術者を救うことに
はならない。
プロジェクトXの時代の技術者
3つの行動規範のベクトルが整合していた時代
・技術者としての誇り・使命感・情熱がめざすベクトル
・所属している会社がめざすベクトル
・一般市民としての自分や家族の幸せをめざすベクトル
現在、この3つのベクトルが一致せずに、技術者がそのはざまで苦しんでいる事例が頻発
●経営トップにとっては「売り手によし」が第一で、「買い手によし」には考慮するが、
「世間によし」などは全く意識していない。 →企業不祥事発生
このような企業で働く技術者が、「売り手によし」を重視した組織内の人事評価基準と、
「世間によし」という行動規範の対立のはざまで苦悩している。
●組織の大規模化および市場寡占化によって、企業の規範と、社会の規範とが乖離している例もある。
例えば、寡占的地位にある企業が、「サービスを安定的・継続的に供給することが最も大事である」
という規範を最も重視し、軽微な事故の事実を公表せずにサービスを継続。
透明性・情報公開性という価値観が社会の行動規範として重視されてきているにもかかわらずに。
その2つの規範のはざまで、隠蔽に関与した技術者は大いに悩んだはず。
●各部門には売上最大化、納期厳守、コスト削減など個別最適化目標が厳しく与えられていることが
規範の対立を生み、技術者をジレンマに追い込んでいる。
例えば、企業の中間管理職が、これらの目標を厳しく課せられているために、データの改竄や、
品質欠陥の軽視・無視・隠蔽など、手段を選ばず数値目標を実現しようとしたことによる不祥事。
いくら美しい倫理憲章や社是をうたっていたとしても、社員に対する人事評価は、それらへの遵守度合ではなく
前記の数値目標の達成度合いが重視されるがために頻発すると考えられる。
●長く続いた右肩上がりの経済がもたらした失点主義による消極的態度・不作為の蔓延が、規範の対立による
ジレンマから技術者を心理的に逃避させ不作為を生んでいる。
社会全体の官僚化が保身のための不作為を助長している。
全体システムが安泰である、あって欲しいとの願望のもとに、自らの職責の範囲のなかで最適化を図って
しまう行動をとっていると、このようなジレンマは「見て見ぬふり」で看過されてしまう。
このような行動規範の不整合が放置されている限り、プロジェクトXのように、技術者が自信をもって
挑戦していくことはできない。
個人レベルはどこにでもいる善良な市民、善良な社員、善良な技術者であるのにもかかわらず
行動規範のはざまのジレンマに追い込まれてしまい不祥事発生。
そのリスクを回避するためにに「組織としての技術倫理」を実現していく組織的な仕組みを構築せねばならない。
倫理マネジメントシステムを置け と主張
→ おっしゃることは非常によくわかる。
ただこういう倫理マネジメントシステムを経営管理マネジメントシステムのひとつとして回している
ところってあるのだろうか?
国際規格化の話しもあるそうだ。
この倫理マネジメントシステムの構築は私が考えている理念の共有により
誇り、やる気、イキイキ職場の実現と同じことのような気がする。
・ERC(The Ethics Resource Center)の倫理プログラムの構成要素が掲示されている。
1 倫理に関するリーダーシップ
2 ビジョンの明示
3 明文化された組織の価値
4 倫理綱領
5 倫理担当役員・部署
6 倫理担当タスクフォース又は倫理委員会
7 倫理にかかわるコミュニケーション戦略
8 倫理研修
9 倫理相談窓口
10 対応システム
11 倫理にかかわるデータをモニター・追跡する包括的な組織システム
12 倫理にかかわるデータおよび努力活動の定期的評価
→ 企業調査した雪印さんはこれが出来ていると思う。
・具体例
(1)計画
倫理綱領は、組織内のさまざまな価値の相己のなかで、倫理的基準が漂流・沈没してしまわないように、
共有する基本理念とその行動指針を明示。
トヨタ基本理念+トヨタ社員の行動指針
花王ウェイ+花王ビジネスコンダクトガイドライン
(2)目に見える形での経営層のコミットメント
倫理綱領を踏まえた行動基準を明示したメッセージを積極的に繰り返し発言し、
かつ対話すること
自らの言葉で、高い志を素直に訴えること、また率先垂範することで組織構成員の心を掴む
(注意)技術倫理に関して問題が生じた多くの事例を解析してみると、「組織としての技術倫理」
を担保する行動をとろうにも、適切な経営資源が配分されていない場合が多々ある。
予算が限られているので十分な事前検討や対策を取れないことや、人員が限られているために
定められた手順を実行できないことなどが、「組織としての技術倫理」に反する行動を取らせ、」
倫理綱領を絵に描いた餅にしている。
「組織としての技術倫理」が担保できるように、適切な経営資源の配分をすることこそが、
経営層のコミットメントとして極めて重要です。
(3)倫理担当役員・実務責任者の任命
進取の気性に富んでいる人物を任命することが望まれる。
(4)実施計画の策定
特に倫理綱領への取り組みを人事考課に入れることが有効
倫理リスクの洗い出しが必要
実施と運用段階
(5)コミュニケーションの推進
・技術者チーム内部
日本の企業ではコミュニケーションの仕組みが明示的に決まっておらず、
飲み会や早朝コーヒーブレイクなどインフォーマルな形でうまくやってきたところがある。
しかし、就業感や帰属意識が多様化し、ライフスタイルや考え方の異なる人達が、
ある目的のために同一の組織に結集しているという側面が昨今強くなってきていることを
考えると、同質的な、あるいはインフォーマルな形でのコミュニケーションだけでは
通用しなくなっている。そのため、チーム内におけるコミュニケーションや組織全体の
コミュニケーションを推進するための明示的な仕組みを構築する必要性が高まっている。
・顧客・外部利害関係者と技術者チームとのコミュニケーション推進
技術者チーム自身が社会と継続的に対話していくこと、いわば、社会の価値観をモニターできる
センサーを組織的に用意し動かしていくことが必要。
・経営トップ・経営層と技術者チームのコミュニケーション推進
「何とかせい」リスク、「エッまさか」リスクの回避
・技術者チーム内部のコミュニケーション推進
具体的方法
技術者チーム内部でのデザインレビューの継続的実施
意思疎通推進者(ファシリテータ)の指名
ひやっと事例など経験知の共有
イントラネット、掲示板、メール交換
おしゃべり空間などインフォーマルな意思疎通がしやすい空間の提供
(6)倫理教育研修
周知段階の教育のポイント
・「組織としての技術倫理」が確立されてこそ企業としての利益を生み競争力を高めることができる
・継続して実践することが重要
・支援ステップ7(同じような倫理問題が発生しないような根本的解決法を考えること)
・行動規範に違反したときにとられる措置・懲罰内容
ケーススタディによる学習 1グループ 5,6名
パネル討論も有効 :参加者の関心を高め、理念を共有することに役立つことが期待できる
・OJTの重要性
座学で優秀な社員が、職場に戻った後、倫理綱領に反する意志決定・行動をしてしまう例も決して珍しくない。
研修も重要だが、加えて日ごろに実務の中での同僚・上長が行う助言や会議などにおける発言など
業務を通じて行われるOJTも極めて重要。
(7)支援措置、訓戒措置を含む基準遵守の徹底
・倫理プログラムへの取り組み・遵守の度合いを人事考課へ組み入れる
・規定に基づく懲罰・訓戒の実施
・支援措置の実施
(8)相談報告窓口(ヘルプライン)の設置・運用
(9)緊急対応および広報
「誠実さ」が機軸
(10) 点検・評価
取引先への聞き取り調査も入っていたのはいいことだと思った。
(11) 自己点検・監査
見直しと改善段階
(12) 経営層による見直し
(13) 予防・是正施策
組織構造や業務分担関係、あるいは経営資源の配分のあり方が、倫理リスクを増大させるような要因を含んでいる
ことが把握された場合は、それらを改善する。
(14) 継続的改善
◎ 元気の出る技術倫理マネジメント
コンプライアンスは必要条件ではあるが十分条件でなく、
組織として基本理念を共有しなければ、何らかの技術を事業活動に用いている企業・組織は、
「組織としての技術倫理」を実現することは極めて難しい。
・組織として理念を共有し、
・その倫理を奉じて仕事をしている限りにおいては、人事考課上、高く評価されることこそあれ、
不利益を得ることは一切無く、
・万が一、技術者個人が、異なる規範・基準の狭間でおきる矛盾・不整合(ジレンマ)に追い込まれた場合は、
組織全体でその対処をサポートしてくれる。
このような、組織的な後ろ盾がしっかりしていれば、技術者は自信を持って、自由な発想で、のびのびと挑戦していく
ことができます。
この本が目指すのは組織レベルでも、個人レベルでも、元気の出る技術倫理なのです。
技術倫理プログラムとは、まさにそういった、元気ある能動的・主体的な組織行動をとっていくために策定され、
実行され、見直されていくものであり、そうすることによって企業・組織の力は増していくと考えられます。
⇒ パチパチパチ。
理念、コミュニケーションそして元気 私のキーワードが全部入った力強いメッセージで
私も元気をもらった気分になりました。
このあとは、非常によく出来たケーススタディ、そして結びとつづく。