「林原家 同族経営への警鐘」
林原 健 日経BP社
本の紹介で表紙がよく似ていたと思ったので、ああ、読んだ本だなと思ってよく見たら
兄貴の社長の執筆であった。
出版元も日経BP社なのでしっかりしていると思って読んでみることとした。
弟の靖氏の方は「破綻 バイオ企業・林原の真実」で出版元がWACとちょっと知
らない出版社であって怪しい雰囲気。
社長の本ではちゃんと調査報告書をたくさん引用しており第三者の意見がよくわかった。
それにしても粉飾決算の内容はひどい。
同族経営で経理はすべて弟に任せていたから自分はまったく知らないというのもあきれる。
研究者なので経営はしたくないというのはわからないでもないが、社長さんでしょ。
ちゃんとやらにゃあ。
PLとBSくらいしっかり見ないと社長の資格はない。
会社法違反もある。
会計監査人を置かないといけないのである。
負債が200億円以上は大会社。
大会社は会計監査人をおいて監査を受けないといけない。
罰則を調べたら100万円だとか。
会社法は株主を守るためのものとすると株式を一族ですべて所有している同族企業では
利益相反はないので問題はないと言うが、
取締役会を開いたことがない、だけど議事録は一応あるというのにはあきれてしまう。
当然1社で200億以上を融資していた中国銀行や住友銀行はわかっていたはずである。
それとなく社長に頭取が話はしているだが、健社長が靖専務に置くように忠告されたと言うと断られたとある。
「監査法人を入れたほうがいいと住友信託銀行からまた言われたぞ」
すると弟は決まって拒んだ。
「うちは大企業ではないのですから、監査法人は入れなくても構わないのです」
「監査法人を入れたら、社長がしたい研究が自由にできなくなります」
「メセナに多くの資金を投じていることをうるさく言ってくるかもしれませんよ」
ここで、もっと突っ込みがあれば、こんな倒産にはならなかっただろう。
資産を売却して負債を返せばよかったのである。
税務署用と銀行融資用で2重帳簿になっていたこと。
こんなことはちゃんと監査をすれば一発でわかる。
ビジネスモデルとして理解できるところもある。
長く時間がかかる製品開発を行うためには潤沢な資金が必要。
それで得られた利益は不動産で持っておき、長期間利益が出ないでもつぶらない体質としておく。
これは父一郎氏が行ってきた過去の成功モデルであった。
しかしバブル崩壊とリーマンショックが追い打ちをかけた。
資産価値が大幅に目減りし、土地を担保に巨額の融資を受けていたため債務超過となってしまった。
でも、もっと早く資金繰りが苦しいことを把握しておれば資産を売却してつなぐことができたのだ。
美術品、骨董品の収集もお金がなければしていなかったと社長は言う。
でも長男絶対主義で服従関係にある弟は何も言えなかった。
知り合いのお茶の先生の御茶室を作るのにポンと1億5千万円のカネを出すなんてあきれてものが言えない。
・林原では取締役会を開かず、社長の私が資金を自由に使っていた。
その中には林原グループにとって利益をもたらすものもあれば、直接的にはそうでないものもある。
会社がつぶれるかもしれないというリスクを冒してまで資金を使う気毛頭なかったが、財務のことは
一切関知していなかったので、歯止めがかからなかった。一方、経理担当の弟も多額の資金を使い
動かしていた。さらに林原の財務が表面上毀損しないようにするためなのか、これらは貸付金や
仮払い金などの形を多くとった。結果、事態は水面下でどんどん悪化してしまう。
これらの資金を捻出するため、林原は長年粉飾を続けていた。
林原本体の売上280億円、グループ全体で800億円に対し、
負債総額は1400億円に達していた。
しかし社長はまったく気づいていない。
資産評価額が下がったとはいえ、資産価値は1000億円は下らないだろう。
それに弟は、私が頼めば研究費をすぐに出してくれた。
以前に比べて楽ではなかったかもしれないが、資金は回っており、借入分の資産の裏付けもある。
私はそう信じて疑わなかった。
林原における不適切な会計処理
・営業外収益項目である雑収入を売上高に組み替える
・税務申告用の決算書では売上原価/一般管理費 を金融機関用では特別損失(主として資産等除却損)に
・売上の架空計上 林原商事への架空売り上げと売掛金計上(実際の商品の移動はない)
・支払利息の一部 什器備品(美術品)、土地などの資産勘定に・別途積立金を意図的に取り崩し特別利益に計上
・生化研が債務超過状態にもかかわらず、生化研への貸付金を回収不能と判断せず損失処理をしていない
など
その他中核会社でも不適切な会計処理をしており、
1999年からの10年間で利益の架空計上は438億円
2009年の純資産は775億の過大表示
その結果実際の財務状態は443億の債務超過と分析された。
銀行の責任については、以下の記述があり納得。
メインバンクとして粉飾を見抜けなかった責任から、事件終結後、
頭取をはじめ3人の代表取締役が総退陣した。
それを覚悟でADRを進めたのは、林原の不正経理が看過できるようなレベルではないと判断したからだろう。
⇒このあたりの感じは靖専務の著書を読んだときには全くうかがい知れないところであった。
書く人間によってこれほど違うのかと痛感した。
林原は93%の弁済率に達した。これは異様に高い。
早期に現金化するために投げ売りに近い恰好で売却した不動産や美術品もあり、
それを勘案すれば実質的には債務を資産で相殺するだけの余力はあったのではないかと思う。
資産と負債のバランスだけを見れば、会社をつぶさずに済んだ可能性はあるのだ。
もちろん弟も、会社を潰したくなかったはずだ。
なぜ財務が危険水域にはいった時点で土地を売却しなかったのか。
逆に弟は土地の評価額を上げようと考えていた節がある。
岡山駅前にある約5万m3の土地の再開発プランだった。
これを勝手に「ザハヤシバラシティ」として公表してしまった。
⇒この大きな失敗のことは靖専務は本でまったく書いていない
林原の倒産後、「同族経営にあぐらをかいて、社長が会社にほとんどいないから
(午前11時半〜午後2時半の3時間)
経理の粉飾を見抜けなかったのだ」と批判する声もあったが、違う。
会社に朝9時から夕方6時までいたからといって、人に丸投げしている限り、結果は同じだったはずだ。
社内にいる時間が短くても、資金繰りをチェックすることはできる。
監査法人を入れれば二重三重にチェックができる。
その仕組みを作ることを私は怠ったのだ。
⇒その通りだと思う。
第2章は林原一族の宿痾
「宿痾」????
しゅくあ だって 辞書によれば 長い間治らない病気。持病。痼疾(こしつ)。宿疾。宿病。「―に悩む」
こういうことになった背景を回顧して書いている。
林原家を理解するうえでこの回顧録は重要であろう。
ところでこの2点はビックリした。
・健社長は「霊」が見える 「霊」の存在の研究に情熱を燃やしており、証明もできているという
・酒はやらずコーラを愛飲
私は酒を飲まない。昔はよく飲んでいたが、30代の頃に肝臓ジストマにかかり、肝臓とすい臓を壊した。
それ以来、酒を受け付けなくなったので、今はコーラをよく飲む。
一流ホテルの日本料理でも、まず最初に頼むのはコーラだ。
コーラはもともと胃薬でその成分が生きている、
それは林原の研究所で検証した。
父、林原一郎は胃がんで亡くなったので、その体質は受け継いでいるかもしれないと思い、胃薬代わりに愛飲している。
林原家といえば生活も相当ぜいたくなのだろうと決めてかかる人がいたが、豪華な料理を食べたいとも思わない。
コーラと卵焼きお茶漬けで毎日くらせる。車も走れば車種は何でもいい。
以 上