「損料屋喜八郎 始末控え」

 山本 一力  文春文庫




「あかね空」「銭売り賽蔵」に続いて読んだ。
E先輩が3冊貸してくれたからである。
これはデビュー作とのこと。
先に読んだ作品とは少し違う感じを受けた。


豆腐屋、銭売り、そして今回は損料屋という商売。
解説で時代小説はさまざまな職業が描かれると書かれていたがその通りであることを痛感した。
江戸時代のいろいろな商売の様子がわかり勉強になる。

損料屋とは、
夏の蚊帳、冬場の炬燵から鍋、釜、布団までを賃貸しする商売

しかしこの小説では元同心であった20代の若い喜八郎が
諜報、工作員の本業の隠れ蓑に過ぎない。

損料屋の仕事は全く出てこず(銭屋は出ていた)、始末の仕事しか出てこない。
普段の仕事ぶりの情景がゼンゼン出ていないのでこれは職業小説ではないな。
ま、楽しく読める。勧善懲悪、スカットする。

悪者としては「札差」が出てくる。
棄捐令(武士の借金棒引き)を出したことでいろいろな問題が起きたことで
深川の祭りの折に、秋山がお役御免を申し出るところの奉行の言葉が印象的であった

「公儀通用金手出し(贋金作り)に極刑をもって臨むは、まつりごとの基だ、是非に及ばぬ。
さりとて棄捐令なかりせば、笠倉屋とて此度の振る舞いには及ぶまい。
無理に罪人を作り出して、首を刎ねるのみが御政道ではない。
今の世には慈悲もいる。」
「田沼時代の奢り高ぶった報いを責めるのみでは、札差に止めを刺しかねる。
そうなっては武家の息の根までが止まろうが」
「札差を統(す)べ得るのは、思案の底に慈悲を忘れぬその方をおいて他にない。
向後、進退云々は無用と心得よ」

艶っぽいところでは江戸屋の若女将秀弥がいい雰囲気を醸し出してくれている。
将来は喜八郎と結ばれるのでは…、と期待してしまうのである。




文春文庫HPの紹介 
http://www.bunshun.co.jp/book_db/7/67/00/9784167670016.shtml

もうひとつ他人の書評を引用しておく。登場人物などがきちっと書かれているからである。

http://lounge.cafe.coocan.jp/novels/001025.php