「ロスジェネの逆襲」
池井戸 潤 ダイヤモンド社
半沢直樹シリーズの第3弾。
これが私には一番面白かった。
証券会社に出向させられた半沢が親会社相手に敵対しやっつける。
そんなことしていいの?大丈夫なのかなあと心配しながら読んでいったが
非常に後味のよい結幕に大満足であった。
「やられたら倍返しだ」の決め台詞はテレビでは大人気になったが、
私は1,2話では記憶にない。
この第3話で唯一一度だけ登場した。
タイトルの意味がわからなかった。
ロスジェネとは1994年から2004年にわたる就職氷河期に世の中に出た若者たち、
その彼らを、某全国紙の命名により「ロスト・ジェネレーション」略してロスジェネ世代と呼ぶようになったそうである。
知りませんでした。
最終章「ロスジェネの逆襲」で半沢部長が森山に語る場面
ここが池井戸さんの思いがしっかり書かれている。
これが本書のテーマであろう。
わかりやすいのでほぼ全文を引用させていただく。
世の中をはかなみ、文句をいったり腐してみたりする−−。
でもそんなことは誰にだってできる。
お前は知らないかも知れないが、いつの世にも、世の中に文句ばっかりいってる奴は大勢いるもんだ。
だけど、果たしてそれに何の意味がある。たとえばお前たちが虐げた世代なら、どうすればそういう世代が二度と出てこないようになるのか、その答えを探すべきなんじゃないか。
あと10年もすれば、お前たちは社会の真の担い手になる。そのとき、世の中の在り方に疑問を抱いてきたお前たちだからこそ、できる改革があると思う。そのときこそ、お前たちロスジェネ世代が、社会や組織に自分たちの真の存在意義を認めさせるときだと思うね。オレたちバブル世代は既存の仕組みに乗っかる形で社会に出た。好景気だったが故に、世の中に対する疑問や不信感といったものがまるでなかった。つまり、上の世代が作り上げた仕組みに何の抵抗も感じず、素直に取り込まれたわけだ。だがそれは間違っていた。そして間違っていたと気づいたときには、もうどうすることもできない状況に置かれ、追い詰められていた。
だがお前たちは違う。お前たちには、社会に対する疑問や反感という、我々の世代にはないフィルターがあり根強い問題意識があるはずだ。世の中を変えていけるとすれば、お前たち世代なんだよ。失われた10年に世の中に出た者だけが、あるいはその下の世代に、これからの10年で世の中を変える資格が得られるのかも知れない。ロスジェネの逆襲がこれから始まるとオレは期待している。だが、世の中に受け入れられるためには批判だけじゃだめだ。誰もが納得する答えが要る。
批判はもう十分だ。お前たちのビジョンを示してほしい。なぜ団塊の世代が間違ったのか、なぜバブル世代がダメなのか。果たしてどんな世の中にすれば、みんなが納得して幸せになれるのか?会社の組織も含め、お前たちはそういう枠組みが作れるはずだ。
「部長にはあるんですか、こうすればいいという枠組みを、部長はお持ちなんですか」(森山がきく)
枠組みといえるほどのものはない。あるの信念だけだ。
だが、それはあくまでバブル世代の、いやもっと言えばオレ個人の発想に過ぎない。しかし、オレはそれが正しいと信じているし、そのためにいままで戦ってきた。
「それはどんな信念?」
簡単なことさ。正しいことを正しいと言えること。世の中の常識と組織の常識を一致させること。ただ、それだけのことだ。ひたむきで誠実に働いたものが評価される。そんな当たり前のことさえ、いまの組織はできていない。
だからダメなんだ。
「原因は?」
自分のために仕事をしているから。
仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。
その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。そういう連中が増えれば、当然組織も腐っていく。
組織が腐れば、世の中も腐る。
結果的に就職氷河期を招いた馬鹿げたバブルは、自分たちのためだけに仕事をした連中が作り上げたものなんだよ。顧客不在のマネーゲームが、世の中を腐らせた。
お前たちがまずやるべきことは、ひたすら原則に立ち返り、それを忘れないようにすることだと思う。とはいえ、これはあくまでバブル世代であるオレの仮設であって、きっとお前はもっと的確な答えを見つけるはずだ。いつの日か、それをオレに話してくれるのを楽しみに待っている。
戦え、森山。
そしてオレお戦う。誰かがそうやって戦っている以上、世の中は捨てたもんじゃない。そう信じることが大切なんじゃないだろうか。