「真実の瞬間」
SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか
ヤン カールソン、 堤 猶二訳 ダイヤモンド社
KTCアクションラーニングの時に読んでおきたかった本である。
1990年発行だが決して色褪せない経営哲学である。
成長期ではなく成熟期に入った業界での経営哲学である。
SASはアメリカの航空会社かと勘違いしていた。
スウェーデンのスカンジナビア航空であった。失礼いたしやした。
この本を読もうと思ったのも致知のメルマガからであったと思う。
家内が図書館勤務というのはいいですねえ。
すぐ借りてきてもらえる。
ビジネス本はまずすぐ借りられるのです。
そして返さねばならぬので、どうしても読後記をしたためないといけない。
そういうことでこれから、また読後記をしっかり書いていけると思う。
ヤンカールソン氏。初めて知った名前であった。これこそ大失礼だろう。
申し訳ありません。
日航の再建はまさにこのヤン氏の手法をまねたように感じてしまう。
ほんとそっくりであった。
顧客重視、現場への権限移譲、リーダーはビジョンを語れ、
印象的なことは経営戦略が顧客を「ビジネスマン」に特化していたことであった。
リターンを考えればこれが賢明なことはわかるのだが、
お客様を大切にと言ったら観光客から子供までと思いがちだが
ビジネスパーソンに絞ったことがすごいなと感じた。
大聖堂の石切職人の話が最後に使われていたのも嬉しかった。
またV字回復を達成した後の組織の問題、失敗談をしっかり語っているところも好感を持った。
KTCチームが目指したリーダー像がここに書かれていた。
以下章を追って付箋をつけた箇所を書き写しておこう。
序文
かのトムピーターズが書いていることも偉大である。
航空会社経営者、銀行家、各種メーカ経営者の必読書であると絶賛している。
・航空券販売係や客室乗務員といった最前線の最初の15秒間の接客態度がその航空会社全体の印象を決めてしまう。
カールソンは、その15秒を「真実の瞬間」と呼んでいる。
・コミュニケーションを阻む横の障害を排除すること。
「部下を指令どおりに動かすために雇われている」中間管理職を、マネージャから、
旅客と市場にじかに接する最前線の従業員のリーダー、支援者に変身させることなどが、カールソンの解決策だ。
・顧客と市場が経済活動を主導する時代が到来しつつある、とカールソンは主張する。
航空運輸、自動車、半導体、金融サービスといった分野で、賢い消費者と新しい競争相手が、
旧態依然とした企業に圧力を加えている。市場が先導するこの転換期に対処するには、機構の変革が必要だ。
つまり、「顧客本位の企業につくり替える」ことだとカールソンは提唱する。
現場から隔絶した、統制的な上位下達方式のリーダーシップでは、企業は生き残れない。
・カールソンは従来の専門経営者を手きびしく批判する。
直観と感情、演出力を重視する。分析的な思考者は、意思決定者や実行者としては不適格なことが多い、
とカールソンは語る。分析癖にとらわれた専門経営者は、意思決定を避けるために、代替案を考え出す。
カールソンのスカンジナビア航空では、分析はつねに全体的なビジネス戦略を対象とし、戦略の細目には向けられない。
・新しいビジネスリーダーの武器は、明確で簡潔なビジョンと、人間味のある、すぐれたコミュニケーション能力だ。
第1章 真実の瞬間 序文の紹介のとおり
第2章 ヴィングレソール社とリンネフリュ社の再建
32歳で旅行代理店ヴィングレソール社(SASの子会社)の社長に
社長とは何かを知る経験に
エゴ・ボーイと言われた指示ばかりするイヤな社長の振る舞い
「いったい何をやっているんだ。君がヴィングレソール社の社長になったのはなぜだと思う。
別の人間になるためかい。いや、けっしてそうではないね。あるがままの君が社長にふさわしいから社長になったんだよ!」
この格下げになった管理職の言葉で目が覚めた。
会社は私にすべての決定を行うよう要求しているわけではなく、ただ社員がいい仕事をするような環境を作ることを求めているだけだった。
私は、上部から指令を発するだけの古いタイプの経営者と、大きなビジョンをもって社員の士気を高めなければならない新しい企業リーダーの
違いがわかるようになっていた。
4年後にSASの関連会社リンネフリュ社の社長に
カールソン流経営の真価発揮
Y50(ヤング向け格安航空運賃)の実施
7章で言うリスクへの挑戦(ロニアの谷を飛ぶ)であった
第3章 スカンジナビア航空の再建
リンネフリュ社の社長の2年後の1980年に就任
成熟市場でもSASを収益性の高い企業にすること。
新しい経営戦略は、
ビジネスマンを唯一の安定した客層とみなし、最も大切なお客とし、
その要望に応えるサービスを提供すること。
ユーロクラスの設置;普通運賃でサービスを改善
第4章 真のビジネスリーダー
リーダーはすべての知識を持ち、すべての経営判断をするために選ばれるわけではない。
活用できる知識を統合し、優先事項を決定するために任命されているのだ。
リーダーは、日常業務の遂行責任を社員に委譲できる機構を作りあげるのだ。
必要なのは戦略的思考、「ヘリコプター・センス」つまり高所から細部にとらわれずに地形全体を把握する能力だ。
変化を理解し、方向付けを行う能力が、有能なリーダーには不可欠である。
今日のビジネスリーダーは、財務や生産、技術だけでなく、人的資源も管理しなければならない。
明確な目標と戦略を策定し、それを従業員に伝え、目標にそった従業員教育を行えば、リーダーは柔軟で、
革新的な企業体質を培う健全な職場環境をつくることができる。
第5章 戦略の策定
エアバスを予備役に入れて、DC9を使え!と指示を与えた。
(ビジネスマンのニーズを満たそうと考えたときにこれは明白;しかしなかなか出せる指示ではない)
多くの社員が唖然。まるで工場を新設して、その落成式の日に社長が閉鎖を命ずるようなもの。
⇒ JALの再建がよく似ている。ジャンボを廃止し中型機路線に変更した
これはこの真実の瞬間から学んだなのではなかろうか。
真に求めていたのは「乗客を満足させる機」 3P機 (Passenger Pleasing Plane)
長い間、航空機メーカは、技術者との交渉のみに終始してきた。
設計変更はもっぱら、座席マイル当たりの運行コストの低減を目的に行われた。
必ずしも単位原価が最低でなくとも、機材の形状を変更するだけで新しい収益が得られるという発想は
誰の頭にも浮かばなかったのだ。
◎ビジネス旅行市場に全力を傾注したといっても、観光市場を忘れたり、ないがしろにしたわけではない。
事実はまさにその反対だった。
ここにひとつの重要な逆説がある。
ビジネス旅客者誘致に努力すればするほど、観光旅行者に低運賃を提供することがますます容易になる、
という説だ。
普通運賃を払うビジネス旅行者が多ければ、それだけワン・フライト当たりの収益が増す。
だが曜日や出発時刻の関係で、ビジネス旅行者に不人気の便には必ず空席が残る。
SASでは、全般的に普通運賃客の比率が高く、彼らの運賃だけで直接運行コストをまかなえるので
空席分の運賃を下げることができる。本来なら空席となる席を破格の低運賃で埋め、ふらいと当たりの
収益を増す。満席にすることでフライトあたりの収益が増せば、総収益増が達成され、その増益を運賃値下げの
形で、ビジネス旅行者に還元することが可能になる。
⇒ これはまさに実感している。高松東京2泊3日で29800円なるツアーが組まれていて
先月、家族で箱根旅行に使ったが、まさにこの効果なのではなかろうか。
第6章 ピラミッド機構の解体
顧客を重視して「真実の瞬間」に好印象を与える企業を目指すなら、ピラミッドを崩す、
つまり顧客のニーズに直接、迅速に対応するために階層的な責任体制を排除しなければならない。
顧客本位の企業は、変化に即応するように組織される。
したがって「管理責任」は役員室から現業部署に委譲され、そこでは従業員ひとりひとりが各自の業務の管理者になる。
⇒ ノードストロームも同じだな。
ただこのときに中間管理職失望させてしまっていた。
これは経営幹部の責任であった。
リーダー変革の説明不足であった。
第7章 リスクへの挑戦
⇒ カールソンはここを書くとき一番楽しかったのではないだろうか。
スウェーデンにはロニアという少女にまつわる中世民話を引用。
ロニアと恋人の家の間のせまいが深い谷を飛び越えようと決心するロニア。
人質となっ恋人を救うため命を懸けて飛ぶのである。
それをリスクへの挑戦という章に引用している。
⇒ この谷を女性が飛び越えるシーンを1992年アメリカ出張のときの機内映画で見た記憶がある。
英語版で意味はわからなかったけれども谷を飛び越える姿がとてもきれいで印象的であり覚えている。
このロニア伝説と関係があったのかも知れない。
リスクへの挑戦は直観だと述べている。
第8章 意思の疎通
古い階層的組織を廃止した以上、私たちは新しい仕事のやり方を従業員に「命令」するわけにはいかなかった。
命令するかわりに、会社のビジョンを伝え、そのビジョンを達成する責任が従業員に課せられていることを納得させなければならなかった。
小冊子の絵をわずかなな言葉が、そのために大いに役立った。
私がこれまで述べた、従業員の意欲を高め、秘めた活力を解放した事例の多くは、
実は情報伝達、説得、激励、つまり意思疎通の事例である。
分権化された顧客主導型企業の優れたリーダーは、全社員をひとつの目標を目指して結束させるために、
社員との意思疎通を図り、会社の新しい活動とサービスを周知させるために、顧客に情報を伝達しなければならない。
私が求めるリーダーのこみぃにケーション能力には、かなりのショーマンシップが要求されることは明らかだ。
有能なリーダーになりたければ、内気や無口は禁物である。
大勢の聴衆に自分のメッセージを受け入れさせる演技力は、計算や企画能力と同じように、
リーダーには不可欠の資質だ。
第9章 取締役会と労働組合
経営ビジョンを実現するには、それを取締役会、経営陣、組合、従業員の四者が共有せねばならない。
第10章 業績の評価
分権化された企業には、適正な業績評価方法が、階層的なピラミッド機構の企業以上に必要となる。
第11章 社員への報奨
だれにでも報奨が必要だし、自分の仕事に誇りを持てれば、成果も上がるものだ。
もちろん有能な人間は相応の高給を得るが、明確な責務を与え、信頼と関心を寄せることは、
さらに満足の高い報奨となる。
従業員の欲求、目標、自己啓発への熱意を理解すれば、企業リーダーは彼らの自負心を高めてやることができる。
そして健全な自負心の底にひそむ活力が、常に直面する新しい課題に取り組むために必要な自信と独創力を生むのである。
⇒ まさにKTCチームが理解した結論と同じである。
第12章 第二の波
ここは急激に業績回復したがための目標を失った組織も問題の反省が書かれていて興味深い。
短期目標だけでなく長期ビジョンも必要であるとの反省。
そして最後に石切職人で締めている。
花崗岩の石才を切り出していた二人の石工に石切場にやってきた男が「何をしているのか」とたずねた。
一人の石工は不機嫌そうな表情で、
「このいまいましい石を切っているところさ」とぼやいた。
別の石工は満足げな表情で、「大聖堂を建てる仕事をしているんだよ」と誇らしげに答えた。
完成した暁の大聖堂の全容を思い描くことができて、しかもその建設工事の一翼を担っている石工は
ただ目前の花崗岩をみつめてうんざりしている石工より、はるかに満足しているし、生産的だ。
真のビジネスりーだーとは、大聖堂を設計し、人々にその完成予想図を示して、建設への
意欲を鼓舞する人間のことである。
以 上