「だから失敗は起こる」  畑村 洋太郎

 
NHK教育放送テキスト  知るを楽しむこの人の世界

月曜日 この人この世界
8〜9月 だから失敗は起こる
この人この世界 畑村 洋太郎

1941年、東京生まれ。工学院大学教授。
東京大学工学部機械工学科修士課程修了。日立製作所で2年間勤務した後、東京大学工学部助教授、同大学大学院教授を経て、現在は工学院大学教授、東京大学名誉教授。専門はナノ・マイクロ加工学、生産加工学、創造的設計論。2001年より畑村創造工学研究所を主宰し、また文部科学省の「失敗知識活用研究会」実行委員会の統括も務める。02年には特定非営利活動法人「失敗学会」の初代会長に就任。主な著書に『失敗学のすすめ』(講談社文庫)、『決定版 失敗学の法則』(文春文庫)、『「失敗学」事件簿 あの失敗から何を学ぶか』(小学館)、『直観でわかる数学』『続 直観でわかる数学』(岩波書店)など多数。



ここは「自己実現道場」のメールを私の部分だけ掲載します。
この前にES(社員満足)とCS(顧客満足)の順について議論をしていました。
その続編として、この本の内容を取り上げました。


From: 志賀松 邦敏
Sent: Tuesday, August 22, 2006 10:09 AM
Subject: 利便性を追求する顧客


昨日、上司のK部長が夏休み中に読んだという本をポンと渡してくれました。
ちゃんと付箋とマーキング、そしてメモ入りです。
 
私から畑村先生、その弟子の中尾先生の「失敗学」の話しを聞いていたので
NHK教育で放送しているのを知って本屋で購入したとのこと。
 
http://www.nhk.or.jp/shiruraku/200608/monday.html
 
「そのテキストを買って読んだけどいいこと書いているわ。」
 
昨日の夕方から一気に読みました。
内容を知っているところは「はしょろう」と思っていたら
六本木の回転ドアや、JR羽越線、福知山線の事故が取り上げられていて新しいものばかり。
 
現場主義で現場のたってみての意見は説得力がありました。
 
すでに2回の放送は終わっていますが、まだまだこれからなのでTVでみようと思います。
 
JR羽越線の事故は「予測できない事故」の分類で驚きました。
新聞情報で誤った認識をしていたのガーンと打たれました。
添付の最終ページ(10/10)に引用しています。
 
 
志>そこでの今回の脱線事故。死者が出た。
志>S口さんの紹介事例では、雨量計の観測の問題が近いかも。
志>的確に状況を把握できる気象測器を適切な場所に設置して適切に監視する。
志>これを事前に計画することがいかに難しいか。
志>今回の自然現象は不可抗力だたろうか?
志>S口さんは違うと言うだろう。
志>どうして列車を止めなかったのか。
志>止めることができなかったのか?
志>そこを痛く痛く反省していることと推察する。

 
そして肝心の顧客満足の部分はJR西日本の福知山線
組織の失敗として (添付資料(2/10〜)
・成熟した組織に生まれる「隙間」が失敗につながる 
 という内容も、Y口さんや私が、言われたことだけする社員が増えていることに対する危機感を持っていることを
 しっかり証明してくれています。
 
そして、ココです
・利便性を追求する社会にこそ責任がある
 
ここで畑村さんは「社会」と言っています。
思わず苦笑。
この社会を私は顧客ととらえているのです。
 
福知山線の利用客が乗り換えでホーム移動をしたくないとういう利便性、そしてスピードを求めている。
これは顧客の心理としては当たり前でしょう。
 
これをできるだけ満足させようとして列車の乗り入れの方で対処してしまった西日本。
この背景が定時性を守らねばというプレッシャーを運転士が持ってしまっただろうということ。
 
顧客満足を追及することが本当に「真」なのか?
大事なことを失念しての取り組みだったのかも知れない。
 
このようなことから、顧客満足追求に胡散臭さを感じてしまうのです。
 
本当は、顧客に新しい価値を提供して心豊かな生活を創造するというのでしょうね。
今の顧客が願っていることを単純に満たすだけの後追いではなく
その会社の理念に基づく、新しい顧客価値を創造し提供する。
私はこれを顧客というより社会全体でイメージしているのです。
社会価値の創造か。
 
でも畑村先生も社会という言葉を使っているので、鈴木さんの「顧客価値」の方が分がいいみたいですね。
 
私のこの感性は2つの本からと言いましたが、詳細は後にしてエッセンスのみ書いてみます。
 
サントリーの佐治さんが「酒」という趣向品で、
日本社会に新しい生活文化創造を願ったように、
企業は製品だけでなくそれを使う生活の中に豊かで創造的な社会を築いていく
それに貢献することが使命なのではないでしょうか?
 
江戸に学ぶ企業倫理
近江商人の「三方よし」  「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」
 
この「世間よし」に強く打たれたのでした。
これが顧客(買い手)ではなく社会(世間)という思いの基になっています。
 
◎身分制の底辺に末業として制度上位置付けられ、
 道徳上でも賎商意識に囲まれていた江戸商人が、
  自らの存続を維持し営利追及の正当性を根拠づけるには、
  社会と共に生きること(三方よしなど)、
  公正な価格と利益、正直、質素、勤勉、謙譲、陰徳善事(陰での善行)……
  等々に留意して行動することが何よりも大切であった。
 
この三方よしの流れをうけているのが大阪堺発祥のサントリーの利益3分主義であろう。
 
サントリーは広範にわたる社会・文化活動を展開していますが、
その原点は、創業者鳥井信治郎の「利益三分主義」にさかのぼります。
信治郎は、利益の3分の1はお客さまへ、そしてもう3分の1は社会に還元すべきとの
強い信念を持ち、恵まれない人たちへの慈善活動、社会福祉事業に熱意を示しました。
 
 http://www.suntory.co.jp/company/info/idea/contents1_5.html
 
 
この本の影響を受け、「世間」「社会」というものを私は捉えているのです。
 
顧客も重要ですが、世間さまも同時に納得されるような満足でなければならない。
まさに「三方よし」の精神です。
 
(中抜きいたしました)

From: "志賀松 邦敏" <sigamatu@mail.netwave.or.jp>
Sent: Wednesday, August 23, 2006 6:53 AM
Subject: Re: 利便性を追求する顧客


Tさんの言うとおりのことをしている記載を昨日みつけました。
JR東日本のS口さんです。

先日、講演資料を載せている「標準化と品質管理」の抜粋を送ってくれました。

昨日の会議中に内職でパラパラと見ていましたが、
講演で聞いたこと以外の内容を発見。

そしてこれだ!とうれしくなりました。
自宅でとるPDFは1枚づつしか取れないので、該当部分だけ添付します。

これはまさにSさんの言うとおりHOWを間違えなかった、そしてTさんの以下の主張のとおりのことだと思いました。

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鉄道や飛行機の例でいえば、定時運航やさらなるスピードアップを求める顧客の声は多いことでしょう。
 それに比べ、安全運転についての具体的な要望は少ないことでしょう。

しかし、だからといって、安全を犠牲にしてスピードを上げることが顧客満足の追及とはいえませんよね。
なぜなら、「安全」は、いうまでもなく最優先で考えるべき大前提であり、これを欠いたサービス向上などありえないからです。
(お客が急げというから急ぎました、というのは、値段を下げろというから柱を間引きました、という あの“紛いもの(耐震偽装)マンション”と同じですよね。)

コストと品質、安全性を、単純なトレードオフの関係でとらえるのではなく、
供給信頼度を損なうことなく、新たな発想や創意工夫で原価低減を図ってこそ、より高いレベルでの全体最適を実現してこそ、電力供給のプロだと思います。
価格競争に勝つための、なりふりかまわぬ無節操、無定見なコスト切り下げは、・・・顧客を無視した暴挙ですよね。

 
顧客の声に真摯にこたえつつも、表層的な要望に振り回されるのではなく、事業者としての責任と誇りをもって顧客価値の本質を掘り下げること、
これが真の顧客満足の追及であり、これはやはり「絶対善」である、これが私の思いです。

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◎ 湘南新宿ラインを100kmから120kmへスピードアップしている例です。

 添付PDFは左回転にして見てください。かすれて読めないところは「信号をオーバーランしないか」です。

現代人は時間を買っています。確かに時間と快適性に価値をつけてます。
京浜東北よりもかなり料金の高いJR東海道線、さらには新幹線を使って通勤しているお客は多いですね。
また、グリーン席で座って通勤する方も多い。
さまざまなニーズにできるだけ応えながらも、ハズしてはならない大前提を決して忘れない。
それがTさんが言う「プロ」なんでしょうね。

どうもありがとうございました。
かなりスッキリしました。
お客様にこにこ、社員にこにこ、四国が元気の順に思えてきました。

  
From: 志賀松 邦敏
Sent: Wednesday, August 23, 2006 8:59 AM
Subject: Re: 利便性を追求する顧客
Kさん曰く
大阪の阪急とJRでは典型的な差がある。
 
阪急は列車が遅れていても一切放送しない
JR新快速は、各駅で「何分遅れています」と車掌が必ずアナウンスする
新快速で少々遅れようが関係ないと思うのだが。