「泣き虫ハアちゃん」
河合 隼雄 新潮出版
この本は花王の後藤さんが推薦していたので読んでみることにしました。
河合隼雄さんの自叙伝的なものでしたが、ほんのりとしたいい世界でした。
昔の人の価値観は良かったとつくづくと思いました。
子供のときの話しです。
河合さんはなんと6人兄弟。すべて男ばかりの5番目。
家は裕福なおうちだったようです。お父さんは歯医者。
1. どんぐりころころ
まずは「どんぐりころころ」がガーンと入ってきました。
どんぐりころころ どんぶりこ
お池にはまって さあ大変
どじょうが出てきて こんにちわ
ぼっちゃん 一緒に遊びましょう
⇒ この歌は完全に歌詞を覚えていますねえ。
どんぐりころころ ころこんで(ハアちゃんはこう覚えていた)
しばらく一緒に遊んだが
やっぱりお山が 恋しいと
泣いてはどじょうを 困らせた
ここでハアちゃんは「どんぐりころころは、家に帰れたんやろか」と心配して
たずねると
「そら、帰れませんで」
というお手伝いさんのそっけない答えを聞いて可哀想になって泣いてしまう。
その泣いているハアちゃんを長男のオキ兄ちゃんが優しくしてくれる。
「それで、泣いとったんか。ハアちゃんは優しい子やなあ」
「せやけどな、どんぐりさんはおうちに帰らんでもええんやで」
「えー?」
「どんぐりさんはな、そこで芽を出して、どんぐりの木になるんや」
…
「そや、そや。家に帰らんでも、そこで頑張って木になったらええんや」
「おうちに帰らんと頑張る」
そんなことを、ハアちゃんはっそれまで考えたこともなかった。
何だか途方もなく遠く、不思議な話しを聞くようにも思った。
次男のタト兄ちゃんの得意の歌が流れる
男らしくよ 涙を捨てよ
泣くも笑うも 50年
意地で貫く 真実一路
越えて希望のあの丘へ
ハアちゃんは希望の丘というところには、どんぐりの大木がたくさん生えているんだろうと
思いながら、タト兄ちゃんの声に聞きほれていた。
⇒ このどんぐりころころには衝撃を受けた。
漫然と歌って歌詞は覚えていたが、ハアちゃんのように感じることもなく、
ましてやタト兄ちゃんのような言葉なんぞ出てきもしない。
うなった。
こういう兄弟でのやりとりがあるなんて。信じられない素晴らしい光景であった。
2. クライバーさん
お隣のドイツ人のクライバーさんへ 不法侵入のお詫びにお母さんと言ったときに浦島太郎の質問をする。
これもまたいいお話である。
「質問はなぜ乙姫さんは玉手箱を浦島太郎の土産にあげたのか?あけたら老人になるだけのものを」
学校の担任の先生はハアちゃんのこの純粋な気持ちを理解できずにいたがクライバーさんは違った。
「面白い質問です」と言った後、少し考えて真剣な顔で、
「私は玉手箱の中には浦島太郎の歳が入っていたと思います。あけなかったら、トシがそちらに溜まって浦島はずうっと
若いままだし、玉手箱を開けると、浦島は老人になります」
「アッ」とハアちゃんは思って、嬉しかった。
そしてクライバーさんに、
「クライバーさんは賢い人です」といった。
まったく差しの勝負のように子供の質問だからといってばかにせず一生懸命に考えて、相手を一人前の人間として
まじめに答える姿勢。素晴らしいなと思いました。
3. 秘密基地
子供の頃は自分たちの秘密基地が好きです。
ハアちゃんもたまたまいい基地を見つけて喜んでいましたが、要領が良くて虫の好かない同級生に告げ口をされてしまいます。
でも、校長先生はルール違反を責めるのではなく、あくまで子供たちの安全のことを説いてやめるように諭します。
「なっ。秘密基地は面白いけどな、やっぱり危険ということをかんがえないとなあかん。
実は校長先生は昨日の夕方、あそこへ行ってみたよ。確かにあれは最高の秘密基地や。
それでも危なすぎる。堀に落ちて泳げんへんだら溺れて死んでしまう。
あれはやっぱりやめなさい。」
校長先生は子どもたちの顔を一人ひとり優しい目で見て言われたのである。
クラスへ帰ると「城山君ら無事帰ってきた。バンザイ!」
と皆がバンザイをしてくれた。(告げ口をした)たぁちゃんだけは、仏頂面をしていたが、
クラスの同級生がこんな気持ちで待ってくれていたのには、ハアちゃんはぐう〜と胸があつくなって涙がこみ上げてきたのであった。
4.男の子も泣いてええんよ
お母さんのこの言葉がよかった。
そのわけはこんな話しである。
弟のあきちゃんが2つ病気でなくなった。
お母さんはあまりのショックに、毎日仏壇の前で御詠歌を涙ながらにあげ続けた。
他のことは何もする気がしなかったのだ。
そんなとき、お母さんの傍らにはいつもハアちゃんがつきまとい、お母さんと一緒に泣いたり、
御詠歌をあげる真似をしたりした。
それにうよって、お母さんの心はどれほど慰められたかわからない。
しかし、「それがもとで、ハアちゃんだけが泣き虫になったにゃろうかね」
とお母さんは言われた。
これを聞いて、泣き虫でも「別にかまへんわ」という気になったのである。
お母さんも胸のつかえが降りたような感じで、二人とも少し明るい気持ちになっていた。
エピソード豊かに綴られた、健やかで愉快な幼い日々。
心が温かくなる物語。
との寸評はその通りだと思った。
2008.12.31