「パイロットが空から学んだ危機管理術」
 
坂井 優基  インデックス・コミュニケーションズ
 
http://www.sakaiyuuki.com/
 
機長の危機管理術を頼んでいたら、家内がおまけにこの本を持って帰ってきたので
せっかくだからと読み始めたがあっと言う間に読めた。
なかなかいいこと書いているわ。
 
現場リスク編
 
 
危機管理でのノンフィクション中に機長の頭をよぎった先輩の言葉
「日本人は決定に感情を持ち込みすぎる。
決定はあくまで論理で詰めろ。決定にひとかけらでも感情を持ち込んだ瞬間、その決定は破綻する。」
 
● 善意は時として人を殺す
   ⇒ 「情けは人の為ならず」か
 
日本人はロジカルシンキングが非常に苦手です。
欧米では必ず論理で解決しようとしますが、日本人の判断にはかなり感情が入ります。
判断に論理以外の感情を持ち込むと、往々にして大失敗へとつながります。
 
ある航空会社で、副操縦士が機長昇格のシュミレータ試験で不合格。
その時のチェッカーに運航の責任者から電話がかかり、「彼も歳だから機長昇格の
最後のチャンスだ。今回のチェックはなかったことにしてもう一度やってくれないか」
との話がありました。
チェッカーも可哀想に思って、不合格になった試験はなかったことにして再試験をし、
その時は不備がなかったので合格としました。
そのパイロットは機長になったのですが、その後大きな事故を起こし、それを苦にして
自殺してしまいました。
 
 ⇒ ここでちょっと?
   機長の危機管理の本では、機長は半年あるいは1年毎に行われる厳しい身体検査と
   機長路線資格のための訓練審査から逃れることはできないと書かれています。
   たしかに機長昇格試験中は「家を建てるな!結婚するな!」といわれるほど大きな負担がかかるそうです。
 
 ⇒温情の気持ちは持ってもいいが、資格や責任を与えるときにはあくまで情を捨てよということでいいだろう。
  
 
ここでゴーアラウンド(着陸をやり直すこと)すると格好悪いとか。会社や横にいる副操縦士はどう思うかとか
余計な感情が入った判断は必ず間違います。
パイロットという職業は、判断に感情を持ち込んでは、絶対にいけない職業です。
 
 ⇒ これは非常に納得だが、茂木健一郎さんの創造性には感情が重要という主張もよくわかる。
   
● 腹のくくり方を考えよう
 
● 非定常状態は避けよう
一般的に事故は定常状態ではほとんど起こらない。
 
● 悪魔のささやきに耳を貸してはいけない
「今回だけなら」「ちょっとだけなら」 どんな時も断固却下
 
● 2つ以上いいことは同居しない
Win-Winというが、時間のない危機管理上はそんなことはない。
何かに迷ったときにすべてがうまくいくことはない。
何らかの回答を選ぶということは、どれかの条件を無視するか切り捨てることが必要。
このような判断を下すときに「2ついいことはない」と思うと悩まない。
安全のためなら駄目は駄目というきっぱりすること
 
● 危機の排除は仕組みで行う
人間の注意力だけに頼ると失敗する
 
● 迷ったら安全サイドに舵を取ろう
 
● 何となく変だと思ったら必ず確認しよう
 
● 「だろう」で行動してはいけない
 
● 都合のよい解釈をしてはいけない
 
● 人間は割り込みに弱い
 
● 体調が悪い時には必要最小限のオペレーション
 
● 生き残れるかどうかは事前の準備が決める
  
● 駄目だと思った瞬間人は死ぬ。絶対に最後まであきらめてはいけない。
 
  ペルーの人質事件で亡くなったのは突入前に遺書を書いていた2人だけだったとはビックリした。
 
 
中間管理職編
 
● 「もっと」は、どこかで止めないと事故になる。
 
● 2つ以上のパラメータを同時に変えてはならない。
 
  往々にしてこういうことはやりがちだ。
  私も発電所の試験で経験して痛い目のあっているのでよくわかる。
 
☆● 主観的なレポートこそが役に立つ
 
  これは嬉しかったですねえ。私が実践していること。
  部下にも求めている。所感を書け。どう感じたかを伝えてくれ。
  とおりいっぺんのレポートならホームページや新聞でわかります。
 どう感じて何を学んだか、そしてどう思ったか、何をやりたいか
 それらを報告書にはのせるべきだと思っています。

 そのことの後押しをしてくれることを書いてくれていました。引用します。
 
 何かをやるときに当事者は客観的事実で行動しています。
 だから本当はこのようなレポート(時系列で客観的事実を書く)も、
 このとき何を見て、何を感じて、どう思ったのかという点が重要です。
 このような主観的レポートこそ、後になって、そういうことがあるのかと他の人が参考になるレポートです。
 
● 前例を他山の石にしよう
 
 これ自身はなんともない知っていることであったが、この中で書かれている事実に愕然とした。
 
 失敗100選で取り上げていた北陸トンネルの列車火災事故。(昭和47年11月6日)
 トンネルの中では停車しないでトンネルを出てから停車すれば助かるという教訓が
 ドーバー海峡の事例で生きたのだが、
 
 その前に、マニュアルに反してトンネルを出るまで突っ走りそこで急停車させて消火して無事だった事例が
 昭和44年12月6日に同じ北陸トンネルであったのです。
 ここでもしマニュアルを書き換えていれば、大惨事は防げたのです。
 
 がーんん。そんなことがあったんですか。
 失敗100選ではそこまで書いていなかった。
 成功事例がつながらなかったという失敗例もあるんですなあ。
 
● 緊急時には情報は自分から探す
 
● 念のための確認情報を発信しよう
 
● 即座に最初の一報をしよう
 
● かけ声情報、禁止
  「かけ声情報」とは、安全に気をつけてくださいというだけの情報 
  発信者の自己弁護のためのアリバイ情報
 
  具体的にどの点をどう気をつけるか、どう仕組みをつくるかこそが重要。
 
  「かけ声情報」を出しつづけると、本当に必要な情報や指示を出したときにも
  まともに読んでもらえない可能性がある。
 
● 過剰な指示は出さない
 
● 対策には期限を明示すること
  これは一時的な対策をある期間で解除しようという意味
 
● おとなしい人ばかり集めてもいけません
 
☆● 人間の本質に対処しなくてはいけない
 
  私にとってはこれは非常につらい記述でした。
 
  早稲田大学の小松原教授が人間の規範の変化について大変興味深いことを話されておられます。
  従来、交通、製造をはじめとする日本の業界には、ものすごく志が高く何とか安全を守ろう、少しでも安全のレベルを
  上げようという人がほとんどでした。すべての安全に対するシステムやマニュアルは、従事している人がこのような高い志を
  持っているものとして作られています。ところが最近世の中のいろいろなところで、この志を持たない人たちが仕事について
  いるという指摘です。これらの人については従来の様々な安全施策が通じない、この問題をどうするかについて、
  世の中はまだ明確な回答を持っていないということです。
  もう1点最近、特に強く感じるのが、最近の若い人の間で「危険を察知する力」、これは危ないという「リスクを判断する力」が
  非常に弱くなってきているのではないかということです。
   中略
  リスクに対する感覚がにぶくなった若者が、これから社会の中枢に入り、数十万人分のエネルギーを使うわけですから、
  今までと同じ教育でいいはずがありません。企業は今までの教育とは完全に違う教育を行う必要があります。
 
 
☆● know WHY
   ボーイング737のマニュアルにはいたるところに四角で囲まれたコラムの中に「Warning!」が書かれた部分があり、
   そこには、ここに書かれたことを守らないとこんなに大変なことになるということが示されている。
   過去に第二次世界大戦の時の戦闘機のマニュアルには、飛行機がひっくりかえったようなイラストがいたるところに出てきて、
   制限事項を守らないとこんな大変なことになるということをわかりやすく示している。
 
   ただ何々を守りなさいだけでは、ほかの事項との優先順位がわからない。AもBもCも同時にすべてを守るのは不可能な場合が
   数多く存在する。
   その時の優先順位の判断のもとは、これをやったらどうなるということがわかっていなければならない。
 
   ただ単に手順を説明してそのとおりやりなさいという教育方法は事態がすべて予定どおりに進んでいるうちはいいが、
   少しでも予定した状態と違う状態がでてきたときにはどうしていいかわからなくなる。
 
   「これをやりなさい。やらないとこういう結果になりますよ」
   「これをしてはいけません。やるとこいう結果になりますよ」
   という2つの教育が重要です。
 
   現在以上に安全性を上げるには、単にこうやったらうまくいくというノウハウだけの教育から、なぜそれをしなくてはいけないのか、
   なぜそれをしてはいけないのかも教えるノウホワイ(know WHY)の教育へと変えていかねばなりません。
 
 
● 異分野の知識を採り入れよう
   これは全く違和感なしである。
 
   航空業界の安全セミナーに最近目立ってきたのが
   鉄道会社や原子力発電所、医療関係などの分野
   逆にパイロットもそのような分野の勉強をしている。
 
 
●  危険の兆しを見つけたら直ちに対処しよう
 
●  無言の指示は厳禁
   無言の指示というのは、無言の圧力の意味でした。
   特に上司からのノルマ
 
●  点検や工事は一番影響のない時間帯にやろう
 
    新幹線の安全は夜中に完全に停止するのはこの基本を守っているからだと思う。
 
 
● 時間と手間をかけたリアルな緊急訓練を
 
 
トップマネジメント編
 
● 安全はトップが本気で取り組むかどうかで決まる
  JR東日本の山之内さんの本を読んで実感している
 
● 安全なくして売上はありません
 
● 絶対安全という発想が危うい   
 100%の安全はあり得ないけれど、そこへ向かって0.1%でも向上しようと努力を続けることによってのみ安全は保たれる。
 
● 時には仕事を受けないという判断やNOという勇気も
 
☆● 巨大企業になるほどリスクは増える
 
  昔は巨大企業は安心の印でした。今、消費者の目は違うところへ向いています。
  これだけ情報が発達した時代になると、1ケ所の不祥事で企業全体の倫理観が判断されてしまいます。
  100人の会社と1万人の会社を比べると、1万人の会社の方が、どこかで誰かが社会的に許されないことを
  する危険性が増加します。
  さらに組織が巨大になればなるほど、末端まで情報が伝わらず、末端からの問題提起も上層部に伝わってこなくなります。
  巨大企業が力を誇った時代は終わりを告げました。
 
 
  
● 現場をリストラしない
 どの会社もリストラの計画をたてるのは人事部等の間接部門です。
 間接部門こそ本来は減らすべきなのですが、同じ職場で働いている人たちはなかなかリストラしにくいのが人間の意識です。
 さらに間接部門の人間にとって間接部門のリストラは自己否定につながります。
 本来間接部門は現場をサポートするためのもので利益を生み出しません。
 間接部門こそリストラの対象とすべきなのですが、自分たちの仕事は重要だと思い、
 現場の仕事はよくわからないためにどうしてもリストラのしわ寄せは現場に行きがちです。
 日本のホワイトカラーの生産性は先進国中で最低というデータがあります。
 一方、生産現場の生産性は先進国中最も高いと言われています。
 すべての組織で本当に利益を生み出しているのは現場です。
 さらに日本の企業ではどこも現場が一番合理化が進んでいます。
 その現場を削って、一番効率の悪い間接部門を温存するのですから、結果がどうなるかは明らかです。 
 
 
 まったくの同感。ここまで書いたのは筆者も相当怒っているんでしょう。
 
    
● 事が起きたらチームで対処しよう
 システムでなく、個人の力量と献身にのみ頼ったやり方は最初から破綻しています。
 いつミスや事故が起こっても不思議ではありません。
 
 耳が痛いことばである。
 
● 下から情報が上がってくるのを待つトップには明日はない
 重要な点は、現場に出たらトップが話し過ぎないことです。
 トップは紙にしろビデオにしろ上位下達の手段はいくらでもあります。
 それなのに、せっかく現場に出ているのにもかかわらず、「俺の意思を皆に言ういいチャンスだ」とばかり、
 話したがる人が多すぎます。
 現場に行ってもほとんどが独演会で、とってつけたように2,3の質問を受けて簡単に答えるだけ、その質問が実は問題を
 提起しようとするための前フリだということに気がつかない鈍感なトップが多過ぎます。
 現場に出たら、話を聞きだす言葉以外は口をつぐんで聞き役に回るのがトップの本当の仕事です。
 
● 悪い報告をしなかった部下を罰せよ
  70万人もの騎馬兵を統率したフン族最盛期の大王アッティラのルール
  ・悪い報告をした部下を誉めよ
  ・悪い報告をしなかった部下を罰せよ
 
● 自主報告制度をつくろう
  何かあったら個人を罰するという日本的なメンタリティーを棄てることが重要
 
 
● トップは緊急時の手続きを勉強しよう
  
● 有事のときの代行者の序列を決めておこう
 
 
● 自ら現場で指令や命令を
 危機管理の際の言葉です
 
● 芋づる式人事は危険の温床
 
● 「安全」には一定の予算を
 
● 有事の指揮は平時と違う
  独断専行 平時は×だが有事は○
 
● 行き過ぎた規制緩和は人を殺す
 アメリカでの航空事故の原因の第一はディレッグ(deregulationの略)にあると思っています。
航空業界だけでなく、電力をはじめとえいて様々な業界で規制緩和の嵐が吹いています。
規制緩和は一歩運用を誤ると、社会の様々な場所で危険を増大させます。
 
筆者の実感なんでしょうね。これは。わかるような気がします。
 
● 問題はシステムで解決しよう
 ニューヨークの前市長ジュリアーノ氏は、コンプスタットというコンピュータシステムを導入して、市の犯罪率を大幅に
下げることに成功。
このシステムは犯罪がその地域に集中しているかを、時間帯、犯罪の種類、曜日等によって分類し、地図の上に
表示するとともに、過去の様々な時間区分での各犯罪率の変化傾向と前年との比較ができるようにしたシステムです。
 
これにより、例えばある地域のガソリンスタンド強盗は、午前3時に発生する率が高いなどの傾向分析を行い、
犯罪が起こりやすい時間帯や場所に事前に警察官を多量に配置することにより、犯罪の発生そのものを大幅に
低下させました。
また、市警の8つの管区長はその管区の幹部全員が集められた中で、各数字についての説明責任を求めました。
コンプサットのデータにより犯罪の発生率が高い管区に低い管区が減少方法を教えたり、特別なチームが発生率の
高い管区を応援したりと、様々な方法が採りいれられました。
誰が仕事をして誰が仕事をしてないかが明確になったために、様々な部署で改善が行われ、ニューヨークでの犯罪は
激減しました。
さらに、統計学を利用してあり得ない数字の変化を洗い出し、成績を上げるための不正な入力やごまかしも発見できる
ようになっています。