「なぜ社員はやる気をなくしているのか − 働きがいを生むスポンサーシップ 」
柴田昌治 日本経済新聞出版社
前書きに、リハビリ室で1日何時間ではなく、日常生活のなかで挑戦していくほうが断然効果が上がる事例をひいて説明
「プロセスをつくり込む」とは
頭で理解しているということではなく、身体で覚えこむようになる。
めざす状態へと至るプロセスをツールや専門的な技術を使いながら
みずから経験する中で、高品質のチームワークができるようになるまで
反射的に動けるように運動神経を鍛えていく。
人は、明確に目指すものがあり、希望が目の前にあって、困難に立ち向かうだけの
気力を奮い立たせる理由をみつけられたとき、そして可能性を感じ、自分の全人生を
かけて必死になれたときには、非常に大きな力を発揮するものなのだ。
○ 制度だけ非常に立派なものができても、
運用次第でいくらでも変質してしまう。この運用をきちっとやろうとするなら援軍づくりが
どうしても必要。そのためには、あらゆる機会を通じて、情報を共有する努力をしなければ
ならない。単なる情報提供だけでなく、その背後にある背景情報や周辺情報も。
⇒これを富士通の成果主義導入の際に注意したが幹部には理解されなかった
●失われる対話
自分でいつも答えを作ってしまうトップは、せっかくでてきた新しい知恵やアイデアも
ほとんど採り入れることができない。あくまで一方通行。
部下との対話が成立しない上司の弊害は、かつてとは比較にならないほど大きい。
○ 現場が考え抜いている会社は強い
トヨタの社員は作業標準を徹底して守って仕事をするといわれている。
なぜ徹底することができるのかといえば、みずからが改善しつづけた作業標準であり、
上から押し付けられたものとは認識していないからだ。
現場の人たちは、自分たちが考え抜いて作業標準を作り、つねに改善しつづけていることに
誇りをもっているし、それができるだけの知恵も経験も持っている。
彼らにとってはみずから改善に寄与した作業標準はある意味では仲間の掟なのだ。
だから徹底的に順守するのである。
⇒ ここは最近入ってきた若手社員の声を聞いてみたい気がする。
作った連中はそうだが、できた後に入ってきた連中は思考停止じがちである。
守ることが目的化して盲目的になって、考えない。
トヨタでも同じようなことが果たして起こっていないのだろうか?
○ 組織は生き物、変わらなければ死んでしまう
組織の生き物としての特徴は、絶えず新陳代謝を繰り返し、変化しながらしか生き続けることが
できないところにある。だから、生き物としての組織が「変化を起こさない」ということは
「死んでしまう」ことなのだ。
組織も人と同じで、健康に存続しようと思えば、同じ状態で静止しているのではなく、
適切な新陳代謝とそれにともなう「ゆらぎ」が必要である。
何もしないで怠惰な生活を送っていると身体がどんどんなまっていくのと同じで、
組織も意図的に何らケアをせず、そのままにして放っておくと、時とともに腐敗が進行していく。
というのも、どんな組織でも混乱を避け安定していくことをいつのまにか志向しているものだからだ。
だからゆらぎが必要!
「混乱を嫌う」というごく当たり前であるがゆえに組織の老化を確実に促進していく性向は、
どんな組織にもあるものだが、特に公務員の組織などではその傾向が顕著である。
まさに本能的に混乱を排除しようとする価値観が、公務員の組織では隅々まで蔓延している。
公務員の組織は老化しやすい組織なのである。
☆ 引き算ではなく足し算の人間観を
引き算:「こうあってほしい」という理想像を前提に
「ここが足りない」「あそこも足りない」と引き算してゆく
足し算:人をあるがままに見て、
「この部分は生かせるのではないか」「このあたりを頼りにできないか」
と足し算してゆく
⇒昔、新入社員の時に人事の人から言われたものだ
わが社は減点主義だから、間違いを起こさないように
このときに非常に面白くないと思ったものだ。
自分は足し算で考えている。
でも会社の風土は引き算である。変えたいなあ。
○進化の価値観を共有する
信頼を実感できる組織
<価値観>
問題はあるのは当たり前
失敗しない人間はいない
軸<価値観>を共有する
自分で考えて判断する
まずはやってみる
失敗したことを追及する
内発動機付け
本音で接する
混乱を許容する
情報はみんなのもの
<思考・行動>
問題を発見・顕在化する
失敗を経験にする
信任し任せる
自己責任でやる
リスクをとる
失敗の事実を検証する
みずからが動く
味方として厳しく向き合う
自由に発言し行動する
情報はオープンにする
問題を発見・改善することで組織は発展する
変化することによる不安定・運動状態
「鍛えられて進化」
○不満分子の隠れたやる気
EPSONがお客様の怒りを感動に!というキャッチフレーズを作って感心していたが
まさにそのとおりだと思う。
ここにもそれが書かれていた。
「愛情」の反対は「憎しみ」ではなく「無関心」というのも説得力がある。
「クレーム」をつけるのは、「その問題に強い関心を持っている」ことの表れということ。
そんなときに誠心誠意を尽くされると、その印象も倍加する。
○ オフサイトミーティング
これは別の本「なぜ会社は変われないか」で知り、そちらに詳しく書いているので省略
オフサイトミーティング 気楽にまじめな話をする場
アフター5の飲み会 気楽に気楽な話をする場
会議 まじめにまじめな話をする場
● なぜ人は協力し合えないのか − 社会的ジレンマ
「社会的ジレンマ」とは、お互いに協力し合えばみんなが利益を得られるのに、各自が
自分の利益だけを考えて行動して、結局みんなが不利益を被ってしまう状況を言う。
「社会的ジレンマ」の実験結果の中で注目すべきは、ほかの人が協力してくれるという
期待感がもてないとき、ほとんどの人が協力的な行動を取らないという点である。
⇒ このために信頼関係を構築することが不可欠
問題なのは、自分は協力したほうがいいと思うが、相手が協力してくれるかどうかわからない
ときに、自分だけ協力すると「損」になる、と考える人が多いという現実である。
◎ 信頼感が作るセーフティネット
「誰からかサポートしてもらえる」安心感と信頼感がないところでは、協力は起こりにくい。
一人ひとりがバラバラなところでは、それが自分を守ることだけで精一杯という状況に
陥りやすいからだ。
「スポンサーシップ」は、「経営に対する信頼感」や「仲間からの協力」を作り出すトップ、
上司の役割である。
セーフティネットがある程度用意されているという条件があって初めて、
誰もが内発的な動機を醸成させることができるのである。
内発的動機は上司への信頼度が高まると引き出されやすくなる。
○ 変わり続けるための因子は、
「内発動機を持ち、主体的に取り組むことで、問題をみずから発見し、提起し、周囲の協力を
得ながら、問題解決していくことが、誰にとっても当たり前」という「組織として共有して
いる価値観」の存在である。
一人ひとりが、自分で考え、問題を見つけ、解決してゆくことが、当然の価値観として
共有されている組織は、環境の変化に対して変革を続け、実績を上げ続けることができる。
そして、そこで働く人たちは、仕事を通して成長し、仕事に喜びを感じ、仕事を通じて
幸せになることができる。
こうした価値観が共有されている組織では、誰もが問題を発見しようとしている姿勢を
持っているから、強い問題意識を持ち、「この組織には問題が多い」と常に危機感を
感じている。外から見るとものすごくいい組織に見えるのだが、中にいる人たちにとっては
いつも問題だらけで危機感に満ちているのである。
○ 新しいリーダーの「黒子的・世話役的機能」
従来型のリーダーシップで、社員を強制で動かして、目先の利益を追いつづけるのか。
それとも、スポンサーシップを発揮して、社内の内発的動機と潜在パワーを引き出し、
利益を上げ続ける組織に変えていくのか。
すべての組織が、今その選択を迫られていると言える。
■ スポンサーシップの機能
@ セーフティネットづくり
A 対話でビジョンを描き、共有する
部下の内発的な動機を引き出しながら会社運営をしていこう、と思うなら、単なるスローガンに
とどまらない軸の明確化と、それにもとづくビジョンを示すこと、それをみんなに腹に落として
いくことが、非常に大切な意味を持つ。
「何を目指すのか」「どうなっていきたいのか」「どういう方向にいくのか」というようなことを
明確にし、社員に腹の底から共有してゆくことは、経営に対する信頼感を醸成することにつながる。
また、みんなで価値観を共有することでもあるし、社員の内発的動機を引き出すことにもなる。
ビジョンを明確にしようとする姿勢をまず示し、とは言え、自分ひとりで作ったものを突然提示
するのではなく、まわりと対話を繰り返しながら、理解や納得のレベルが上がった結果として、
ビジョンが生れてくる、というプロセスを持つことが、非常に意味のあるものなのである。
そのためにまず必要なのは、信頼感をベースに徹底的に対話をすることのできる場と時間の確保である。
こうした条件を整備することもスポンサーシップの役割だ。
大切なのは、最初からビジョンを持っていることではない。
めざすものをみんなで腹の底から共有していけるかどうかである。
B 「対話力」で一緒に答をつくる
対話力とは、上手に話をする能力のことではない。
場合によっては話下手でもかまわない。対話とは答を一緒につくっていく行為である。
したがって、対話で絶対に欠かしてはならないのは、話を「聴く」姿勢なのだ。
人の話に耳を傾け、心をまっさらにして聴こうという姿勢が、意見のやりとりから知恵を
生み出すためには何よりも大切なのである。
⇒ここはよくわかっているつもりだ。
ヒューマンファクターでも「聴解力」という言葉を使っている。
対話力の場合はどうしても「話す」というイメージがあるので
私は「聴解力」をベースにした対話というほうがピッタリだと思う。
● 加齢とともに著しく減退していくのが人の話を聴く能力である。
たとえば、聞いてはいるが、すぐに我慢しきれなくなって相手の話をさえぎってしまう。
自分のストーリーで聞いているだけ。
自分の聞きたいように、自分の用意したストーリーに沿ってしか聞いていないのである。
相手の話に最後まで真摯に耳を傾けるという対話の出発点ができていないのは老化現象
C 当事者としての姿勢と自己革新
○ 経営幹部が定期的にスポンサーシップ研究会を開く
幹部クラスのオフサイトミーティング は効果があるようである。
◎ 「仲のいいけんか」ができる組織
チームワークの質を高める条件
・味方として厳しく向き合う
・徹底的に議論する
・目的を腹の底から共有する
・みんなが当事者となる
・お互いに役割を確認しあう
○ 世話人とは
「組織を進化させる価値観」を大切にしながら、組織の潤滑油的役割を果たす社員
管理者であることが多いが一般社員のときもある
上から見ると参謀役、下からみるとスポンサー的存在
● 改革の成功確率
関心の強さが強いと成功しやすい。
このときに理解の程度は高いほうがいいが、低い場合でもなんとかなる。
一番大きな問題は「人間観」の部分。
「人間は言われたことをキチンとやることによって成果を出す」という高度成長期の定番的人間観
は、今なお強い影響力をもっている。しかし、今の時代に有効なのは、「社員が納得し、
当事者としてみずから仕事を切り開いていくようにサポートすることが、結果としてより大きな
成果を出すことにつながる」という考え方だ。
○ 「承認者」と「当事者」
改革をすすめる組織の上位組織のトップの果たすべき役割は、
自分の部下たちが変革にトライするのを「承認」することである。
つまり、上位組織のトップ自身が当事者として変革に取り組むことは必要ない。
一方、実際に変革を進める当事者のトップは、必ず「当事者」でなくてはならない。
トップの位置付けが「当事者」なのか「承認者」なのかによって、果たす役割の大きさと
影響の及ぼす範囲は決定的に違ってくる。
承認をしてくれる人は比較的見つかりやすいが、当事者になりえる人はそう簡単に見つからない。
変革を進める当該組織のトップが当事者としての姿勢を持っていない場合は、それが部であっても
会社であっても、変革の条件は備わっていないと考えてよい。
「変革の当事者」は、みんなと一緒に答を作り上げていく努力をし、チームの一員としての
役割を確認しながら、葛藤し、みずからを変えていき、みずから学ぶ努力をしている。
当事者であることは、「みずからが組織の進化を支えていく進化の価値観の体現者でなくては
ならない」ということである。だから、当事者になることは、もちろん大変なことなのだ。
自己変革が必要だから、生半可な思いでは当事者としてふるまうことはできない。