ビジョナリーカンパニー 
 【特別編】  

ジェームス・C・コリンズ 山岡洋一[訳]
  日経BP社

特別編が出たのでどんなものだろうと興味を持って図書館で借りてもらった。
奥さんが図書館勤務だとこういうことができるのでいい。
真っ先ではなく先約が1名いて2番目であった。

本を見て、エッツ!何なの?
A5版で100ページに満たない薄さ。
完全に拍子抜け。
これはすぐに読めるわと思ったがその通り。

作者はビジョナリーカンパニー2の続編であり、合体して再発行すれば
すでに読んでしまった読者に悪いと書いていたがその通りだわ。
そんなことしたら怒る。

内容的にこれまでの1,2から新しいことはなかった。
すなわち、本書のテーマは、企業ではなく、役所や財団法人、そしてNPOなどの
「社会セクター」(筆者の言葉)に関する考察であった。
結論的にはビジョナリーカンパニーでの飛躍の原則がそのまま当てはまるということ。

だからもって、これまで読んできて腹に入った読者には何をいまさら、
新しいことなんてないじゃないか!という不満がつのるのである。
これが1000円では高すぎる。
作者はボロ儲けしているかも知れないが、善良な一読者としては不満だ。

まとめとして読むには非常にまとまっている。
ただこの本だけ読んでもダメだろう。
1,2を読まないとダメだ。

ま、違いとしてちょっとだけ書いておこう。

○ インプットとアウトプットの違い
インプットとアウトプットの混同は、企業セクターと社会セクターの基本的な違いのひとつに起因している。
企業セクターでは、金銭はインプット(偉大な実績を達成するための資源)であるとともに、
アウトプット(偉大さを図る指標)でもある。
社会セクターでは、金銭はインプットであるだけで、偉大さをはかる指標にはならない。

○ 第五水準のリーダーシップ → これは全く共通、そして重要
第五水準のリーダーシップとは「謙虚さ」や「親切さ」、単なる「包容力」や「全員の合意を得る力」ではない。
第五水準とは要するに、正しい決定が下されるようにすることである。
どれほど困難であっても、どれほどの痛みを伴うものであっても、長期的に偉大な組織を築き、組織の使命を
果たすために必要な正しい決定が、合意や人気とは関係なく下されるようにすることが要点である。


○ 動機付けの原資
飛躍できなかった企業 熱意や規律のない人を「動機付ける」ために奨励給を重視していた
偉大な企業      適切な人、つまり、生産的にはたらく性格をもともともっている人、熱意や動機がもともとある人、
1日1日に最善を尽くさなければ満足できず、それが生まれついての性格である人を採用し、維持することを重視
 (適切な人をバスに乗せる)

これがNPOでうまくいった例
一流大学の卒業生に社会人としての当初の2年間、低所得者層の子どもたちを教える教師として公立学校で
働かせることに成功。
 (ウェンディ・コップ氏 著書「いつの日か、子どもたち全員が…」)

給与が低く、学校が荒廃していることを承知のうえで、優秀な学生が集まったわけは以下のとおり。

第一に学生の理想主義的な情熱を呼び起こし、
第二に志願者の中からほんとうに優秀な学生だけを選び出す仕組みを設けたから

コップは優秀な学生にこう語りかけている。
「皆さんが本当に優秀なら、私たちの運動に加わることができる。
しかしまずは厳しい選別と評価を受けなければならない。
選出されない場合に備えておいて欲しい。
これらの教室で成功を収めるには、特別な能力が必要だからだ」

選別の仕組みがあることで、支援団体に信頼されるようになって寄付が増加し、
この資金を使って、運動に応募する学生、選別の後に参加を認める学生をさらに増やせるようになった。
2005年には応募者が累計9万7千人を上回り、そのうち1万4千人に参加を認めた。
年間の寄付収入も4千万ドル近くになっている。

コップは3つの基本を理解していた。

1 選別を厳しくするほど、仕事の魅力が高まる 
  ボランティアや低賃金の仕事でもこの点に変わりはない

2 社会セクターは明らかに有利な点がある。
  生きる意味を必死で求める人が多い事実である。
  目的が純粋であれば、子どもたちの教育、宗教教育、地域社会の治安維持、偉大な芸術に触れる感動の伝達、
  飢餓に苦しむ人への食料提供、貧困層の支援、自由の擁護など、
  どのような活動でも情熱と使命感を燃え上がらせる力を持っている。

3 社会セクターの偉大な組織にとって何よりも重要な資源は、使命の達成につくす適切な人材である。
  適切な人材が揃っていれば、資金を引き付けられることが多いが、資金があってもそれだけは適切な
  人材を引き付けることはできない。
  資金はありふれているが、才能はそうではない。
  時間と才能があれば資金の不足を補える場合が多いが、資金があっても、それだけでは
  適切な人材の不足を補うことはできない。


針鼠の執念は社会セクターにとっても非常に重要である。