「馬づくり馬そだての戦略」

   吉田 照哉/著 ミデアム出版社



  

【内容紹介】
 日本のサラブレッド生産を席巻した観のある社台グループ。
 より強い馬づくり、馬そだてを目指し、世界へと目を向けるその総帥・吉田照哉の戦略に迫る。


角居調教師の本がよかったので、他の人の書いた競馬の本は図書館にあるのかな?と思って検索したら
唯一この一冊がヒットした。

出版年は1997年である。
20年前のものであるが、今でも光り輝く感じを受けた。

社台グループが築き上げた現在のシステム。
その土台となった種牡馬が「ノーザンテースト」と「サンデーサイレンス」であることがよくわかった。

現役時代のサンデーサイレンスは、アメリカ競馬史上でも屈指の個性派だった。
エリートホースの典型的のようなイージーゴアーと度重なる死闘を演じ、これに勝ち越すことで、
プロレスで言えばヒール(悪役)的立場としてアメリカ人の心を魅了した。
強さもさることながら、その漆黒のルックスもあいまってアイドルというよりヒーローという方が的確かも知れない。
そんなファンや関係者たちは、どんな思いで日本への旅立ちを見送ったのだろうか。
その心境を察して以来、是が非でも種牡馬として成功させて彼らのある種の無念に報いなければと
決意するようになった。


この表現が面白かった。
トニービンとの比較で
「トニービンは白人的な粘り強さ、サンデーサイレンスは黒人的なパワー」というフレーズをよく使うのだが、
われながら2頭の違いをうまく表現できていると思う。




社台での種牡馬の思い出が前半
そして1996年の社台G1馬の回顧

最後に競馬への提言が書かれており、一番力が入ったのは最後であることはよくわかった。

社台グループが一企業として、リスクを取って種牡馬への投資を行っているのに
JRAがカネにまかせて安易に高額種牡馬を購入し安い種付けで提供していることは
健全な企業競争を阻害していること、
そしてこれだけ競馬界を盛り上げている一口競馬オーナー制度の発展を阻害しかねない
「入厩頭数制限強化」への疑問と危惧はよく理解できた。

こちらで様子はわかるかと。
https://ameblo.jp/whitestone-freshvoice/entry-12064724759.html

あと公営との交流については吉田氏の希望が最近ではかなり反映されてきたように思えた。

またセリに関しては社台グループの努力のおかげで、最近は非常に成功しているように感じるところである。


一番、これは!と思ったのが「ゲート入りのプロ」の話であった。
引用してみよう。

外国の枠入りは、プロレスラーのような大柄な男性が2,3人で抱きかかえるようにして連れていったり、
逆に女性がやさしく誘導したりしている。
本馬場入場からゲート入りまで、ポニーがパートナーを務めているシーンをご覧になったことがあるだろう。
方法がさまざまだが、共通しているのは、いずれも枠入りを専門にしているプロたちが、馬の気分を損ねない方法で
やっているということである。
対して日本では、通常7人の職員と補助係3人の計10人が整馬(輪乗りから枠入りまでの管理)を担当しているが、
ほとんどがそれを専業とはしていない。
これも枠入りのアクシデントが続出する遠因になっているようである。
そこで提案だが、ヨーロッパの枠入りのプロを、当地ではオフシーズンに当たる冬期に招いてレクチャーして
もらうのはどうだろうか。
ムチを使わなくても馬が自ら進んで入っていく方法を直接教えてもらい、日本にも枠入りのプロを育ててもらうのである。


現行の規定のうえでは、ファンファーレの前に枠入りをはじめないとか、
枠入りは2分以内に行うとか、あるいは競馬には出走を停止するなどといった画一的なルールや
罰則に縛られすぎているきらいがある。

円滑な運営はファンのためであり、その姿勢が今日の競馬ブームを根底で支えてきたことは理解しているが、
規則にとらわれるよりも、まずは相手が繊細な動物であることを考慮すべきである。
ファンの競馬に対する意識が格段に向上した今日なら、馬を優先に考え、馬にやさいい対応をしているところを
アピールするほうがむしろ競馬の本質にかなったサービスになると思う。


95年のホッカイセレス号事件 (ウィキペディアから引用)

モガミ産駒に見られる気性の悪さを露呈し続け、発走ゲートへの枠入り不良や出遅れ癖を続けた同馬は
1995年巴賞優勝後にJRAより「一定期間出走停止、期間満了後にゲート再審査」の処分を受ける。
陣営側はこれを不服としてJRA側に処分撤回を申し立てるも却下され、
秋の目標としていたマイルチャンピオンシップへの出走が間に合わなくなったため同年11月に現役を引退した。