ザ・ゴール
 エリヤフ・ゴールドラット著
 三本木 亮 訳
 ダイヤモンド社

日経ビジネスの紹介記事を読んで興味を持った。
それは、紹介記事では日本には翻訳許可を出していなかったという著者(イスラエル生まれの物理学者)
の言葉である。
紹介はザ・ゴール2であったが、これは1から読まないといけないなと
思って初版とその2の2冊を購入した。
そして自分としては珍しく一気に500頁もあるその1を読み上げてしまった。

工場長アレックス・ロゴは3ヶ月で工場の閉鎖を通告される。
苦悩の中で恩師ジョナ(物理学者)に空港で出会いヒントをもらう。
このジョナが筆者そのものである。

仕事だけでなくプライベートでの妻との葛藤ももうひとつのテーマとしているのが
小説らしい彩りを添えていて飽きさせない。

仕事と家庭の両立をゴールとしてアレックスはがんばる。

ジョナの教え
◎部分最適ではなく全体最適を目指しなさい。
会社のゴールは利益をあげることで、各パーツの効率を上げることではない。
このためフローを支配している制約条件(ボトルネック)を見つけて、
その性能を最大限に伸ばすことに全勢力を注ぎ改善する。
そのため必要経費が増えてもかまわない。
あくまで利益がでればいいのである。
このため3つの指標があるが、その優先順位は以下のとおり。
経費節減の重要度は低い。

1 スループットを最大にする
(スループットとは販売を通じて金を儲ける割合)
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原子力では定検のクリティカルパスを見つけている。

ボトルネックの発見にボーイスカウトのハイキングを例にとって
見せたのはすばらしい。
一番進むのが遅いバービー君を先頭にして、そして彼のリュックを軽くすることで
スピードアップした。
またマッチ棒のゲームでもボトルネックがスループットを決めるというのを見せつけた。
ゲームが一番わかりやすい。
人にものを教えるのには一番いい方法かも知れない。

組織で動く場合、何を大事にしないといけないかというと、
一番出来の悪いところ。弱いところ。
天性のカンの鋭いマネージャはできるだろうが、凡人はできない。



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2 在庫は売れて初めて利益になる訳でたくさんあるのは悪。

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これは最近キャッシュフロー経営となってきており、この概念は
生かされていると思う。
ただ、この本が出されたのは1980年代である。
BSで在庫は資産に区分され、負債ではないのが問題だと指摘している。

電力会社には在庫はないように見える。
しかし、負荷率がこれに当たる。
日夜、四季で需要が大きく変動する。
したがっていかにこの影響を小さくするかが大きな課題となる。
BSでは設備は当然資産扱いで負債ではない。
アセットマネジメントの概念が最近問われているのもこの本の影響か。
利益を生まない資産は売却しなければならない。


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3 最後に経費節減

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一律予算削減という具の骨頂をコーポレートは犯している。
ボトルネックも非ボトルネックも一緒くたにしてはいけない。
弱いところは十二分にリソースを与えなければいけない。
当社ではこの概念が不足している。
それは現場を知らない人間が予算を総括しているせいでもある。
また説明ができない、わかってもらえない。

人員も労働生産性対象人員と言って全社員で割っているのはおかしい。
やっとERPが導入されるが、私は、これでいかに当社の間接部門が肥大化
しているかがはっきりすると考えている。
一般管理費の比率にびっくりするはず。

電気を発電して、輸送して、販売する。そして儲ける。
それが電力会社の目標だ。
それぞれの部門の人員以外の間接部門が多すぎ官僚化している。
仕事のための仕事をつくり在庫の山だという気がする。
何も発電部門の人間のひがみではない。
なんとかしなければと思っている。

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物語は大成功のハッピーエンドで終わる。
アレックスは昇進したが、素直に喜んでいない。
そう、家族のことを考えればである。
しかし妻にも仕事の話をしてアドバイスをもらうようになってから
夫婦は理解しあえたようだ。
これは大きなヒントかも知れない。


最後にマネージャとして成すべきことを3か条にしている。

何を変えなければならないか?
何に変えるのか?
どのように変えるのか?

現状に満足していてはならぬ。

ザ・ゴール2 思考プロセス
 エリヤフ・ゴールドラット著
 三本木 亮 訳
 ダイヤモンド社

ザ・ゴール1に続いて一気に読んでしまった。
これはおもしろい。小説風に仕上げていて中身は教育書である。
漫画にしても売れるのだはないかなあ。

アレックスの10年後。多角事業グループ担当副社長としてジョナの教えを
買収した3つの会社に展開していた。
しかし取締役会はコアビジネスへの集中を理由に売却を決定する。
1よりもさらに厳しい難題である。
しかしアレックスは従業員の雇用を守るべく高く売却できるよう
一気に売上を伸ばすことを考え付く。
3つのうち2つは10倍以上の高値で、残りの1社は売却しないで置いておくと
いう結末。そしてアレックス自身はCEOに選ばれハッピーエンドで終了。
やっぱり物語はハッピーエンドでなければおもしろくない。

今回は工場の生産性を上げるような手法ではなく、
とても不可能とも思える難題(対立点)に対して、どのように取り組んで考えていけば
解決策が生み出せるのかという「思考プロセス」を教えてくれる。

ジョナの代わりは妻のジェリー。
彼女は結婚コンサルタントとしてジョナの思考プロセスを熟知している。
とてもいいアドバイザーだ。配偶者を自分の知恵袋に使うというのは
非常に自然だし、いいことだと思う。なんといっても配偶者だ。一番信頼できる。

この思考プロセスを家庭内の問題にも適用しているところがすばらしい。

○ 娘のパーティ出席での帰宅時間 
○ 息子に自分の車を1週間貸すこと
○ 息子と友達の共同出資によるアンティーク車の修理・改造 

いずれも父親として直感からすべて反対していたが、妻に言われて思考プロセスで
「雲」を書いて考えていったときに、両者が納得するWin−Winの正解が
導き出された。

魔法みたいなものであった。

この手法により、傘下3社の競争優位のビジネスモデルを編み出し短期間に業績をアップ
させるとができた。

またプリゼンテーションにも用いて、社外取締役会の重鎮を納得させたところは見事としか
いいようがなかった。

経営哲学に関しても、著者の考えには共感できる。
利益だけが追求されていいのか?従業員のことは考えないでいいのか?
人をもっとも重視する私としてはこの問題は大きなテーマであった。
それを見事に解決される。

企業はこの3つをすべて同時に実現しなければならない
◎現在から将来にわたって、お金を儲ける
◎現在から将来にわたって、従業員に対して安心で満足できる環境を与える
◎現在から将来にわたって、市場を満足させる

相反するように見えるかもしれないが連立する解はかならずあるのである。
それを見つけることができないだけなのである。

このほか2点の個所を書き写しておく。
● 「マネージャーは、部分最適化を達成することで、会社を運営しようとしている。」
 「部分最適化のための重要な評価基準(コスト会計ベースの評価基準など)がある」
 かつ「リードタイム、確実性、品質、レスポンス時間、サービスを改善するための
  多くの策は、コストを節約するどころか、短期的にコストを増大させる」とすれば、
 「製造、流通部門の改善が順調に進まない」
 「技術部門における新製品の開発が順調に進まず、信頼性にも欠ける」ことになる。

● 「一部の金持ちを金持ちにする?」(私もそう思っていた!)
  トルーマンが私の言葉をなぞった。
  「アレックッス、私が投資した金がどこからきているのか知っているのかね?
  金持ちの投資家?、銀行? 投資しているのは、ほとんどが年金資金だ。
  知らないのかね」  (がーん!)
  「老後のために、みんな何年もかけてお金を貯めている。20年後、30年後に
  安心して老後を迎えられるよう、みんな今からお金を貯めているんだ。それを
  手伝うのが私の仕事だ。1ドル預かって1ドル返すだけでは駄目だ。インフレに
  対応できるだけの購買力を用意してあげなければいけない。私が番犬を務めているのは
  金持ちの利益のためじゃない。君が心配している人たち、つまり従業員のためなのだ」