「巨像も踊る」
 リイス・ガースナー
 山岡洋一・高遠裕子 訳
 日経新聞社

タイトルが気に入った。
巨像も踊る。
踊らせたのが1993年から2002年までIBMのCEOだった筆者。
外様トップとして着任。10年間で沈みかけていたIBMを復活させた。

90年代の経営者は如何に変化の時代に対応すべく、組織を踊らせるかが
使命であったのかも知れない。

IBMには個人の意志を尊重する優しいカルチャーがあった。
しかし、それが官僚主義と相まって惨憺たるものを産み出していた原因であった。

おそらく生え抜きの人間ではわからなかった、いやわかっていても変えられなかった
可能性が高い。

まさにピッタリの人事をアメリカでは出来るのである。
カルチャーショックを与えるためには必要なことなのである。
日本でも最近若い外国人トップが就任しているが10年遅れている。

官僚主義、さび付いたカルチャーを打破するためにガースナーは動いた。
おそらく1人で考えたことであろう。
顧客重視への転換。
というよりもIBMを使う立場の企業でいたからこそ、IBMにはこうなって欲しい
との思い、ビジョンがあったのだ。
顧客の立場になって考えると言っても、顧客そのものであった訳だから強い。
ただ、その思い、ビジョンをいかにこの大きな企業の個々人に伝えてわからせるかと
いうのは非常に難しい。

ビジョンは誰でも作れる。それをいかに実行させるかがトップの仕事である。
ガースナーの熱き思いは会社の外に向かっては「顧客重視」、内に向かっては
「カルチャーの打破」であった。
選択と集中にあっては、自らの領域外には絶対に足を踏み入れないという方針であった。

私自身にも熱き思い、ビジョンはある。
こうしたい、こう変えたい。人を育てたい。
そうした思い、熱意を大事にしたい。
失いたくない。

ガースナーの戦略で納得したのが、メールである。
自らが自らの言葉で発信する。これが昔よりも楽に出来るようになった。
その機能を最大限に活用している。
そして社員からのメールにはすべて目を通していたというのは本当だろう。
この行為は私自身も非常に力を入れているところであり共感を持つとともに
確信を得た。


また、業績評価面でも思い切った改革をしている。報酬「哲学」の見直しである。
下から上がってきた案ではなくガースナー自信が考えたのだろう。
外様で乗り込み、自分の意志を通そうと思えば、処遇制度を自分の思ったように変えるのが
最も効果的である。そこにすぐにメスを入れたところが賢い!とうなった。

日本でも能力主義とか言っているが、どうも後ろには「人件費」の削減が見えており、
ガースナーが哲学を見直すというものとは、一見、形は一緒でもその効果は全く違う。
気持ちが入ったものでなければ、効果は出ない。
日本の企業官僚の作った形だけのものには我慢がならない。
おそらくそれは形よりも「運用」に問題があるのだろう。


カルチャーの変更は以下のとおり
電力会社には耳の痛いことばかりである。

● 製品本位(使い方を顧客に指導する)
 ⇒ 顧客本位(顧客の立場で考える)

● 自分の道を行く
 ⇒ 顧客の方法に従う(本当のサービスを提供する)

● 士気向上を目標に管理する
 ⇒ 成功を目標に管理する

● 逸話と神話に基づいて決定する
 ⇒ 事実とデータに基づいて決定する

● 人間関係主導
 ⇒ 業績主導・業績評価

● 調和(政治的公正)
 ⇒ アイディアと意見の多様性

● 個人を非難
 ⇒ プロセスを批判(誰かではなく、なぜ?を追求)

● 見栄えのよい行動様式を良い行動と同等以上に重視
 ⇒ 説明責任(常に岩を動かす)

● アメリカ中心
 ⇒ 世界的に分担

● ルール主導
 ⇒ 原則主導

● 個人を評価するよう求める(部署)
 ⇒ 集団を評価するよう求める(全体)

● 分析に完璧を期して行動出来ない(100%以上)
 ⇒ 緊急感をもって決定し前進する(80%と20%)

● 他社の発明は無視する
 ⇒ 学習する組織

● すべてに予算をつける
 ⇒ 優先順位をつける