「社長が戦わなければ会社は変わらない」
  金川 千尋 信越化学工業社長
  東洋経済新報社

この本を読んで見ようと思ったのは、
信越化学という会社が経営的に優れているということをいろいろなところで最近聞いていたこと
金児 昭先生の連結決算の本を読んだが金児先生も信越化学の顧問だったこと
そして本のタイトルであった。

この前にIBMのルイス・ガースナーCEOの本も読んだばかりだったので
似ている点、異なる点を興味深く感じることが出来た。

共通事項として強く意識したことは

◎官僚主義の打破
 これは自分も常日頃から感じて、モットーとしていることであり非常に共感を覚える

◎人事処遇制度の見直し
 人事部門に任せるのではなく、社長自らが人の処遇について変更している。
 すなわち、よく仕事の出来る人間にはそれなりの処遇をきっちり行う

 飴とムチというが、トップは飴を自ら用意して厳しい時代に社員を立ち向かわせているので
 ある。

なんと言ってもこの2つだ。

それでは、この本での金川社長の印象やその主張を書き留めていこう。

まず感じたのはワンマン社長だということ。

官僚機構のトップではなく、
すなわち中央集権的なトップで、下から上がってきた事項の決定だけをするのではなく
部下を引っ張っていく「戦場の大将」だということ。
それは随所に戦争用語、「常在戦場」「山本五十六」などが出てくることからもわかる。
そして「好戦的」である。
頼もしい大将だが、下から意見具申ができにくいのではないかとの心配もある。
ただ、この懸念に対しては、フラットな組織とし、末端まで社長が目を届かせていることにより
現場の意見を吸い上げていることが伺える。
この手法はジャックウェルチのワークアウトにも似ている。

金川社長は自らJウェルチを尊敬していると書いているが、
スマート経営のガースナーよりも、熱血漢のウェルチに似ている。

次に非常に合理的経営を行っている。
キャッシュフローを重視し、借り入れは極力抑えている。
金が金を生むバブルには踊らされていない。
メーカであり、作って売ってナンボの世界である。

次に感心したのは「リスクマネジメント」である。
こればっかりは社長の能力と言ってよい。
常に「最悪シナリオを考えて」、その上で大胆な戦略を立てる。
凡人には出来ない。
これは才能だろう。
そういうことが出来る人しか社長になってはならないと思った。

金川氏自らが挙げている経営者に必要な5つの資源
すなわち、
「判断力」、「先見性」、「決断力」、「執行能力」、そして「人格」

「執行能力」だけは後から訓練によってアップさせることができるだろうが、
その他は、すべて天賦の才能によると言わざるを得ない。

金川社長がワンマンに見えるのも、これらの能力が突出しているせいでもある。

金川氏が最後に挙げている「人格」こそが、好かれる社長か否かの分かれ目だろう。
「人情」を持っている金川社長は、いくらワンマンでも慕われる社長だろう。
ここがJウェルチと違っているようだ。
Jウェルチは自己主義で暖かいハートは持っていなかったように見える。

自宅もおんぼろのままで清貧の社長を貫いている金川社長は、
生粋の日本人といってよい。
当然、法令遵守、コンプライアンスの意識が非常に高い。

組織論では、現在はやりのフラットな組織、プロジェクト経営を昔から行っている。
簡単に人を採用しない方針。
金川氏が構築した米国のシンテックは塩ビの世界一の生産工場だが230人しかいな
いのを自慢にしている。
特に間接部門はほとんど置いていない。
超合理主義で会社が運営されている。
電力会社は耳の痛い話だろう。

出来る人間には200%の仕事を与えよ。
そして処遇せよ。

今、ヒーヒーいいながら自分以下、グループに200%の仕事を与えられているのは
喜ばねばならないにか。もっと人をくれというマネージャは失格か。

ただ、問題は処遇である。
業績に対してポスト(昇進)でこれまでは処遇できたが、
パイが極端に減りその奪い合いとなった現在では運不運もあり、全員に満足のゆくポストを与える
のは非常に難しい。
仕事の完遂で達成感は得られるが、モーレツ業務の犠牲となっている家族を含めての満足感は
給与で報いるしかない。

優秀な業績の人間の業績にはボーナスで厚く処遇してやりたい。

とにかく出来る人間をクサらさず、イキイキと次から次へ仕事をしてもらうためには
この仕組みを考えるのが大切である。

その意味で人は取りすぎるとダメだ。と金川氏は説く。
業績が良くなったからとどーんと人を採用してはいけない。
プロジェクトを作って対応し、終了すれば解散する。
そういうやり方を昔からやってきたようである。


日経ビジネスの最近の書評で、ある評論家(名前忘れた)は、この本のことを

会社のことしか考えていない
この経営はデフレ下だからこそいいのであって
社員が少ないのは地域雇用を生み出さず貢献していない
と揶揄しているが

国益のためには会社の業績がよければ高い法人税を払って貢献している。
雇用対策は政府が考えることで、一民間企業がそんなことに配慮していたら
この競争社会で生きていけないのである。
金が金を生むバブルの時代はもうこないのである。

いまだに構造改革が出来ない日本。
肥大化した官僚機構がガンである。
なんとかせーい。

そういう意味では、まず企業からどんどん官僚主義を消してゆかねば
ならない。

自分の仕事の範囲はここまでですなんていわずに1人で200%の仕事をしよう。




今後の日本のためには
もっと「教育」のことを考えなおせといいたい。