「コトづくりの力」
常盤文克 日経BP社


常盤さんの本はいつも共感を覚える。
この本は教育で知り合った先生から推薦された本である。

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私は、企業活動の本質は、自分一人では実現できない大きな夢や憧れや目標を、
多様な個性と才能が集う場で実現しようという、いわば将来に向かって協働する
「集団的創造性」にあると考えています。
よく「いまは個の時代」といわれますが、個がいくら強くても集団は強くなりません。
個は全体という集団に支えられて、その強さを発揮できるのです。
個は全体に育てられ、育てられた個が全体を強くする。
この個と全体の相互作用がカギを握るのです。


きらめく旗印を掲げて、その実現に向かって全社一丸となって取り組めるような舞台を
作ることが、コトづくりなのです。

アタックの例

コンパクト洗剤、コップ一杯からスプーン一杯にして、洗浄力は従来を凌ぐという
大きな挑戦だった。
誰もができるのか、でも、できたらすごいぞ!と心を躍らせた。
この夢を具体的な目標に落とし込み、その目標を実現するためには、
従来と全く違ったアプローチや時には逆転の、また不連続の発走も必要だった。
経営陣も社長をはじめとして、「やろう、やろう」「いける、いける」と
技術者の背中を押し、また夢の実現に向かって手を引いてくれた。
開発のための研究費も惜しみなく出し、研究者のやる気を鼓舞した。

これぞコトづくり。
新洗剤開発への夢、その実現へ向けての仕組み、仕掛け
他部門の人たちも考え参加した
その結果、コンパクトゆえ原料の低減、物流、そして展示スペースの縮小につながった。




3つの切り口

常盤さんは、一貫して、昨今の「スピード」と「効率」ばかりに囚われているモノづくりを再考すべきと強く
主張されている。非常に共感を覚える。


1 大きな夢を描いて、これにみんなで果敢に挑戦するコトづくり
2 仕事を川上から川下まで流れで捉え、社員と顧客を結ぶコトづくり
3 金銭より仲間と働く喜び、技術と人の温もりを大切にするコトづくり


1 大きな夢を描いて、これにみんなで果敢に挑戦するコトづくりの例としてホンダ

ここで書かれていましたが、ホンダの役員室が大部屋制をひいている。
デスクの椅子をくるりと回転させると、自然に役員が向き合う形となる。
さまざまな問題について、随時、膝を交えて論じ合うことができる仕組みである。
常盤さんはこれを知って花王でもすぐに取り入れた。
役員室のドアをいつも開放し、社員が自由に出入りできるようなフロアも設けた。
気軽に社員と役員が相談や立ち話ができるようにとの願いである。


独創的な技術の追求を求めるホンダイズムの根底にあるのは
「人間は好きなことをやるときにもっとも能力を発揮する。だから好きなことをやれ」
という考え方である。

しかしそれだけではダメで、その方向性をきちんと押さえた上での話しである。
原爆を作りたいなどといわれると困るので、
やはり世の中の役に立つ、お客様のためになるという方向に導いていくのは当然のことである。

そして、自然に文鎮型組織で部門横断的なプロジェクトチームとして進めていくことになった。

最初は数人のコアメンバーが高い志を共有し、ベクトルを合せて「もの狂い」する。
収益は二の次だ。

「成功は99%の失敗に支えられた1%である」 
プロジェクトリーダーは失敗しても責任を取らされことはない。
失敗を恐れるよりも、チャレンジ精神が萎縮することを心配。

この対極にあるのが「コミットメント」の考え方
 → ちょっと違うんじゃないかと思った。
   私はこの言葉はわりと好きである。
   経営者が決意、決心を宣言することであって
   成果主義的に下までぞろぞろコミットメントするようなものではないと思っている。
   常盤さんのこの言葉はあえていえば「成果主義」というふうに捉えた


旭川動物園について2番目の例として挙げている。
内容自身にはなんら文句はないが、現地へ常盤さんが行かずにこの文章を書いたことが
非常に残念であった。
旭川までどうして見に行っていないの?
理解できなかった。行って、見てきてほしかった。


2 仕事を川上から川下まで流れで捉え、社員と顧客を結ぶコトづくり として

革製品の製造・販売の イビザ :IBIZA  http://www.ibiza.co.jp/

最初は販売だけだったが、スペインのイビザ島を旅したときに
ヒッピーの若者たちが自然な革の傷や烙印をそのまま活かした手作りの皮革製品を自分で売っているのを
見て衝撃を受け、「自分で作りたいモノを自分で作って売ってみたい。」との思いで
作って売る会社に変身した。
そして顧客との交流を深めて、顧客が望むものを作っていき現在のブランドを完成させた。
しかも社員はほとんどパートだという。

「職商人(しょくあきんど)」たれと常盤さんは言いつづけてきた。
これからの製造業は、職人であると同時に商人でなければならない。
材料の調達から製造について独自のこだわりを持ち、なおかつお客さんと深い信頼関係を
築いてきた姿を目の当たりにして、吉田社長さんこそまさにその「職商人」と思ったと言う。


脇木工 「Momo House」ブランド

http://www.optic.or.jp/com/wakimokko/wakimokko.html
 


このほか、岡野工業の痛くない注射針の話しがあったがこれは既知なのでここでは触れない。
2の分類ではなく3ではないかと思うのだが…。


3 金銭より仲間と働く喜び、技術と人の温もりを大切にするコトづくり

○ 高橋製作所  http://www.takass.com/about.html

諏訪市にあるのでとてもうれしくなりました。(EPSONつながり)


ブルドン管式圧力計の会社
43人の社員のうち8割が女性。それも創業時からのこととは驚き。

なぜ女性なのか?その理由を高橋社長は以下のように語る。

・未来に甘い夢を描くタイプの女性もいざ結婚すると現実に目覚めて、しっかりと今自分が置かれているその現実から
 出発しようとする。さらに、子供ができれば、もう自分のことは二の次で、子育てに熱中する。
 その過程で、人間的に一回りも二回りも大きく成長する。ある意味で女性は子育てを通じてモノづくりの心を
 会得するのだ。
 そういうすばらしい人材を活用しないのはおかしい、というのである。

 これを40年も昔からやっていることがすばらしい。

諏訪の女性はしっかりしているのだろうか。鈴木さんから、諏訪のおばさんパワーを聞かされていたので
高橋製作所の話しは違和感はなかった。

高橋製作所の和の経営 (人の温もりを大切にする家族主義)
1 手形切らず
2 首切らず
3 縁切らず


○ 東海バネ工業 http://www.tokaibane.com/
「量を追わず、単品を追う」経営に転換。(資金力に余裕がなく仕方なく)
他社がやらない、他社ではできない市場にターゲットを絞った。
原子力発電所の安全弁 の名が挙がっていたので親近感がわいた。

熟練工をスカウトして集めた。
値引きは一切しない。
良いものを安くではなく、高く買っていただけるようにいいものをつくる。


○ 北嶋絞製作所 「へら絞り」で有名  http://www.kenyou.co.jp/kitajima/kitajima_top.htm

会社のシンボルとなる巨大な「からくり時計」や「モニュメント」を受注。
こういう仕事をするときは、主要な部分は数人の技能者で作るが、最後の仕上げに至る工程のなかで、
たとえば磨きだけでも作業させるなど、必ず全社員に何らかの形で参加させるやり方をとっている。
そうすれば、後日、そのからくり時計やモニュメントの前にたったとき、みんなが「ああ、これは
自分がやった仕事だ」と胸をはることができる。 (北嶋社長のコトづくり哲学、社員にかける愛情)


電力会社でもプラントの建設がいかに達成感があるかというのはよく知っている。
これこそ全員参加である。そういうコトづくりがない現在、どういうコトづくりをすれば
いいのか?まさにそれが今問われていると思う。


☆ 中小のコトづくりの巧みさや仕事観、経営哲学の中に、いわゆる大企業病の壁にぶつかっている大企業の
 これから先に生き方の解があるのではないか?
 
 トップとの深い対話が必要。
 このため大企業でも、100人でも200人規模の中小企業を作り
 中小企業の社長のリーダーシップを発揮させる 提案をしている。


○ ドラッガーの引用
 対談で常盤さんが強く残っている言葉

「企業経営は経済の枠内だけで考えるべきではない。社会の動きのなかで見ていくことが重要だ」

その後の著作でも
◎ 企業は利潤をあげるだけでなく、社会的に貢献してこそ価値がある

と今日のCSRにつながる企業の社会倫理について論じている。



                     以 上