「捜査指揮 − 判断と決断」
岡田 薫 (元警察庁刑事局長) 東京法令出版)
この本は家内がいいこと書いてあるから、お父さんも読んでみたらと渡されたものでした。
内田康夫ファンの家内は刑事局長著ということで手にとったようです。
現場派の方である。
・物事に批判的な勝負師の話を聞くこと
・雑用をいとわないこと
といううモットーからもよくわかる。
そして批判を恐れず犯罪を追え!と強調している。
こういう人が日本の治安を守ってくれているのだと思う。
昼行灯ということばが会社で出たときにまっさきにこの本の記述を思い出した。
それが、以下である。前文を引用しよう。
「夏炉冬扇」(かろとうせん)という難しい言葉がある。
「夏の炉」「冬の扇子」ということであるから、役にたたないものの代名詞あるい
は
時期を失しているという意味であろう。
また、似たような言葉に「昼行灯」(ひるあんどん)がある。
兵庫では、大石内蔵助がその代表であろうか?。しかし、彼の場合は、「昼行灯」
の
ふりをしていたのであるから、本当の「昼行灯」とは違うことになる。
吉川英治の宮本武蔵には、吉野太夫が「いつも張りつめてばかりいたら、簡単に
斬られてしまうに違いない」と、吉岡伝七郎との決闘から帰った武蔵に言って、
琵琶を割って中を見せ、わずか4本の弦からの複雑で細やかな音色は、横木の弛み
から
生まれるものだということを示す場面がある。武蔵22歳の時である。
刑事はもちろん、警察官は、いざという時に頼りにならなければならない。
さらに言えば、「いざという時に頼りになる上司」、もっと言えば、
「いざという時に頼りになる部下」にならなければならない。
張りつめすぎてもいけないし、あるいは「夏炉冬扇」「昼行灯」になってもいけ
ないが、
そのふりをしなくてはならないことはある。もちろん普段から頼りになっていいの
であるが、
警察官はいざという時こそ頼りにならなければならない。
------------------------------
「切れた糸をつなぐのは難しい。その難しさを知るものが結ばれたものの大切さを知る」
「失敗のほうが成功よりも教訓が多い」
(広報の姿勢)
警察にとって支障のないことでも、関係者にとっては非常に重要なことがある。
また、殺人事件のような重大なことではあるが、やむをえないという事情をある程度説明して
完全に納得できなくても分かってくれることがあるということである。
この点をよく踏まえて、広報をやっていかないと大きなトラブルを起こすおそれがある。
「ラブホテルのような場所で殺されたということであれば、少なくとも事実関係について、
もう少し確認ができるまで、あるいは、被害者の両親が納得するまで、私は広報すべきではない
という判断をしました。これは刑事部長の責任。捜査本部長としての私の責任です。
ご批判があればいくらでも受けます」
と説明して記者の納得してもらった。
マスコミの対応で気をつけないといけないのは
「十を知って一を語る」
その場限りの自分の都合で、いい加減なことを言わないこと。
◎ 幹部の大事な資質は「判断力」だ。
「事の軽重の判断、緩急の判断力」である。
スルーの指揮官、幹部になるな!
自分でしっかり考えよ。
◎ 決断とは捨てることなり
ただ闇雲に捨てればいいわけではない。
最高幹部にとって最も重要な資質は「簡単に決断しないことだ」という言葉もある
◎ 私心を捨てよ
人を率いて動かすとき、「自分がいいところを見せてやろう」というような私心を持っていると
全体としては失敗することが多いように感じている。
腹をくくらねばならないとき、「オレはここでいい格好をしようと思っていない。
被害者の安全を確保するために最も大切なものはそれなんだ」と、思ったのかどうかということが大事なのである。
◎ 質のよい経験を積む
単なるラッキーでは終わらさず自分のものにする。
◎ 被害者というレール
岡田さんは寺尾さんという方の言葉を非常に大事にしている。
その中でも、この文章は珠玉のものだと感じた。
全文を引用する。
我々は被害者の存在、気持ちを忘れてはいえkないのだなあということを、つくづく思いました。
難しいからといって逃げていると決していいことはない。難しいほどやっていくべきものだということを
このときに感じました。
(父親殺しの犯人を2年前に乗せたタクシー運転手を見つけて逮捕したときに被害者の娘さんからとても感謝された)
それ以後、私は、
「難しいことには背をむけないでやっていくことによって捜査指揮官は育っていく」のではないかと、ずっと思っています。
捜査をするとき、捜査指揮をする上で間違わないためには、「被害者が原点」であるということを忘れてはいけない。
たとえ話で言うと、「被害者というのはレールみたいなもの」ではないかということです。
彼らの上で捜査するか限り、いつかは駅(事件解決)に着くのだけれども、被害者を忘れてしまえば脱線してしまうのです。
捜査官としての熱い思いとおもいやりがあって、被害者というレールの上を走っていけば、必ず駅に着くのだ。
◎ しったかぶりをせず、部下より働く
経験があって、ちょっと癖のある部下を指揮するためには、自分が人一倍努力し、苦労しなくてはいけない。
そのような部下を動かすにはどうすればいいのかというと、それは知ったかぶりをすることではないし、
「階級が上だから」と偉ぶることでもない。
その人よりも多く働くということしかない。その人たちに「あの軽侮は、ど素人だけれども少なくともオレよりは仕事をしている。
オレよりは努力している」と思わせるようにしなければ、誰がついてくるであろうか。
(参考)
著者に会いたい
http://book.asahi.com/author/TKY200706270185.html
(リンクの仕方がわからないのでとりあえず関連ページの紹介のみで)