「トヨタ流仕事の哲学」(カルマン社長 若松義人著、PHP)
(ポイント抜粋)
・「一口に申せば、やらねばならぬことはやる、やるからにはトコトンまでやる、
万難を排してどこまでもやる、ただそれだけのことである」
(トヨタ中興の祖といわれる石田退三)
・「特別な秘策みたいなものがあるわけじゃありません。当たり前のことをきっちり
習慣として抜かりなくやるだけです」(豊田英二氏)「ごく常識的なことを、
きわめて常識的にやっているにすぎません」(トヨタ役員)
・ トヨタと他の会社の違いがあるとすれば、この当たり前へのこだわりだ。
「日々改善、日々実践」という言い方をする。
五十年以上にわたる地道な改善の積み重ねが、かつて危機に陥ったトヨタを、
今日の地位にまで連れてきてくれたのである。トヨタ流の基本は「人間はすごい」
であり、「人間の知恵に限界はない」だ。
@改善哲学
・トヨタ流改善は、ニーズに基づいて行われる。ニーズのないところで行われる改善は、
ただの思いつきに終わったり、投資に見合うだけの効果がえられないことが多い。
スタッフが頭の中で考えた改善が、しばしば現場に混乱を招くだけの結果に終わるこ
とがある。
スタッフとしてはとても良い案のつもりでも、現場の実情を反映していなかったり、
現場が必要性を感じていなかったりすると、「よけいな仕事を増やしてくれて」と
不評を買うだけになってしまう。「改善は初めにニーズありき」が、トヨタ流改善の
基本哲学だ。改善は、すべてを一度に変える必要はない。もっともニーズのあるとこ
ろに焦点を絞って、できることから一つずつ手を打っていけばいい。それがやがては
次の改善へとつながる。改善が改善を呼ぶ好循環−これこそ、トヨタ流改善の真の姿
である。まずは現場に即して「ニーズはどこにあるか」を見極めよう。改善は、ニーズ
を前提にしてこそ効果を発揮する。ニーズのない改善は、支持も得られず、効果も期待
できない。
・トヨタ流は、「部分改善ではなく全体改善を」と考える。企業の生産改革を行う時、
一番やってはいけないのは、やりやすい部分を中心に改善することである。
トヨタ流改善には、現場の知恵が欠かせないが、現場は一気には変わらない。
「モノをつくる前に人をつくる」ために、時間が必要だ。最後までやり抜くには、
相当な覚悟が求められる。抵抗に負けずに改善をやり抜いた人や組織だけが、本当の
仕事力を身につける。自分たちが知恵を出し、自分たちの手でやり遂げたという自信
を得るのである。すへての工程、すべての部署を貫く一気通貫でなければ本当の改善
とはなりえない。仕事は「全体最適」を意識しながら進めることが大切だ。
全体最適を忘れ、やりやすいところ、簡単なところ、効果の出やすいところばかり優先
させていると、やがて破綻をきたすことになる。「部分改善ではなく全体改善を」は
困難な道だが、これなくして競争力は養えない。
・トヨタ流改善に「これでいい」はない。「もう大丈夫」という頭があると、それ以上
の進歩や向上が望めなくなるのだ。トヨタ流は、「一つ改善すると、必ずその下には
次の改善の芽が出ている」と考える。「昨日改善したことも今日はだめなんだと考え、
「改善したところをまた改善して、さらに改善する」のがトヨタ流だ。絶えず現状を
改善し続けることが必要だ。現状に満足せず、少しでも改善する。そうすることで、
お客さまの一歩先をいくことができる。後追いはビジネスではない。
・ときにコストを理由に安全をおざなりにする愚を犯す人がいるが、働く人の気持ちを
無視してコストカット一辺倒で臨むと、とんでもないしっぺ返しを食うこともある。
トヨタ流に「原価の見える化」という言い方がある。原価をガラス張りにして、コスト
削減の基準を明示することだ。原価が見えて、問題の所在がはっきりするからこそ、
改善による原価低減が可能になる。味や品質、サービスの質を犠牲にしたり、社員の
志気を低下させたりするやり方を改善とは呼ばない。
・多くの問題を抱える企業が、「法令遵守第一、お客さま第一、安全第一」などたくさん
のスローガンを掲げる気持ちはわからないでもない。ただ、あまりにもたくさんの「第一」
を掲げてしまうと、本当の第一がぼやけてしまうのではないか。
ヤマト運輸の小倉昌男社長は、安全も能率もどちらもしっかりやれと言っていた時分は、
どちらも中途半端であり、労災事故も多かったという他社の話を聞き、
「安全第一、営業第二」のポスターを掲げ、本当の第一は安全であることを強調した結果、
労災事故は少しずつ減少した反面、営業はむしろ活発になっていった。
以来、「何が第一で、何が第二かをはっきり指示すること」が社長の役割と考えている。
・企業でも個人でも、やるべきことや、やりたいことがたくさんあると、つい「あれもこれも」
となってしまう。たいていは全てが中途半端に終わる。仕事は「何が第一か」をはっきり
させることで始まる。そこに集中すれば、自然と力がつき、いつの間にか第二、第三も
実現できるようになる。
・トヨタ流改善は、ベンチマーキングを基本としている。ベンチマーキングとは、ベストな
方法に学ぶことだ。ベストと自分との差異を見つけ、それを埋めていく。だから、良いもの
は貪欲に学ぶ。ただし、無批判に取り入れることはしない。いい面だけ、自分たちに合う
ものだけを取り入れる。なおかつ、そのままではなく、必ず改善したうえで導入する。
機械でも、システムでも、必ず「人間の知恵」をつけるのがトヨタ流だ。
・無批判な導入は問題を引き起こす。成果主義がそうである。目先の成果を重視するあまり、
簡単に達成できそうな目標ばかりを掲げる弊害が起きている。長い時間を要するテーマや、
達成困難に思える目標に果敢に挑戦するチャレンジ精神が失われていくのだ。
個人の成績を重視するあまり、チームプレーに問題が生じるという問題も起きている。
負の側面を無視して、成果主義の良い面ばかりを見て導入を急いだ結果、大幅な修正を迫ら
れている企業がすくなくないのである。
・トヨタ流改善は、高い目標を掲げるところからスタートする。目標は高く掲げる。
そのための課題は、それだけ改善の余地があり、進歩できるということだからだ。
そして、歩みはあせらず着実に、だ。
・夢や目標を達成できるかどうかは、そこに至る過程をどれだけ認識できているかで決まる。
到達目標が見えていて、届かない距離がわかるからこそ努力できる。課題が多いのは恥ずかしい
ことではない。喜ぶべきことだ。課題が少ないのは、目標が極端に低いか、課題が見えて
いないかにほかならない。「課題がある」ことは「改善の余地がある」ことであり、
「伸びる余地がある」ことにほかならない。
・「会社の信条・綱領をつくったなら、強固なまでにそれを守らなければならない。
守り続けようとしてこそ、次に伝承されていく」(イトーヨーカドー名誉会長の伊藤雅俊氏)
「組織のカルチャーは放っておくとすぐに崩れるものです。いつもカルチャーをメンテナンス
して磨いていないといけません。企業の衰退は、その企業のカルチャーの良し悪しにかかって
います。カルチャーとは与えられたものではなく、経営の意志として、常に注意深く育てる
ものです」(セコム最高顧問の飯田亮氏・「経営の実際」)
・信条や理念は、額に飾って唱和していればいいというものではない。個人や組織に一本筋を
通すためには、信条や理念を「個性」「風土」と呼べるところまで徹底し、頑固なまで守り
育てる必要がある。信条や理念は育て続けなければ忘れ去られるのだ。トヨタには創業以来
受け継がれてきた、トヨタの思想や行動規範を盛り込んだ「トヨタウェイ」がある。
「モノづくりは人づくり」であり、グローバル化の時代にあっても「トヨタウェイ」を理解
した人財がモノづくりに携わることでいいモノができるというのがトヨタ流の考え方だ。
企業も人も変化を怠るとあっという間に時代に取り残される。
一方で「志」は絶対に変えてはならない。変えていいものと変えてはいけないものをきちん
と見極める。守るべきものは守り、変えるべきものは変える。そこに本当の強さが生まれてくる。
・人にも企業にも時代に合わせて変えるべき部分がある。日々改善し続けることこそが、強さ
を維持する秘訣だ。一方で、人や企業には、簡単に変えてはいけないものもある。企業なら、
操業の志ともいえる信条や理念があり、長年にわたって培われた風土がある。これらは、
強固なようで、放っておくとすぐに忘れさられたり、変質したりしてしまう。信条や理念
を忘れ、踏み外した時に、しばしば不祥事が起きる。守るためには不断の努力が欠かせない。
A問題解決の哲学
・トヨタ流に「原因の背後に真因がある」という言い方がある。問題が生じた場合、
「原因は何か」だけではなく、「本当の原因は何か」が重要になる。原因の向こう側に、
真因(真の原因)が隠れているのではないかと考える。
そして「なぜ」を五回繰り返して原因を掘り下げていく。そうすることで初めて本当の原因
も分かるし、正しい対策を打つことが可能になる。それがトヨタ流の問題解決のスタートである。
深堀りをしないままに表面的な原因だけに対応してしまうと、対策は中途半端なものとなり、
結局は再び同じような問題を引き起こすこととなる。場合によっては、重大な事故につながる
ことも少なくない。二度と同じ問題を引き起こさないためには、多少時間がかかったとしても、
本当の原因を見極めることだ。そこに徹底した再発防止策を施すのがトヨタ流の問題解決法だ。
・モノが売れない理由を外的要因ではなく、「お客さまのニーズに応えるモノづくりができてい
ないから」という内的要因に求めるのがトヨタ流だ。売れないのは、「お客さまが欲しいモノ
を提供できない自分たちが悪いからだ」と考える。お客さまとのズレを認識することで、
初めて改善に着手することができる。
・トヨタ流の問題解決で何が大切かと言えば、「答えは自分で見つける」だ。上司の意見を聞く
にしても、自分の答えを持って聞きに行く。そうすることで「自分で問題点を発見して、
解決策を考える」ことのできる人間に育つ。「何が問題か」を自分で考え、答えを自分で見つ
けるのがトヨタ流である。
・トヨタ流に「問題があっても代案を考えないのは『越権行為だと遠慮する』のではなく、
責任転嫁である」と言う言葉がある。部門の壁を超えて自由にものが言い合えることが、
改善がいつまでも続くための最大の秘訣。縄張りにこだわるのはやめにする。
見て見ぬふりや責任のなすり合いからは何も生まれない。みんなが一つのことに関心を持ち、
お互いに気づいたことはなんでも言い合える関係を大切にする。第三者から言われて気づく
ことはたくさんあるし、たくさんの知恵が集まることで人は成長し、企業の競争力は確実に
増していく。
・問題が発生した時には、「なぜ」を最低五回繰り返すのがトヨタ流だ。応急処置をトヨタ流では、
「修繕」とよぶ。真の原因を取り除いて、二度と同じ故障が起きないようにすることが「修理」
である。表面的な原因だけに手を打って真因を解決していない「修繕」とは、はっきり分けて
考えている。トヨタ流の問題解決法は修理であり、修繕であってはならない。
問題を繰り返さないためには修理が必要であり、そのためには真の原因を突き止めることが
不可欠だ。だからこそ真因追求には妥協が許されないし、時間をかけて取り組む根気も必要になる。
・数字に惑わされずに事実を重視するトヨタ流には、もう一つ「平均でものを見るな」という
考え方がある。トヨタ流は「一番短い時間が一番楽なやり方だ」と考える。平均値に目を奪
われすぎると、改善の機会を失うことになる。
・世の中が変化することで、常識はどんどん変わっていく。
「常識だから」の一言で片づけるのではなく、仕事のやり方を常に見直していく努力が欠かせ
ない。改善を怠れば、常識は、あっという間に非常識に変わる。
・誰にでもできる仕事、慣れた仕事の繰り返しは楽でいい。だが、それでは知恵の出しどころが
ない。知恵の出ない仕事は人をダメにし、やがては仕事そのものがダメになる。
簡単にはできない困難な仕事だからこそ、やり遂げようと知恵も出るし、創意工夫をこらす
ことになる。トヨタ流は、時に積極的に人を困らせる。困った状態の中で「なんとか楽にな
りたい」と知恵を出すことを繰り返すうちに、知恵を出すことが習慣になり、問題解決がで
きる人間になっていく。安易に走ると人も企業も進歩がないばかりか、退歩してしまう。
時にはあえて困難な課題に挑戦することが大切だ。困らなければ知恵は出ない。
困った中から生み出された知恵こそが本物になる。
Bトヨタ流行動哲学
・トヨタ流に「課題のない報告は認めない」という考え方がある。報告に当たっては、
「○○が良かった」「○○が参考になった」と具体的にふれるのは当然として、さらに
「仕事のやり方や会社のあり方にはこういう課題があり、このように改善していきたい」という
突っ込んだ課題認識や提案が欠かせない。
・コンブライアンスや、CSRがブームになっている。不祥事が相次ぎ、企業のあり方が厳しく
問われる時代だから、当然の話である。だが、それでは問題を起こした企業が、コンブライ
アンスやCSRを織り込んだ行動指針を持っていなかったかといえば、そんなことはない。
ほとんどの企業が立派な行動指針を持っている。問題は、行動指針がただのかけ声に終わり、
行動につながっていなかった点にある。書いたこと、考えたこと、決めたことを実行に移すのは、
それほど難しいことだ。
・何事も「やってみて、目で確かめる」のがトヨタ流だ。やればわかるが、やらなければ
いつまでもわからないままだ。実践した結果、失敗することもある。それでも失敗を目で
確かめた分、次に打つ手はもっと研ぎ澄ましていくことができる。それを成長という。
・トヨタ流は何より実行を重んじるが、実行にもいくつもの段階がある。問題に気づいたら、
すぐに改善するのは当たり前だ。トヨタ流の「実行する」には、その先がある。改善の結果は
きちんとフォローだ。それも数字だけではなく、人の気持ちも含めてのフォローだ。そのうえで、
良い結果が得られたなら、ノウハウを他のラインや部署にヨコテン(横展開)することが求められる。
・トヨタ流改善は、小さな気づきを大切にする。決められた通りにやってみた結果、いろいろな
ことに気づく。やりにくさやしんどさ、さらには「このほうがいいのでは」という気づきだ。
こうした気づきをもとに、より良い方法へと変えていく。それが改善だ。何かを変えていこうと
行動すると、たしかに抵抗に会う。抵抗勢力と戦うしんどさを思うと気がなえ、「自分一人が
不便を我慢すればいいか」と、つい妥協してしまう。その場はそれで丸くおさまるかもしれない。
だが、妥協の繰り返しからは何も生まれない。間違った規則は変えなくてはならない。
そう考え、そう実行しなければならない。
・トヨタ流に「言い訳をする頭で実行することをかんがえよ」という言葉がある。
やりたくないために、やる前から「できない理由」ばかりを考える態度を戒めたものだ。
すぐれた企業は危機感をバネに、企業体質の強化をはかる。
一方、ダメな企業は、問題の先送りを続ける。
不振の原因を内部に求めるのではなく、経営環境の悪化という外の要因に求めて、
企業体質を改革するチャンスをみすみす逃す。
こうしたことの繰り返しが、企業間の大きな格差を生むことになる。
・トヨタ流のモノづくりに、安全と整理整頓は最優先事項だ。「モノをつくる前に人間をつくる」
のがトヨタ流の基本だが、肝心の働く人の環境に問題があっては、それどころの話ではない。
原価をいかに安くつくるかは大切だが、時には原価を犠牲にしてでも守らなければならないもの
もある。安全というのはそういうものだ。
・まず、いらないモノを整理する。そのうえで、ほしいモノがいつでも取り出せるようにするのが
トヨタ流の整理と整頓だ。
・スポーツもモノづくりも商売も、すべては基本の徹底度が試される。
基本ができていないのに新しいことをやってもうまくいくはずがない。
仕事は基本を地道に、愚直に、徹底的に守る。それを継続できるかどうかが大きな差になってくる。
・あきらめが最大のハンディになる。心の中から「ムリです」「できません」を追い出そう。
「できる」「やってみよう」という前向きな気持ちが不可能を可能にする第一歩だ。
・人も企業も、基礎工事をしつかりやっていれば、危機を乗り越えることができる。
大切なのはその後だ。なんとか危機を乗り越えたことでほっと安心してしまう人がいる。
「当分は大丈夫だろう」と基礎工事の修復がついおろそかになる。
次の危機に際して、そこが致命傷となる。トヨタ生産方式の基本は「限量経営」にある。
売れるモノだけをつくり、売れないモノはつくらない。かぎられた量を、良くて、早くて、
安くつくる方法を徹底してきた。高度成長でも低成長でも、マイナス成長でも稼げる仕組みだ。
高度成長の時代にもこうした仕組みを営々とつくってきた。それが、今のトヨタの姿なのである。
Cトヨタ流失敗の哲学
・誰も経験したことのない困難に直面すれば、たいていの人は音を上げる。しかし、トヨタ流は、
「誰も経験したことのない事態だからこやりがいがある」と考える。
「危機はチャンス」であり、困難に直面した時に最後まで頑張るか、途中であきらめるかで、
人間の強さ、仕事の値打ちが決まってくる。
・問題が生じたと時、トヨタ流は「不良はみんなの見えるところに」だ。不良を隠すと、
ムダの放置につながるわけだ。それは、もっと大きな不良を招く恐れがある。だからこそ、
「不良はみんなの見えるところに」が重要になる。これは生産現場にかぎった話ではない。
間接部門であろうと、開発部門、販売部門であろうと、何か問題が生じた時には、
問題をみんなの見えるところに出して、二度と同じ問題が起きない対策をとるのがトヨタ流だ。
・不祥事が続く企業を見ていると、たいていの場合「情報の壁」が存在している。
いい情報はすぐに伝わるが、悪い情報にはフタをする体質のことだ。トップの権力が強すぎたり、
幹部が官僚化したりすると、部下は失点を恐れて悪い情報を隠し、そのうちに、必要な情報さえ
あげなくなってくる。責任追及が先に立つと、バッド・ニュースは上司のもとに届かなくなる。
「誰が悪いのか」よりも、起きてしまった問題をいかに解決するかを考える必要がある。
それが上司の役割である。
・トヨタ流は「失敗の記録」をつけることで、失敗を改善のヒントとして活かしている。
「失敗の記録」は、小さなミスでも二度と繰り返さないよう、各人が失敗した理由と対策を
書類に書き込んで保管するシステムだ。担当者が変わっても、事例集をチェックさせれば、
同じ過ちを繰り返す恐れはない。一つの部署や工場やグループ企業で成果があった知識や
改善事例は、そのノウハウを他の部署や工場、グループ企業に拡げることだ。
トヨタでは、成功例だけでなく、失敗例もヨコテンにしている。
・トヨタのトップは、新しいアイデアを生む努力をせず、新しい挑戦をしない者を叱るが、
努力し、挑戦したが失敗した者は叱らない。上役の役目は、部下のアイデアや挑戦を批判する
のではなく、助けることだと言われてきた。そのため試行錯誤ができる。
「失敗を重ねても、次にまた挑戦し続けるためには、ほめて育てる加点主義も必要だ。
『今回は結果自体は失敗に終わったけど、君の研究に対する取り組みは良かったよ』と励ます。
やりがいが成果に、その成果がやりがいにと、プラスの方向に回転していく。」
(田中耕一「生涯最高の失敗」(朝日新聞社)
・トヨタの強い体質は治療によってではなく、むしろ『予防医学』によって作り出された。
故障や事故は起きてからあわてるのではなく、未然に防ぐことができる方策を日頃から徹底
することだ。それがトヨタ流である。危機管理は、事故やトラブル、異常の発生を前提に、
「起きた場合はどうするか」「起こさないためにはどうすればいいのか」を考えていくことだ。
・トヨタ流は「変化への対応力」を重視する。中でも、現場の「微調整」機能を大切にする。
計画を変更するにしても、いちいち稟議をきり、会議を開き、一つ一つ指示して回っている
ようでは柔軟な対応はむずかしい。トヨタ流は「かんばん」などを使うことで、細かい指示が
なくとも、現場ではその程度の微調整は可能になっている。
ムダな在庫を抱えず、売れるモノだけをつくるためには、こうした現場の微調整機能が欠かせない。
・トヨタ流は「今やっていることが悪いんだ、ムダがあるんだ、改善の余地があるんだ」
という姿勢で日々改善に取り組む。大切なのは決して現状に満足しないという姿勢である。
現状を少しでも改善して、「進歩しよう」「向上しよう」という気持ちを持ち続けることが
できれば、人はどこまでも成長できる。
Dトヨタ流現場の哲学
・頭の中だけで考えた改善案は案外と役に立たない。座っているだけで得られる情報にも同じ
ことがいえる。本当のニーズ、本当の情報は外にある。
みずから出向くことをいやがっていたら、いつまでも本物に出会うことはない。
・過去のデータにはたくさんのムダが含まれている。データや数字の奥を知ることが必要だ。
データだけに頼るのではなく、自分の目で現場を見て、自分の頭で考える。
データの向こうにどんな問題があるのかを自分で発見して、解決していく。
データを活かすことは大切だが、データに振り回されてはならない。
・重要な一次情報は「現場」にしかない。何より「現場」や「事実」を重視するのが奥田氏の
やり方だ。トヨタ流に「失敗は目で確かめる」という言い方がある。何より現場を重視する。
現場に足を運び、自分の目で見て、自分の耳で聞く習慣をつける。現場感覚を磨く努力を
怠らなければ、間接情報に接した時にも、内容について的確な判断がつくようになる。
机上の議論ではなく、現場の実物を見て、実態を確認しながら仕事を進めていく「現地現物」
はトヨタ流の基本姿勢だ。現場を見ないからおかしなことが起きてくる。
反対に現場をしっかり見ていればたくさんのことが分かるし、仕事も地に足のついたものになってくる。
・小さなヒント、小さな気づき、小さな提案を大切にするのは、トヨタ流改善の基本中の基本である。
「一人で考えろ」というと、人間は、どうしても大きな婿とを考えてしまう。
大きなことというのは案外と役に立たないるのだ。実際に大きな効果を表す改善は、
小さなヒント、小さなアイデアを集大成してまとめ上げたものが多い。
「チリも積もれば山となる」は、改善にも言えることだ。
・「創意工夫は、ひらめきではなく科学であって、根気さえあれば誰にでもできる」がトヨタ流
の考え方だ。ただし、そのためには問題に対して「なぜ」を繰り返すことや、問題に対する
絶えざる関心を持ち続けることが必要だが、それさえきれば誰しもが「ひらめき」を手にする
ことが可能になる。
Eトヨタ流人間関係の哲学
・仕事は権限や権力でやるもんじゃないよ。自分の職務権限をどんなに大きくしたって、決して
いいモノができるわけではないんだ。現場の人たちに対する粘り強い理解と説得なんだ。
結局のところ、モノづくりは人づくり、人の指導の仕方いかんなんだ。(大野耐一)
・トヨタ流改善は。「個々の能率より全体の能率を」だ。一つの工程、一つのライン、一つの
工場が能率アップに励むこと自体は悪いことではない。しかし、仕事は前工程と後工程が
つながって成立している。一つの工程が前後と関係なく能率を上げる。他の工程が変わって
いなければ、せっかく能率を上げても、たとえば部品が十分に供給されずに手持ちが増えたり、
あるいはつくりすぎて後工程に大量の在庫が発生することになる。
・トヨタ流に「二段階上の立場で判断を下せ」という言い方がある。
自分の役職よりも上の立場、たとえば「課長なら、工場長ならどう考えるか」も考慮して
判断を下せとという意味だ。仕事は自分のライン、自分の部署の最適だけでなく、全体の最適
も考えて判断し行動するのがトヨタ流だ。個々の能力を伸ばすこと、それぞれの部署が力を
つけることはとても大切なことだが、それが「自分だけ」「自分のところだけ」になっては
流れは生まれないし、本当の強さにつながらない。仕事は全体のバランス、全体の流れの中で、
今何が必要かをしっかり考えることが大切だ。
・仕事には、一人でやり遂げられるものはほとんどない。
人と人が組み、人と人がかかわることで仕事は成立している。
そのためか、トヨタ流には「人間の和」に関するものがたくさんある。
トヨタ流は「品物をバトンと思って手渡しなさい」と考える。後工程の人がもたついていたら、
その人の持ち分を手伝ってあげなさい。そしてその人が正常の配置に戻ったなら、あとは任せて
すぐに自分のところに戻りなさい。お互いの仕事の間に線を引くのではなく、お互いに助け合って、
チームとしての仕事をやり遂げるのがトヨタ流だ。仕事は相手の役に立ってこそ価値を持つ。
相手の気持ちになり、どうすれば相手はより良い仕事ができるのかを考える。
改善はお客さまのためにある。後工程を無視した「自分だけ」「自分のところさえ」の改善は
本当の改善にはなりえない。あいてを活かす仕事が結局はチームを強くして、自分も成長させてくれる。
・たとえ言いたいことがあったとしても、「気まずくなるのはいやだから」と我慢する。
相手のご機嫌ばかりをとって、いい子になろうとする。その時はお互いそれでいいかもしれないが、
結局は業績が低迷してみんなが困った事態に追い込まれる。
仕事にはお互いに厳しいこと、言いにくいことも言えるだけの信頼関係が欠かせない。
仕事は社内はもちろんのこと、社外を含むネットワークによって成立している。
すべてが遠慮することなく気づいたことはなんでも言い合うという関係が必要だ。
気づいたこと、感じたことがあれば相手が誰であれ、きちんと改善提案をする。
同時に第三者からの指摘には謙虚に耳を傾ける。そこに信頼関係が生まれ、お互いの成長がある。
・「協力会社とともに知恵を絞る」というステップを踏むのがトヨタ流のやり方だ。大野耐一氏の
すごさの一つは、協力会社に対するトヨタ生産方式の徹底した指導にある。
その指導は徹底したもので、ただ言葉で指示を出すというのではなく、協力会社の人たちと一緒
になって現場に入り込んでやる。生産改革というのは権限や権力だけでどうにかなるものではない。
協力会社、何より現場の人たちとの信頼関係が重要になる。そのためにも一緒になって改善に
取り組むことが欠かせない。いったん指導を始めたなら、相手の企業がトヨタ生産方式を完全
にマスターして、その成果を上げるまで、根気よく指導を続け、途中で投げ出すようなことは
絶対しない。当時、協力会社に対して、これだけ集中して、しかも継続的に指導する方法を
とったのはトヨタだけといえる。以来、このやり方が伝統となっている。
・「世界に目を向ければ安いモノはいくらでもある」と安く買える会社を探して買うのではなく、
どうすればいいモノをより安くつくれるかを協力会社と一緒に知恵を絞る。
いわば「買って育てながらコストを下げる」のがトヨタ流だ。
資本の理論が支配する企業間の取引も、どちらかが一方的にムリを言い、相手の利益を収奪する
ようでは決して長続きはしない。相互の信頼関係をベースとする共栄共存こそが理想といえる。
個人の仕事にも同じことがいえる。仕事は人と人のつながりで成り立っている。
この人とだったら君でいい仕事ができる、この人となら一緒にやりたいという他人の評価が
なければ前へ進めない。
・トヨタ流は「百人に一歩ずつ」を重視する。トヨタ流には、「休まずたゆまず一歩ずつ前進する」
精神が貫かれている。たとえば改善は一人一人の気づきや、小さなヒント、小さな提案を集大成
することで大きな効果が出るものへとまとめあげられていく。
改善の効果も一気に何かが大きく変わるというほどのものではない。
それでも「日々改善、日々実践」を積み重ねていくことで、小さな改善も「チリも積もれば山となる」だ。
気がつけば景色が変わるほどの大きな変化が生じることになる。
組織の変更などもトップダウンで一気に変えるというよりは、全員に改革の趣旨を説明し、
充分な納得を得たうえで動き出す。多少時間はかかるが、このやり方のほうが一過性ではない、
地に足についた改革となる。トヨタ流改善は昨日よりは今日、今日よりは明日と少しでもより良いものへ
かえていこうという社員の「あと一歩」によって支えられている。
仕事はいきなり「一人の百歩」を狙うとムリが生じる。
「あと一歩」の気持ちで日々改善日々実践に励む。
それを続けていると、「五歩」「十歩」と急速に歩むことのできる瞬間が訪れる。
やがて後ろを振り返った時には「百歩」よりはるか先に進んでいることに気づく。
・トヨタ生産方式を実践しているある企業では、改善提案の一つ一つについて、役員が現場に
足を運んで話を聞くようにしている。担当者自身から改善提案の趣旨や効果の説明を聞くためだ。
改善活動に報奨金で報いるのも一つの考え方だが、同社は報奨金の尚りも、「話を聞く」ことを
重視する。自分たちの改善提案に、役員が真剣に耳を傾けてくれれば、「認められた」という
満足感を誰もが感じる。これこそが最高の報奨だというのが同社の考え方だ。改善を自分たち
の手で進めることができる職場が、こうしてつくられる。この世の中にダメなアイデアという
ものはない。どんな小さな気づき、小さな提案も決しておろそかにすることなく、それらを
集大成してより効果的な改善提案にまで育て上げていくのがトヨタ流だ。仕事は「なるほど」
と話を聞くことから始めるといい。
「なるほど」から言葉が始まる人のところには、たくさんのアイデア、たくさんの知恵が集まってくる。
以 上