日本原子力学会「原子力発電部会」主催
第1回「他産業との保全交流会」
航空機の整備について(日本航空)
1. 日 時 : 2002年8月30日(金) 13:30〜16:45
2. 場 所 : 日本航空(株)羽田整備場
3. テーマ : 「航空機の整備」について
13:30〜15:00 航空機の整備に関する紹介
15:00〜16:00 整備状況見学
16:00〜16:45 質疑応答
(概要)
原子力学会の異業種交流の第1回でJALの整備工場の見学に参加(参加者:20名)した。
航空機のメンテナンスは原子力が目指している保守方式を完全に実施している感がある。
検査のあり方としては完全に監査型。国が直接行う検査はない。
ただし、機種毎に整備点検間隔は国土交通大臣の認可マターとなっておりおいそれとは変更できない。
詳細点検整備は4〜5年に1回。
状態監視保全に完全に移行(95%)しているが、これはマイクロプロセッサ搭載により
モニタリングが可能となったことが大きな要因。
国内外で故障データベースの運用を行っておりうらやましい限り(業界内クローズ)。
保全費用は総コストの9%(人件費込み)と非常に低い。
非常に合理的で信頼性の高い保全が出来ていると感じた。
原子力の今の保全は航空業界では30年前のもの。
航空業界を参考にすれば今後かなりなことができるだろう。
(詳細報告)
0.集合から会場まで
原子力学会の異業種交流の第1回でJALの整備工場に見学に参加。
28人の申し込みであったが、東電は前日のデータ改ざん問題発覚のため若手1名のみの参加となり総勢20名の参加となった。
残暑厳しき中、モノレール整備場改札出口での待ち合わせは相当きついものがあった。
45分前の集合時刻を厳守したため冷房のないところでふうふういいながら待っていた。
1番乗りは乙葉さん。東電の問題で来られないのではないかと心配していたが、本日はこの調査団の団長として冒頭挨拶をするためと後でわかった。
歩いて3分程度でJAL整備場建物へ。先客で一般見学の方がやはり20名程度いた。
7階の会議室へ。
普段は整備士の養成のための講義を行う教室であるとのこと。
お茶は自分で自動販売機で買って下さいというまったくかまわないスタイルに好感を持った。
最初から最後まで品質管理部長1人(見学時の説明は2班に分かれたのでその時だけもう1人)で
で対応された。こういうところは見習うべきかも知れない。
品質管理部長の話はたいへん興味深いものがあった。
体系だって説明してもらえ、質疑も活発であり理解が深まった。
説明後は整備場内ではDC−10のM整備(4.5年に1度の大がかりな点検)を見学した。
1.JALの概要
151機のジェット機を保有。
国内48機、国際93機、貨物10機 (747を39機、747−400を32機保有)
保有機数では大したことはない(900機の航空会社もある)が国際線が主流なので売り上げでは世界でも上位。
羽田整備場は1000人。
作業をやる部署は賃金水準の関係から別会社化している。
2.航空機の変遷
航空機の変遷により信頼性が向上するとともに整備方法も変化してきた。
第1世代から第4世代へジェット機は変遷しており、その技術進歩と保全方法が関係。
第1世代 1950年代の707、DC−8
第2世代 1960年代の727、737、DC−9
第3世代 1970年代の747、DC−10、A300
第4世代 1980年代の767、747−400、A330、A340、MD−81、777
世代の区分はテクノロジーの相違。材料の進化もあるが主に電気システムで区分されている。
すなわち、
真空管 → トランジスタ → IC、集積回路 → マイクロプロセッサ(パソコン)、デジタル化
これに応じてコックピットの乗務員数も変化、 逆から言うと、
第4世代は 2人
第3世代は 3人 航空機関士1人が必要であった(マイコンが代替)
第2世代は 4人 国際線にはナビゲータ(専門職)が必要だった。
コックピットから潜望鏡を出して位置を確認していた。
(ICで位置確認可能となった)
第1世代は 5人 通信士が必要だった 昔はモールス通信(トランジスタで電話が可能となった)
電子の発展とリンクしている。
第5世代は20年以上たつがまだ出てこない。
1人乗り?はあり得ない。倒れたような時や、誤判断の場合是正できない。
したがってゼロ人乗りしかない。すなわち自動操縦。
ゆりかもめでは運転士なしの実績はあるが、飛行機では誰も乗らないだろう。
パイロットは飾りの1人で、実質自動運転の飛行機。これは実現するまで随分かかるだろう。
以上世代を説明したのは整備と密接に関係しているからである。
3.整備の概念
HT Hard Time ある時間で交換
OC On Condition 定期的検査でチェック
CM Condition Monitoring 壊れるまで使う
第1世代の真空管の時はHTだった。真空管のフィラメントはよく切れた。
オーバーホールも同じ概念。
それが新品にしたハズがよく故障する。
初期故障、ヒューマンエラーでいじり壊したようなことがよく起こった。
オーバーホールで出てきた飛行機がよくトラブルを起こした。
⇒ 何でもバラしてHTはよくない。何でもかんでもやるのはやめる!
On Condition 使用時間で不確定。定期検査で確認。交換ではなく検査。
タイヤの山、ブレーキシューの厚みなど
Condition Monitoring 電気系の進歩により故障形態が変化。
電気部品はランダムフェイリャーで定期的に交換する意味がない。
そこで壊れるまで使おうという考えに
そして壊れたら困るところは2重、3重にするという設計にした。
マイクロプロセッサで小さくなってきたのでいとも簡単に多重化が出来た。
どのくらいの部品がCMになっているか調べた人がユナイティッド航空にいた。
95%くらいがCM、4%がOM、1%がHT
今は壊れるまで使う設計となっている。
◎質問 OCの検査周期は?
(回答) さまざま。
後でまた説明するが数年〜数ヶ月とさまざまである。
故障率から導いて安全率をもって周期を決定している。
信頼性を上げれば周期を延ばせる。
故障率のデータは自社で持っているが、ワールドワイドのものと自社の両方を見ながら
自分のところが際だっていいものと悪いものがある。
際だって悪いのはどっかが悪い。
際だって良いものは他社が聞いてくる。
安全に関係する部分は何でも他社に公開する。
どこかで飛行機が落ちると多かれ少なかれ影響を受けることになるからである。
ワールドワイドのデータは比較的簡単に手に入るようになっている。
(公開か?と質問したところ、「インダストリーワイドに閉鎖的である」との回答。
公開した場合、こんなに飛行機で故障しているのかと不安全に思われるのがまずい)
整備項目がたくさんあるがそれをある時期に集中することができれば効率化できる。
12ヶ月を14ヶ月毎に出来れば150機も持っているので効果絶大である。
しかし、この間隔は大臣認可となっているので信頼性データをつけて航空局と折衝することになる。
4.機体の整備
間隔はジャンボ最新鋭747−400の場合
@ 飛行前点検 毎フライト(2時間)
A A整備 600飛行時間毎 (オーバーナイト8時間)
主としてエンジン、翼、脚などの外部点検。
B C整備 国際線6,000飛行時間又は18ヶ月の早い方 (7日)
国内線3,500飛行時間又は18ヶ月 〃 (7日)
パネルなどを外し諸系統の機能検査や作動検査など細部にわたって
詳細に点検・検査
C M整備 国際線 6年 (21日)
国内線 5.5年 (21日)
機体の構造的な点検や改修を徹底的(3000項目)に実施
もともとA〜D整備としてあったが、オーバーホールの概念は既になくなっており、
その項目Dがなくなっている。
これら整備の間隔は大臣の認可となっている。
国内線は離発着が多いので与圧をかけたり抜いたりする(機体を上空では膨らませる)ので
国際線よりは負荷がよけいにかかるので点検間隔が短い。与圧サイクルによりクラックが生じるので
ある。その発生確率、発見確率から点検時間が決められている。
日本は海外よりも保守的な期間設定になっている。
機体の進歩と実績により点検間隔は延びてきている。
M整備の状況は見学会の章で詳しくレポートする。
5.整備体制
約4000人規模
羽田事業部 1000人
成田 1200人
部品 600人
エンジン 500人
本体は高齢化で高い賃金となってきており、違う賃金体系の子会社を設立している。
また、海外にも出資してM整備が出来るように(中国、シンガポール)し、年間20機程度は
海外にやらせている。
これはピークカット方策である。M整備には波があるのでピークに合わせて人間を準備していたら
高くついてしまう。すなわち70〜80%の人員としている。オーバーした部分を海外にシフトしてやらせている。
ただ信頼性を保つため日本から10名程度のスタッフを1ヶ月派遣常駐させて目を光らせている。
部品については他の会社にも出す。特に電子部品は強いところがやることとしている。
JAL,ANA,JASで部品の整備を分担する取り決めを行っている。
また予備品そのものも共同でプールしましょうということになっている。
6.信頼性管理
・整備の実施
・データの記録
・データの処理
を行い解析し各種モニタリングプログラムの改善処置(検査周期、改善提案等)を行う。
他社データも参考とする。
重要なもの(不具合情報)は国土交通省航空局へ報告することとなっている。
国は(アメリカの連邦航空局(FAA)のように)これらの情報から「耐空性改善通報」
というものを出す。これが出されるとある期間内に指示されたことをやらないといけない。
その期間はいろいろあり、2日以内、今日中から長いのでは5年以内のものもある。
通常は故障率を0.1%アップする努力を航空会社が自ら行うことによって安全性が向上
してゆく。こういった活動のしくみを設けなければ航空会社として認知されない。
ただ、最近は保全そのものも委託してよいという風に変わってきてはいるが…。
◎質問 2重、3重にしているから大丈夫ということだが、1系統ダウンした場合、どのような
対応となるのか?
(回答)
この後説明するつもりでいたことと関係する。
10E-9/フライト時間なら起きない!ということしている。
10E-9/h 起きない
10E-6/h あまり起きない
10E-3/h 起きる
システム毎に10E-9/hとなれば故障は起きないと考えてよいということ。
どうしてもそれが達成できない場合に2重化、3重化をして達成する。
すなわち10E-3/hのものなら3重化すれば10E-9/hとなる。
10E-3/h×10E-3/h×10E-3/h=10E-9/h
そこで回答となるが、
1個故障では絶対に戻らない
2個故障でも 〃
というのも発生確率評価で、
正常なシステムが1個の場合 3日以内に直しなさい
〃 2個の場合 1週間以内に直しなさい
となっており、目的地へ着いてから直すので十分問題ないのである。
エンジンの場合、エンジンが2個の飛行機は1個落とすとすぐに最寄りの空港に降りることになっている。
4個ついている飛行機なら1個なら目的地へ行けるが、エンジンを交換する必要があるのでどこに降りるかはその都度決めることとなる。
◎質問 同じ原因で同時に故障することはないのか?
(回答) 部品は偶発故障なので同時発生は考えなくてよい。
ただし、同じ人が作ったソフトウェアは同時ダウンは発想としてある。
このためジャンボでは、制御システム(ソフト)を多重化しているが、全く違う会社に同じものを発注して2つ作り2重化した。
◎質問 3つ止まった例は?
(回答) 何件もある。
この場合は「耐空性改善通告」が出されることになる。
◎質問 航空機の寿命は?
(回答) 基本的にない。
経済寿命が来る時が寿命だ。
整備の労力とお金で元が取れなくなる時がくる。大体30年くらい。
胴体も翼もつぎはぎだらけで飛べる。
空港の環境性能要求が厳しくなり古い飛行機が結果として退役を余儀なくされることもある。 (ヒースロー空港 ペイントやノイズへの規制)
◎質問 メンテナンス費用は?
(回答)JAL151機の整備費用は、総額1000億円で総経費の約9%である。(人件費含む)
前に聞いたことがあるがJRの方がちょっと高かったようだ。
◎質問 国の検査はどのようなものか?
(回答)国が直接検査するものはない。
航空会社の行う検査がちゃんとやられているかどうかを見るのが国の検査である。
安全性確認検査と言われるもので、国の検査官が10名程度やってきて記録を
サンプリングチェックする。
書き方が悪いとか、ハンコがすわってないとか指摘される。
◎質問 機器の信頼性のことばかり言われているが人為的なもの、すなわち作業能力はあるか
まじめにやるか(これを社会意図の信頼性とも言う)、社内のモチモチベーション
の対策は?
(回答)これは一番悩んでいるところである。いい答えがあれば教えて欲しい。
いかにモチベーションを上げるかマネジメントが悩みまくっている。
本体は給料高いけど高齢化している。
片や若い整備員は安い給料で働いている。
整備員の気質が下がって来ているのを感じる。
モラールダウンをどうやって防いでいくか地道な活動はやっているが、決定打はない。
世界中で悩みまくっている。
整備士は国家試験+社内資格(社内資格の方が厳しい) 3直3交代
新しい技術がどんどん入るため常に勉強していかねばならない厳しい仕事だ。
7.見学会
残念ながらジャンボはドッグ(ハンガーと呼んでいた)に入っておらず、
本日はDC−10の第7回目のM整備の12日目を見せてもらった。
20人を二グループに分けて説明してくれた配慮が嬉しかった。
入り口 見学者説明用ボード
スクラップボックス。入れると取り出せない構造となっている。 ドッグの最下部。
ハンガー内の様子 機体の塗装は、はがして目視によるクラックチェック。
その後必要に応じて非破壊検査実施。
エンジンは最重要部。エンジン1台10億円だそうな。 双発タイプのジャンボでは1台15億円。整備も力が入る。
異常の見つかったエンジンは詳細検査が行われる。これがそう。
DC-10のエンジンはマイコンがついていないタイプ。 異常が発生した場合はプラグしている穴からCCDカメラを入れて検査する。
制服は2種類。JALの名前が入った整備士とそうでない整備士
整備場から外は滑走路。
2階に上がり機内整備を見学。塗装は取っている。まずは外観の傷をを目視検査。必要に応じて非破壊検査を実施。
機内中央部の検査。
イスやトイレなど装備は全部外す。
機体の外は−55℃にもなる。検査終了後保温材を取り付けているところ。
機内上部の空調ダクト
作業表がズラーっと並べられている事務所。
8.見学会後の説明、質疑
・海外整備工場への出資はもうかっている。
ボーイングも整備は儲かるというのがわかってウチもやると言い出している。
◎質問 エンジンをモニターしながら飛行していると聞いたがどういうものか?
(回答) エンジンの電子機器としてコンピュータ(マイクロプロセッサ)がついているので
常にデータを取れる。
そこから飛行機に搭載しているコンピュータにデータを送り、無線機で地上へ配信して
いる。
これを常時JALのエンジン事業部が監視している。
今や飛行機情報はリアルタイムで整備が見ているのである。
GEではそのサービスをエンジン修理契約でやっている。すなわち、エンジン1台当たり
1時間当たりのメンテナンス費用を保証します。その代わりデータを全部くれ。
そして、GEがモニターして必要な指示を出す。
エンジン1機は約10億円。何もなく飛んでくれれば儲かる。だから早めの手を打つことによりそういうことを達成しようとする考え。
MCPH : Machine Cost Per Hour 契約と言う。
50ドル(150ドルだったけ?)という非常に安い価格を提示してくる。
それにのっている航空会社も多いがJALは契約しない。自社でやる。
おおいなるGEの陰謀と見ている。そっちへ行っちゃダメだと思っている。
この契約によりエアラインの整備能力が低下してくると、ある日きっと値段を上げてくると思っている。
9.感想
大変役にたつ勉強会であった。
航空業界は原子力同様、高い信頼性が必要な分野であるが、その保全方法は30年先を行っている感がある。
原子力が遅れていると言ったほうが正解だろう。
いろいろヒントはもらえたと思う。
後はいかに実践につないでいくかであろう。