矢川 元基 教授 最終講義

3月8日(月) 16:00〜17:15
(システム量子工学専攻) 武田先端知ビル5階 武田ホール
「研究遍歴30年」


東京にいるおかげで最終講義に出席することが出来るのは嬉しい。
本日は矢川元基(やがわげんき)教授の最終講義に出かけた。
徳島城南高校出身で同級生も当社関係者には多い。

東大浅野キャンパス武田先端知ビル5階 武田ホール と案内されても
???

それもそのはずでこのビルは出来たばかりの建物であった。

http://www.utnp.org/articles/news/20040120n_takeda.html


350人ほど入るホールで来週は近藤駿介原子力委員長の最終講義も予定されている。

16時からであったのだが、まずはオープニングで度肝を抜かれた。

先生は現れず、弦楽四重奏のメンバーがいきなり登場し、演奏を開始。
全く案内も何もない。

第一バイオリンだけが男性で、あとの第2バイオリン、ビオラ、チェロとも
すべてチャーミングな若き女性。

もう演奏と美貌にうっとり。
3曲15分ほどの演奏であったがとても満足。
弦楽もいいなあ。CDでも買うか なんて思ったりして。

演奏終了後に弟子の吉村教授から紹介があったが、
矢川先生は東大の音楽部長であり、同部の有志が演奏を買って出たとのことであった。
矢川先生がチェロ奏者だったとは知らなかった。


最終講義は「研究遍歴30年」というもので、
パワーポイントに動画も活用してのわかりやすい内容だった。
文化系の知人(なぜか妙齢のご婦人がたくさん出席されていた)も多かったので
できるだけ平易に苦労しておられた。

「四角い窓と丸い窓」から入り、
構造的に厳しくなるほど窓は円くなる。 
一般車両 ⇒ 新幹線 ⇒ 航空機
窓のコーナーから亀裂が走る。

日航ジャンボ機墜落は隔壁にマルチサイドクラックが走り一瞬に破壊された。
亀裂があれば引っ張り力で破壊されやすい。
紙で実演。
何も亀裂のない紙はいくら引っ張っても敗れない。
しかし亀裂を少し入れただけで小さい力で簡単に破れてしまう。


原子力関係の構造問題解決に尽力された。

BWRの昔の応力腐食割れ
IHSI法の発見。引っ張り力を圧縮力に変えてしまえば亀裂があっても破壊されない。
この考えは最近のPWRのSCC対策にも活用されている。

LBB(Leak Before Bresk)
破断の前には漏洩があり、これを検知して止めることができればよい。
という考えに基づく合理的な考え方。
この日本への導入にあたって、矢川先生は実験、解析両面にわたって指導的役割をはたされ
導入ができた。
この意義は大変大きい。


PWRの加圧下熱衝撃
配管は壊れても仕方がないが、原子炉だけは絶対に守らねばならないということで
低温での高圧力化状態での厳しい問題が米国で問題になった。
日本ではそれほど問題にならず。

確率論的構造工学
この先駆的分野に後年先生は非常に熱意を持って当たられた。
私も部下のK君を先生の検討会(勉強会)に派遣していた。
しかし残念ながらまだLBBのように認知されるところまでは至っていない。


以上、原子力と破壊力学の復習をされた後は
複合問題(カップリング)に移った。

スペースシャトルの事故について、パソコンから動画を写して見せてくれた。
矢川先生自身、昭和52年?に助教授になりたての時「雑用から逃れる目的」で恩師の安藤先生に
頼んでアメリカへ行かせてもらった。
それがNASAでちょうどフェローの職があり、スペースシャトルの断熱材の検討というのがテーマ
で与えられた。そういうことで昨年の事故は大変ショックだったとのこと。

熱から構造材への影響  熱膨張により構造材が変化  というのはあるが
構造材から熱へ影響する ということはない!とされてきた。

ところが昨年の事故原因は、はがれた断熱材が熱遮蔽体に影響を及ぼしたものであった。

このように複合問題は大変難しい。

順問題 (解析)
逆問題 (原因探求 コロンボ的世界)
予測  (地球環境問題、地球的未来予測)

の順に難しくなってくる。
しかし計算機技術で挑戦してゆきたい。



最後の先生のまとめでは

工学には受け入れ体制と熟成が必要
(先生が熱心だった確率論や解析による設計手法が受け入れられなかった悔しさから
 工学は理学と違って新しいものが良いとは決してならない)

速い車を作るのと安全な車を作るのはどちらが工学的に難しいか?
 ⇒後者が桁違いに難しい

と日本の社会が工学的センスを受け入れられないことを少々嘆かれていたようにも
感じた。全く同感である。

最近のBSE対応の日米の違いからも欧米型と日本型は明かに違う。
そういう意味からはLBBは欧米型思考のものであり
これが取り入れられた設計となっていることは今となっては非常に
よかったと思える。


http://garlic.q.t.u-tokyo.ac.jp/people/yagawa/index-j.html